精神医療の地域分化や専門的医療に関する研究

文献情報

文献番号
200100360A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療の地域分化や専門的医療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
守屋 裕文(埼玉県立精神保健総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 堀川公平(野添病院)
  • 妹尾栄一(東京都精神医学総合研究所)
  • 遠藤俊吉(日本医科大学)
  • 保坂隆(東海大学医学部精神科)
  • 伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所)
  • 冨松愈(三池病院)
  • 鮫島健(鮫島病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神医療の効果的な機能分化やそれらの統合による有効な医療資源の活用法を開発し、よりよい精神医療が提供される環境づくりに資することを目的とした。
研究方法
「児童思春期病棟のあり方に関する研究」(分担研究者堀川公平)では、26病院(全児研加盟12病院、日精協調査による11病院、その他3病院)を調査対象とし、児童思春期患者の入院者数、診断名、1日平均外来患者数、定床数、病棟における職員構成等について現状調査を行った。また、無作為選出した6県に所在する3施設類型(児童相談所・精神保健福祉センター・児童養護施設)全95施設を対象に、推定患者数を把握するための調査を行った。さらに、広く国民の意見、要望等を求めるためホームページを開設した。
「薬物依存病棟のあり方に関する研究」(同妹尾栄一)では、全国の薬物依存治療に取り組まれている国公立病院に対し、郵送によるアンケート調査を行い、現状や取り組みにあたっての困難性を調査した。
「合併症病棟のあり方に関する研究」(同遠藤俊吉)では、比較的積極的に合併症医療に取り組んでいる12施設に対して、人員配置、設備構造などの他、平成13年12月20日から平成14年1月19日までの1ヶ月間に新たに対応した合併症患者についてのアンケート調査を行い、回答を分析した。
「ストレスケア病棟のあり方に関する研究」(同保阪隆)では、神奈川県Z市において定期検診を希望した住民約15,000人の中から8,000人を無作為に抽出し,ストレス、睡眠障害及び抑うつの有無に関して調査した。また、東海大学病院救命救急センター受診者の全カルテを検討して、2000年1月から12月までの間に、自殺企図で搬送されたケースなど精神科医が関与したケースを分析し、その転帰について調査した。また、現にストレスケア病棟を有している二施設の実態調査を行った。
「専門病棟の国際比較に関する研究」(同伊藤弘人)では、児童思春期専門病棟、アルコール・薬物依存病棟、身体合併症病棟、ストレスケア病棟について、まず、評判度の高い上位5病院のホームページより情報収集を行った。また、アメリカ精神医療に関する統計資料に基づき、専門医療を含む精神科全般の動向について分析を行った。
「各専門病棟への診察報酬面での評価」(同冨松愈)では、愛知県名古屋市近郊の単科精神科病院を対象とし、平成11年11月~平成12年12月に同病院に入院した患者70名(男性42名、女性28名、平均年齢35.5歳)に対し、5つのアウトカム指標、患者基本調査票、QOL調査票(Short Form Health Status Profile -36 ; SF-36)、(精神)症状調査票(Behavior and Symptom Identification Scale -32; BASIS-32)、病識調査票(Schedule for Assessment of Insight ; SAI-J)、患者満足度調査票(Client Satisfaction Questionnaire-8 ; CSQ-8J)を用いてアウトカム測定を行い、入院期間中の診療報酬点数との相関をみた。
「都道府県における精神科病床数の算定のあり方に関する基礎的研究」では、以下の研究を行った。(1)基準病床数と既存病床数、およびそれらの差を算出して過剰県および不足県を選び、それぞれの入院患者の特性を分析した。(2)都道府県における人口1万人あたりの基準病床数および既存病床数を目的変数として、地域特性指標との関連を分析する。(3)都道府県ごとで診療報酬上存在する精神科入院医療における包括病棟の取得状況の調査を実施した。
