文献情報
文献番号
200100417A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患関連遺伝子の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 力(東京大学)
研究分担者(所属機関)
- 山崎 力(東京大学)
- 永井 良三(東京大学)
- 前村 浩二(東京大学)
- 森田 啓行(東京大学)
- 林 同文(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
65,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
臨床データの体系的なファイリングとゲノムサンプルの収集を平行して行い、以下の点を明らかにする。
(1)心血管病の発症および重症度と強く関連する遺伝子マーカーを同定する。単独では疾患発症につながらないような軽微な遺伝子異常も、複数が積み重なることにより発症素因を構成する。心血管病の多くは遺伝子上の一塩基の違い、すなわち一塩基多型(SNP)に起因すると考えられる。複数の遺伝子マーカーの解析を組み合わせることにより、原因不明の心血管病の発症機序を遺伝子レベルで明らかにする。血管作動物質関連遺伝子を対象に、冠動脈硬化症、心不全、不整脈の遺伝子マーカーを同定する。遺伝子の発現量を規定するプロモーター領域の多型、受容体の細胞外ドメインや情報伝達カスケードをコードする遺伝子の多型に焦点を絞り解析を行う。
(2)環境因子に対する感受性を規定する因子を割り出し、早期により強力な生活習慣の是正をおこなうべき症例の峻別を可能にする。喫煙や肥満などの生活習慣が心血管病発症に与える影響と上記遺伝子の多型性との関係を明らかにする。加えて動脈硬化との関連が注目される活性酸素産生系、酸化ストレス除去系の遺伝子も解析対象とする。
(3)薬剤に対する応答性とSNPとの関連を解析し、個々の症例に対する薬剤選択の原則を確立する。
(4)疾患との関連が明らかとなったSNPの機能を明らかにするため、対応する動物モデル作成、変異遺伝子導入による細胞レベルでの検討を行う。これらの系を応用することで薬剤の効果と安全性の予測や新しい治療薬の開発が可能となる。
我々は予備的検討において、欧米と本邦では遺伝的背景に大きな違いがあることを確認しているが、血管特性にも人種差があることが知られ、疾患の発症率にも影響をおよぼしていると推定される。したがって、欧米での検討結果をそのまま本邦での医療に適応することはできず、本邦独自の解析システムを立ち上げる必要がある。循環器疾患は適切な生活指導、薬剤投与により予防することができる。すなわち、環境因子、薬剤に対する反応性が予め検出できれば効果的な予防策が展開可能になる。画一的な生活指導や薬剤処方は患者のQOLを損なうのみならず、医療経済上も大きな損失であり、個々人の遺伝的背景を考慮した最善の処方箋を提供するための基礎情報を提供する。
(1)心血管病の発症および重症度と強く関連する遺伝子マーカーを同定する。単独では疾患発症につながらないような軽微な遺伝子異常も、複数が積み重なることにより発症素因を構成する。心血管病の多くは遺伝子上の一塩基の違い、すなわち一塩基多型(SNP)に起因すると考えられる。複数の遺伝子マーカーの解析を組み合わせることにより、原因不明の心血管病の発症機序を遺伝子レベルで明らかにする。血管作動物質関連遺伝子を対象に、冠動脈硬化症、心不全、不整脈の遺伝子マーカーを同定する。遺伝子の発現量を規定するプロモーター領域の多型、受容体の細胞外ドメインや情報伝達カスケードをコードする遺伝子の多型に焦点を絞り解析を行う。
(2)環境因子に対する感受性を規定する因子を割り出し、早期により強力な生活習慣の是正をおこなうべき症例の峻別を可能にする。喫煙や肥満などの生活習慣が心血管病発症に与える影響と上記遺伝子の多型性との関係を明らかにする。加えて動脈硬化との関連が注目される活性酸素産生系、酸化ストレス除去系の遺伝子も解析対象とする。
(3)薬剤に対する応答性とSNPとの関連を解析し、個々の症例に対する薬剤選択の原則を確立する。
(4)疾患との関連が明らかとなったSNPの機能を明らかにするため、対応する動物モデル作成、変異遺伝子導入による細胞レベルでの検討を行う。これらの系を応用することで薬剤の効果と安全性の予測や新しい治療薬の開発が可能となる。
我々は予備的検討において、欧米と本邦では遺伝的背景に大きな違いがあることを確認しているが、血管特性にも人種差があることが知られ、疾患の発症率にも影響をおよぼしていると推定される。したがって、欧米での検討結果をそのまま本邦での医療に適応することはできず、本邦独自の解析システムを立ち上げる必要がある。循環器疾患は適切な生活指導、薬剤投与により予防することができる。すなわち、環境因子、薬剤に対する反応性が予め検出できれば効果的な予防策が展開可能になる。画一的な生活指導や薬剤処方は患者のQOLを損なうのみならず、医療経済上も大きな損失であり、個々人の遺伝的背景を考慮した最善の処方箋を提供するための基礎情報を提供する。
研究方法
東京大学循環器内科において心臓カテーテルを施行した全症例を対象として臨床データの網羅的なデータベース化を行う。また、同症例を対象に、東京大学医学部倫理委員会において申請、承認を受けたのち、倫理委員会にて承認された承諾書を使用して書面にて患者よりインフォームド・コンセントを得てDNA抽出を行い、冠動脈硬化・高血圧との関連性の示唆される数十の遺伝子のSNPについて解析を直接シークエンス法や日立製作所開発のBAMPER法に代表される新しい遺伝子解析システムを活用しつつ解析を行う。さらに、臨床情報及び遺伝子情報のデータベースの統合を行い、種々の解析を行うための土台となるデータベースを構築する。
