文献情報
文献番号
200100430A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子導入技術を使った細胞・遺伝子の特異的修復法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
島田 隆(日本医科大学第二生化学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺伝子導入技術の開発・改良を進めるとともに、組織幹細胞を標的とする遺伝子病の治療法を確立することを目標としている。遺伝子治療は、遺伝子の異常の修復を目的とする「遺伝子の治療」と、遺伝子を薬剤として投与する「遺伝子を使った治療」の二つの方向で発展してきている。「遺伝子の治療」は現時点では先天性免疫不全症の治療でしか成功していないが、将来的には遺伝子病の唯一の原因療法として、ますます重要になってくると考えられる。一方、「遺伝子を使った治療」は、癌や生活習慣病などの幅広い疾患に対する応用が開始されており、今後重要な治療法の選択肢の一つとなると考えられる。我々の研究室では、これまで長期組込型のウイルスベクター(HIV、AAV)を開発し、各種疾患に対する臨床応用の可能性を検討してきた。本研究では、更に「遺伝子の治療」を行うための基盤技術の整備を行う。具体的には、(1)遺伝子導入技術の開発、(2)多能性幹細胞の研究。(3)遺伝子修復技術の開発、の三つの課題について研究をすすめる。(1)では、ウイルスベクターの改良に加え、ハイブリッドベクターや非ウイルス合成ベクターの研究も進める。更に、安全性や効率の点で不可欠と考えられている細胞ターゲティング技術の確立を目指す。(2)では、遺伝子病の治療のための重要な標的細胞と考えられる、患者自身の骨髄中多能性幹細胞の分化能や遺伝子導入効率の検討を行う。(3)では、幹細胞の治療を行うために、遺伝子変異を起こさない遺伝子導入法の開発、及びミスマッチ修復技術を応用した遺伝子操作技術の基礎的研究を推進する。これらの研究により患者本人の幹細胞の遺伝子を修復することができるようになれば、究極の遺伝子治療である「遺伝子の治療」による遺伝子病の治療が可能になると考えている。
研究方法
(1)遺伝子導入技術の開発:HIVベクター及びAAVベクターは当教室で独自に開発した方法で作製した。新生児マウスを高濃度酸素に暴露させることで眼内新生血管病モデルマウスを作製した。コラーゲン投与により関節リウマチモデルマウスを作製した。異染性ロイコジストロフィー(MLD)及びFabry病のノックアウトモデルマウスは開発者より入手した。(2)多能性幹細胞の研究:移植時期や移植条件を検討することで骨髄細胞のほぼ100%をGFP陽性細胞で置換させたキメラマウスを作製した。(3)遺伝子修復技術の開発:レトロウイルスベクターで導入された遺伝子の変異頻度を調べた。オリゴヌクレオチドと日二本鎖DNAの相互作用をゲルシフトアッセイ、制限酵素感受性試験で検討した。in vitroでのミスマッチ修復アッセイ系を確立した。
結果と考察
研究結果及び考察=(1)遺伝子導入技術の開発:新生血管抑制因子であるangiostatin或いはendostatinを組み込んだHIVベクターの投与により、90%以上の眼内新生血管モデルマウスで有意な抑制効果が認められた。失明原因のトップである糖尿病網膜症や加齢性黄班症等の眼内血管新生病治療法の重要な選択肢になることが期待される。HIVベクターの膝関節内投与により関節炎モデルマスの滑膜の肥厚や炎症性肉芽組織(パンヌス)の形成が著明に抑制された。更に遠位足関節での炎症反応の抑制も認められた。これらの結果は関節炎の形成に血管新生が強く関与していることを示唆している。HIVベクターを使ったこれら生活習慣病の治療を将来的に行うべくベクターの安全性の改善を引き続き行っている。AAVベクターが神経組織や筋肉組織に高率に感染し長期間発現できることを利用して、MLD及びFabry病のモデルマウスの治療実験を行った。MLDマウスの脳内にAAVベクターを直接注入し経過を観察している。2ヶ月後の時点で既に
