精神障害者等が快適に安全に生活するためのインフラの整備に関する研究-身体合併症、アメニティ、身体的健康度とQOLについて-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100362A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者等が快適に安全に生活するためのインフラの整備に関する研究-身体合併症、アメニティ、身体的健康度とQOLについて-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 能行(京都府立医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 片山義郎(財団法人井之頭病院)
  • 中村広一(国立精神神経センター武蔵病院)
  • 佐藤茂樹(成田赤十字病院精神科)
  • 田中稜一(医療法人社団五稜会病院院)
  • 岡田まり(立命館大学産業社会学部)
  • 古井祐司(三菱総合研究所)
  • 相星壮吾(鹿児島県保健福祉部)
  • 今村理一(社会福祉法人みづき会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①精神障害者の身体合併症医療の現状を明らかにする。②その背景となる精神病院の療養環境とアメニティについて検討する。③身体合併症の基礎となる精神障害者の身体的健康度、および身体的健康度、身体合併症医療、療養環境、アメニティ等の要因と強く関連する精神障害者のQOL(生活の質)を明らかにし、他の障害者とも比較する。以上をとおして精神障害者入院医療の今後のあり方を検討する。
研究方法
①総合病院における精神障害者の身体合併症、すなわち、悪性腫瘍や感染症などの一般疾病、および精神疾患に起因する急性薬物中毒や切創に対して、院内の他科との間にどのような連携がとられているのか全国91の有床総合病院精神科を対象に調査を行った。対象施設の特性についての調査票の他、平成13年12月に対象病院の精神病棟に入院中の身体合併症患者(精神疾患と身体疾患の両方を併せ持つ患者で身体疾患自体で入院の対象となる者)全員について、平成14年1月末までの治療内容を含め質問した。回収した調査票の各項目について、単純集計とクロス集計を行った。②精神障害者の治療装置とも言える精神病院の療養環境とアメニティについて、単科の一精神科病院(205床、札幌市)を平成13年7月17日から12月28日までの5ヶ月間に退院した全患者197名を対象に自記式調査を行い、単純集計した。また、日本精神病院協会に所属する全精神科病院1214病院を対象に、設備構造基準の廊下幅、病室面積、1床あたり病棟面積、及びアメニティついて調査を行い、単純集計とクロス集計を行った。③分裂病の入院患者の身体的健康度等を捉えるためにアンケート調査票を作成した。対象者としては、病院に入院中の精神分裂病患者を40未満と40歳以上の二群に分け、40歳未満の患者群より男女各10名、40歳以上の患者群より男女各10名、合計1病院あたり40名とし、15病院を選定し、総計600名を無作為抽出し、現在調査実施中である。この他に、精神科入院治療中の精神分裂病患者で上顎前歯に明瞭な毀損をもつ10名を対象に治療希望の有無等の情報を収集し、分析した。身体的健康度、身体合併症医療、療養環境およびアメニティ等の要因と強く関連する精神障害者のQOL質問調査票を作成し、予備調査を行った上で、133名の精神障害者を対象に聞き取り調査を行い、因子分析を用いて検討した。身体障害者の運動への取り組み状況等を明らかにするために125名の車椅子使用者に調査を行い単純集計とクロス集計を行った。また、高齢知的障害者の痴呆調査のための調査票の開発と実際の調査を行った。1991年に知的障害者を対象に行った調査と同様の調査も行い、10年間の推移を縦断的比較研究した。
結果と考察
①91の有床総合病院精神科に対する調査では、46病院から回答を得、回収率は50.5%であった。これら46病院より890枚の個人票が回収された。1病院平均は19.3件であった。平成13年12月の新規入院は402件(45%)であり、精神病棟入院前の身体合併症発症は724件(81%)、入院後の発症は165件(19%)であった。精神疾患診断名は精神分裂病376(42.2%)、症状器質性精神障害195(21.9%)、気分障害145(16.2%)、精神作用物質による障害50(5.6%)、神経症性障害50(5.6%)、その他74(8.3%)の順であった。身体合併症のタイプ分類では1)精神疾患に起因する身体疾患が265件(29.8%