結果と考察
山崎、林は、データベース化した臨床情報を解析した結果、本来心不全患者で血中濃度が上昇するマーカーとして知られるナトリウム利尿ホルモン (ANP, BNP) が、心機能低下のない狭心症患者群において、その病変枝数と正相関し、狭心症の重症度マーカーとなる可能性を見いだした。さらに、心血管疾患の危険因子として、糖尿病を合併している患者群においては特にその有意差は大きく、狭心症患者の非侵襲的検査としての意義を明らかにした。
永井は、PTCA治療の最も大きな障壁である再狭窄の有無に関連した遺伝子多型に関して、PTCA施行部位の性状およびPTCAの使用デバイス等を考慮しつつ検討を行っているが、このような再狭窄の分子メカニズムとして、血管平滑筋の脱分化、活性化が重要であることが以前より指摘されており、これにはZnフィンガー型転写因子BTEB2/IKLF/KLF5が重要であることをこれまでに明らかにしている。そこでこの転写因子について培養細胞系を使用した機能的解析を行い、転写因子BTEB2/IKLF/KLF5が、血管平滑筋の増殖および脱分化に関連したSMembおよびPDGF-A遺伝子のプロモーターを容量依存的に活性化することを明らかにした。
前村は、動脈硬化との関連性が示唆される遺伝子の発現調節に直接関与するプロモーター領域の機能解析を行い、組織の虚血・低酸素に関連する因子および心筋梗塞発症に関連するPAI-1遺伝子の制御に関して、前者ではEPAS1、後者ではCLOCK, CLIFという転写因子が重要であることを明らかにした。
森田は、動脈硬化に代表される血管のリモデリングの病態に深く関与するマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)の遺伝子多型に関して心筋梗塞発症との有意相関を見いだした。各々の転写活性に関与するMMP-1プロモーター領域-1607 1G/2G多型、MMP-3プロモーター領域-1171 5A/6A多型には互いに強い連鎖不平衡を認め、MMP3の5AアレルおよびMMP1 1G-MMP3 5Aハプロタイプを保有することが、有意に心筋梗塞発症のリスク因子となることを明らかとした。
永井は、PTCA治療の最も大きな障壁である再狭窄の有無に関連した遺伝子多型に関して、PTCA施行部位の性状およびPTCAの使用デバイス等を考慮しつつ検討を行っているが、このような再狭窄の分子メカニズムとして、血管平滑筋の脱分化、活性化が重要であることが以前より指摘されており、これにはZnフィンガー型転写因子BTEB2/IKLF/KLF5が重要であることをこれまでに明らかにしている。そこでこの転写因子について培養細胞系を使用した機能的解析を行い、転写因子BTEB2/IKLF/KLF5が、血管平滑筋の増殖および脱分化に関連したSMembおよびPDGF-A遺伝子のプロモーターを容量依存的に活性化することを明らかにした。
前村は、動脈硬化との関連性が示唆される遺伝子の発現調節に直接関与するプロモーター領域の機能解析を行い、組織の虚血・低酸素に関連する因子および心筋梗塞発症に関連するPAI-1遺伝子の制御に関して、前者ではEPAS1、後者ではCLOCK, CLIFという転写因子が重要であることを明らかにした。
森田は、動脈硬化に代表される血管のリモデリングの病態に深く関与するマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)の遺伝子多型に関して心筋梗塞発症との有意相関を見いだした。各々の転写活性に関与するMMP-1プロモーター領域-1607 1G/2G多型、MMP-3プロモーター領域-1171 5A/6A多型には互いに強い連鎖不平衡を認め、MMP3の5AアレルおよびMMP1 1G-MMP3 5Aハプロタイプを保有することが、有意に心筋梗塞発症のリスク因子となることを明らかとした。
結論
臨床情報とゲノム情報の統合的解析により、冠動脈形成術施行後の再狭窄病変形成に関連する遺伝子多型の探索を進めている。平行してその再狭窄病変形成に関わる転写因子BTEB2/IKLF/KLF5がマスター遺伝子の一つとして作用することを細胞工学および発生工学の手法を駆使して明らかにした。また、MMP1、MMP3の遺伝子多型およびそのハプロタイプが心筋梗塞発症に関連する有用なマーカーであることを明らかにした。さらに、心筋梗塞発症に関連するPAI-1遺伝子の制御に、CLOCK、CLIFという転写因子が深く関与していることを示した。
今後、本データベース・データマイニングシステムを発展させ、さらに、外来通院の臨床データベースおよび遺伝子解析の結果を統合させ、疾患発症・予後あるいは投薬を含めた診療行為との関連性が示唆される遺伝子多型を解析することで、個々人の遺伝的背景を考慮した最も効果的かつ経済的な治療方法を見いだすことが期待される。
今後、本データベース・データマイニングシステムを発展させ、さらに、外来通院の臨床データベースおよび遺伝子解析の結果を統合させ、疾患発症・予後あるいは投薬を含めた診療行為との関連性が示唆される遺伝子多型を解析することで、個々人の遺伝的背景を考慮した最も効果的かつ経済的な治療方法を見いだすことが期待される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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