結果と考察
「児童思春期病棟のあり方に関する研究」では、調査し得た19病院について平成13年12月現在で児童思春期の入院患者数は計592名、病床利用率に関しては平均70%であった。また医師体制に関しては公的病院が約18:1、民間病院では正確に把握できないが48:1よりも多くの医師が関わっている事が推測された。回答したほとんどの病院は公民問わず看護体制3:1をとっており、公的病院の約7割の施設で保育士をおいていた。民間病院では思春期患者、公的病院では学童期以下がそれぞれ多数を占めていた。回答のあった民間7病院に関しては精神分裂病や人格障害、神経症などが多くを占め、一方、公的施設では発達障害や子供の行動及び情緒障害が5割を超える施設がみられるなど、民間病院とは異なる結果が得られた。施設を対象とした調査(回答率46.3%)では、入院必要該当者数は計173名で、そのほとんどは非分裂病性の症状や問題行動であり、行為と不登校の問題が約半数を占めていることがわかった。
「薬物依存病棟のあり方に関する研究」では、公的な病院として薬物依存症の治療に取り組んでいく過程で、「医療」の枠を越えて司法や福祉の機関との連携を求める意見が多く占めた。ただし、「連携」の在り方については、「医療」の役割を終えた後には司法で扱う様に連結していく方向を目指す意見と、医療から社会への橋渡しをする「復帰サポート体制」の整備が相当数の患者にとって有効であるという意見があった。この様な結果になった背景には、「薬物依存症」者が呈する非常に広範囲で多岐にわたる問題群が影響していることが示唆される。この結果を基に、次年度において治療プログラムの具体的内容や、他の社会的システムとの連携の在り方について検討をする。
「合併症病棟に関する研究」では、12施設中回答の得られた8施設について検討を行った結果,①合併症医療はマンパワーや設備構造などからも大学病院を含めた精神科有床総合病院が担っていく必要がある、②今後入院期間などを考慮した上で後方病院などとの連携が重要となる、③合併症患者は1日1000床あたり総合病院で9例,他科併設精神科病院で1例の入院患者が見込まれた、④合併症病棟では精神症状が比較的重症で,身体合併症はそれほど重症度が高くない患者が主体となっていた、⑤一般病棟と同等以上の看護配置が必要である、⑥合併症病棟は設置基準を高く設定するとともに,人員配置と施設基準に対する診療報酬加算が必要である、ことなどが示唆された。
「ストレスケア病棟のあり方に関する研究」では、一般市民の健康調査の結果、有効回答5,903件中、自殺することを少しでも考えたことがある者は10.5%、しばしば考えている者は1%を越えていることが明らかになった。また、2001年の東海大学病院救命救急センター受診者は21,264名(男10,419名 女10,845名)で、うち精神科受診者数803名(男282名 女521名)、自殺企図者300名(男68名 女232名)であった。
「専門病棟の国際比較に関する研究」では、調査対象とした5病院に関して今回情報を得ることができた専門病棟は、児童思春期専門病棟とアルコール・薬物専門病棟のみであった。いずれも、病床数が少なく、24時間入院ケア→居住治療→部分入院→外来ケアへのステップダウン機能を有し、できるだけ早期に可能な限り制限の少ない環境へ移行できるよう配慮がなされていた。統計資料からも、24時間の入院ケアから部分入院および外来へという流れが確認され、同様の動向は児童思春期ケアに関しても認められた。
「各専門病棟への診察報酬面での評価」では、5つのアウトカム指標すべてに、各診療報酬点数との有意な相関がみられたが、複数の変数との相関がみられたのは、GAF、BASIS-32のPsychosis、SAI-Jであった。また、入院、在院日数、合計点数以外にも、精神科専門療法、とくに入院生活技能訓練や入院精神療法が、いくつかのアウトカム変化量との相関が高いことがわかった。
「都道府県における精神科病床数の算定のあり方に関する基礎的研究」では、 基準病床数と既存病床数との差における過剰県と不足県を比較すると、診断や年齢構成が異なることが明らかになった。全都道府県における地域特性分析では、高齢者割合と生活保護率が、基準病床数およびと既存病床数に強い関連があった。包括病棟取得状況は、都道府県により大きく異なっていた。この結果は、機能分化の進展の程度について都道府県間に差異があることを示している可能性がある。
結論

公開日・更新日

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