)、2)精神症状を引き起こした身体疾患が99件(11.1%)、3)精神疾患と身体疾患の偶発的合併が526件(59.1%)であった。治療病棟については、精神病棟のみで行われたものは648件(72.8%)、精神病棟から他科病棟に転科・転棟となったものは93件(10.4%)、他科病棟から精神病棟に転科・転棟となったものは143件(16.1%)であった。総合病院精神病棟では精神・身体に関わる様々な患者に他施設、他診療科とはばひろく連携しながら診療が行われていた。しかし、対象となる精神病棟の多くはは研修指定病院、救命救急センター、ICU、人工透析センターなどの施設・設備の整った総合病院に併設されているが、精神病棟自体は個室数、パイピング設置病床数、医師配置数などの面で必ずしも身体合併症治療に十分に適した条件が整備されているとは言いがたい傾向にあった。②アメニティについての単科の精神科病院での調査では、対象患者197名のうち125名が調査票に全て回答し、有効回収率63%であった。調査対象病院の実寸の1人当たり病床面積は1)4.3~5.7㎡、2)5.8~6.3㎡、3)6.4㎡以上と大別して3種類の病室があり、これを1)狭い、2)丁度良い、3)広いとした。実寸の病床面積と患者さんが感じた主観的な広さがともに「狭い」が約40%、ともに「広い」が約30%と、一致が認められた。日本精神病院協会に所属する全精神科病院1214病院を対象にした調査において回収し得た病院は482病院で回収率は39.7%であった。アメニティに関して各病院が特に重視しコストを掛けているものは、新築時の内部空間、コメディカル等のスタッフ、職員の教育を1位に挙げている病院が多かった。以上のように、精神障害者は病室の主観的広さを敏感に判断しており、病院の設置者も病室の広さを重要視しており、患者の意識するものを重視するという妥当な結果であった。③分裂病の入院患者の身体的健康度等を捉えるためにアンケート調査票の調査内容については、1)身体的健康度の実態把握(身体疾患の有無、BMIなど)と2)生活習慣(喫煙、散歩など)の把握の観点から検討し、以下の調査項目を設定した。すなわち、患者属性(性別、年齢、身長、体重、肥満度(BMI))、入院形態、罹患期間、今回の入院期間、喫煙、療養中の病棟、散歩許可状況、治療中の身体疾患(虚血性心疾患、本態性高血圧症、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、鉄欠乏性貧血、肝機能障害)、治療食の提供の有無についてである。調査対象数は性別・年齢階級別(40歳未満と40歳以上の2区分)に検討する際には標本数が各群約100名程度必要であることがわかった。回収率も勘案して現在15の精神病院の600名を対象として調査中であり、収集が完了次第速やかに解析を行う予定である。集計・分析は、性・年齢区分、入院期間(罹患期間)を考慮しながら実施する。なお、集計・分析結果については、精神分裂病患者の生活習慣病予防策や健康の保持・増進施策の検討につながることを意識して行うことにしている。精神科入院治療中の精神分裂病患者で上顎前歯に明瞭な毀損をもつ10名を対象にした調査においては、対象中 5例が明確に上顎前歯の治療を希望した。治療を希望しなかった5例はいずれも女性であった。精神障害者のQOL質問調査においては、133名の回答に対して因子分析を行い、1)心身の健康、2)相互支援とやりがい、3)自己肯定感および自己指向性、4)生活充実度、5)安全・安心、6)社会参加、7)生活環境の快適さ、8)対人関係、9)環境との関わり、10)居場所、の10因子が抽出された。125名の車椅子使用者に対する調査では、63人の回答者が考える運動の効用(複数回答)は、日常生活に必要な筋力アップ等のためのトレーニング38人(60.3%)、心身の健康づくりやリフレッシュ36人(57.1%)、運動・スポーツを通じた社会参加25人(39.7%)の順に多かった。知的障害者更生施設(入所)における入所者年齢の変化では、60歳以上の入所者の割合が増加し、70、80歳台の高齢者も出現していた。知的障害者更生施設(入所)における入所者の日常生活にみる変化では、移動、排泄、入浴等すべての処遇ニーズの増加、ダウン症者の著しい高齢化、痴呆、寝たきりの高齢者の出現が認められた
。知的障害者に対する痴呆の調査も現在集計・解析中である。
結論
総合病院精神病棟では精神・身体に関わる様々な患者に他施設、他診療科とはばひろく連携しながら診療が行われていたが、精神病棟自体は個室数、パイピング設置病床数、医師配置数などの面で必ずしも身体合併症治療に十分に適した条件が整備されているとは言いがたい傾向にあった。その背景となる精神病院の療養環境とアメニティについては、精神障害者は病室の主観的広さを敏感に判断しており、病院の設置者も病室の広さを重要視していた。身体合併症の基礎となる精神障害者の身体的健康度およびQOLについては調査が進行中であり、また知的障害者に対する痴呆の調査も現在集計・解析中であり最終年度である平成14年度には詳細な報告ができる運びとなっている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-