未治療マウスに比較して運動能力で改善が認められており、更に詳細な解析を行っている。Fabryマウスに対してはAAVベクターにより筋肉内で欠損酵素(alpha-ガラクトシダーゼ)を発現させ全身に供給する酵素補充療法の可能性を検討している。30週までの観察により血中及び各組織での酵素活性の上昇、脂質代謝の改善が効率よく起こっていることが認められた。更に免疫組織学的検討及び、電子顕微鏡による検討においても蓄積した脂質の除去及びそれに伴う形態学的改善が認められた。AAVベクターの筋肉内注射は血友病の遺伝子治療において安全性が確認されている。AAVベクターによるFabry病の遺伝子治療は現時点では最も有効性が期待できる治療法と考えており臨床応用を始める準備を行っている。(2)多能性幹細胞の研究:骨髄中の多能性幹細胞の有用性を検討するため、GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞をGFP陰性の通常のマウスに移植したキメラマウスを作製した。キメラマウスで炎症反応や梗塞を起こすと、その修復機転において多くのGFP陽性細胞が関与していることが明らかになっている。GFP陽性細胞の分化について詳細な検討を行っている。このキメラマウスは多能性幹細胞の研究を行ううえで重要な実験系になると考えられる。(3)遺伝子修復技術の開発:レトロウイルスベクターによる遺伝子導入ではクローンにして10%以上(1/10,000塩基対以上)の頻度で変異が導入されていることが明らかになった。癌抑制遺伝子や幹細胞を使った遺伝子治療ではレトロウイルスによる変異頻度を考慮する必要がある。変異導入機構の解明とともに、変異頻度の低いベクターの開発を進めている。導入されてしまった遺伝子変異を修復する技術としてオリゴヌクレオチドとミスマッチ修復酵素系を使った方法の開発を行っている。DNAテンプレートと一塩基ミスマッチをもつ各種オリゴヌクレオチドとの結合をゲルシフトアッセイ、制限酵素の感受性、ミスマッチ特異的結合蛋白質(MutS )との相互作用の点から検討した。又、LacZ遺伝子の修復を指標としたin vitroのミスマッチ修復アッセイを行った。その結果、単純な直線状オリゴヌクレオチドが最も効率良くテンプレートとハイブリッドを形成し、ミスマッチ修復系による塩基置換が起こることが明らかになった。
未治療マウスに比較して運動能力で改善が認められており、更に詳細な解析を行っている。Fabryマウスに対してはAAVベクターにより筋肉内で欠損酵素(alpha-ガラクトシダーゼ)を発現させ全身に供給する酵素補充療法の可能性を検討している。30週までの観察により血中及び各組織での酵素活性の上昇、脂質代謝の改善が効率よく起こっていることが認められた。更に免疫組織学的検討及び、電子顕微鏡による検討においても蓄積した脂質の除去及びそれに伴う形態学的改善が認められた。AAVベクターの筋肉内注射は血友病の遺伝子治療において安全性が確認されている。AAVベクターによるFabry病の遺伝子治療は現時点では最も有効性が期待できる治療法と考えており臨床応用を始める準備を行っている。(2)多能性幹細胞の研究:骨髄中の多能性幹細胞の有用性を検討するため、GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞をGFP陰性の通常のマウスに移植したキメラマウスを作製した。キメラマウスで炎症反応や梗塞を起こすと、その修復機転において多くのGFP陽性細胞が関与していることが明らかになっている。GFP陽性細胞の分化について詳細な検討を行っている。このキメラマウスは多能性幹細胞の研究を行ううえで重要な実験系になると考えられる。(3)遺伝子修復技術の開発:レトロウイルスベクターによる遺伝子導入ではクローンにして10%以上(1/10,000塩基対以上)の頻度で変異が導入されていることが明らかになった。癌抑制遺伝子や幹細胞を使った遺伝子治療ではレトロウイルスによる変異頻度を考慮する必要がある。変異導入機構の解明とともに、変異頻度の低いベクターの開発を進めている。導入されてしまった遺伝子変異を修復する技術としてオリゴヌクレオチドとミスマッチ修復酵素系を使った方法の開発を行っている。DNAテンプレートと一塩基ミスマッチをもつ各種オリゴヌクレオチドとの結合をゲルシフトアッセイ、制限酵素の感受性、ミスマッチ特異的結合蛋白質(MutS )との相互作用の点から検討した。又、LacZ遺伝子の修復を指標としたin vitroのミスマッチ修復アッセイを行った。その結果、単純な直線状オリゴヌクレオチドが最も効率良くテンプレートとハイブリッドを形成し、ミスマッチ修復系による塩基置換が起こることが明らかになった。
結論
HIVベクターによる眼内新生血管病及び慢性関節リウマチの遺伝子治療の可能性を示した。AAVベクターによる異染性ロイコジストロフィー及びFabry病の遺伝子治療に成功した。GFP陽性骨髄細胞をもつキメラマウスを作製し多能性幹細胞が実験系を確立した。in vitroでのミスマッチ修復アッセイ系を確立し、オリゴヌクレオチドによる遺伝子変換の可能性を示した。
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