介助犬の適応障害と導入及び効率的育成に関する調査研究-身体障害者に対する有用性と課題-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100356A
報告書区分
総括
研究課題名
介助犬の適応障害と導入及び効率的育成に関する調査研究-身体障害者に対する有用性と課題-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
藤田 紘一郎(東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫病学分野教授)
研究分担者(所属機関)
  • 鷲巣月美(日本獣医畜産大学獣医畜産学部獣医獣医臨床病理学教室講師)
  • 佐鹿博信(横浜市脳血管医療センターリハビリテーション科部長)
  • 藤原佳典(東京都老人総合研究所研究員)
  • 赤尾信明(東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫病学分野講師)
  • 青木人志(一橋大学大学院法学部助教授)
  • 原 和子(名古屋大学医学部保健学科作業療法学専攻助教授)
  • 高柳友子(東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫病学分野非常勤講師)
  • 安藤徳彦(横浜市立大学医学部附属病院総合医療センターリハビリテーション科教授)
  • 高柳哲也(奈良県立医科大学神経内科学教室名誉教授・本郷眼科神経内科部門常勤医)
  • 真野行生(北海道大学大学院リハビリテーション医学講座教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介助犬の使用及び訓練における課題及び障害分類における介助犬の役割を明らかとし、障害者の意識調査などから介助犬に求められる役割と育成体制を知ると共に、社会的問題として介助犬の法制化における課題や、先行する盲導犬事業の実態調査から介助犬給付事業のあり方を探ることを目的とした。また、候補犬導入元とされる不用犬からの導入における課題を明らかとし、効率的育成方法の確立のための一助とすることを目的とした。
研究方法
研究班を犬、社会、障害の3分科会に分類し、犬分科会では候補犬導入における獣医学的課題について、先天性股関節形成不全についての疫学調査を雑種犬に対して行い、効率的育成方法については定量的評価が可能となる適性犬評価方法を用いて盲導犬非適性犬、愛護センターなどの収容犬などを対象に評価を行った。また、訓練犬から実際の合同訓練においての内容と課題について詳細に記録を行った。
社会分科会では、高齢者の介助犬使用について犬の飼育状況、ADL、知的能力等による評価から可能性を模索した。自治体における盲導犬貸与事業の助成額や助成頭数、助成方法等の実態調査をアンケートにより行った。候補犬として考えられる不用犬の寄生虫保有状況を調査し、家庭犬との比較を行った。現在国会に提出中の身体障害者補助犬法案について比較法学的に課題を検討した。
障害分科会では介助犬使用者の使用分析によりWHOの障害分類における介助犬の役割を明らかにした。また、訓練における使用者の抱える問題点を理学療法学的、作業療法学的に明らかにすると共に、介助犬との作業遂行上必要な課題を検討した。さらに、介助犬を利用していないリウマチ、脳卒中、脊髄損傷者などの肢体不自由者に対する介助犬の意識調査を行い、希望状況と不安について調査した。
結果と考察
雑種犬においても大型純血種で問題となっている股関節形成不全症の発症率は18%あり、介助犬の効率的育成のためには、純血種のみならず、雑種に対しても関節評価等の代表的遺伝性疾患についての検索が必要であることが明らかとなった。適性評価方法は、数値化して判定しやすい方法を用いて、盲導犬非適性犬、不用犬など幅広く行いながら、引き続き効率的な方法について検討するためのデータの集積が必要である。不用犬は寄生虫感染の割合が高く、不用犬から導入する際には、人畜共通感染症について特に厳重に検査をすることが必要であり、さらに、不用犬ではなくとも、社会参加をするに当たっては人畜共通感染症予防のために検査を徹底する必要がある。盲導犬貸与事業では、育成頭数は4年間で281頭、1頭当たりの平均助成額は178万円であったが、その幅は46から260万と大きく、また助成対象を1指定法人としているところもあれば、指定していない自治体もあり自治体の格差が明らかとなったが、この違いが使用者や待機者に対してどのように影響しているのかを調査する必要があると考えられた。身体障害者補助犬法案が成立しても、盲導犬事業のように、実効性については自治体や民間に委ねられることが大きく、より執行性の高い法案にするためには、行政の啓発・指導活動や紛争処理システムなどの構築が必要となると考えられる。
介助犬は新しい障害分類ICFの中で日常生活関連支援機器の中に含まれ、運動、移動、セルフケア等の活動制限が適応となると考えられたが、介助犬を使用する上で介助の方法について理学療法学的に考慮すること、及び介助犬とのコミュニケーションのために、また筋ジストロフィーの介助犬使用者への調査により、介助犬に作業を遂行させるために必要な道具や機器の開発が必要であり、緊急時通報システムやドアの開閉ボタン、自動給餌機、ボール投げ機など、介助犬による作業遂行の上で、または犬とのコミュニケーションのための道具の開発の作業療法学的検討が必要と考えられた。介助犬に対するニーズが明確であっても、訓練中の指導方法や継続指導体制に課題が残ることで、介助犬による作業遂行が十分にできない例があった。個々の障害者の障害と機能的なニーズだけでなく、介助犬による作業を遂行するためには作業についての意識や習慣、価値観についても把握した上で個々に合った指導方法を計画する必要があることが示唆された。介助犬の適応となり得る障害者の間での介助犬に対する関心度は高まっており、希望する割合も高くなってきている。しかしながら、介助犬の介助内容については一定の情報しか把握されておらず、また犬の飼育に支障があるために介助犬の飼育はできないと考える人が多いことから、介助内容の多様性と飼育の可能性についての正しい情報普及が必要であると考えられた。
結論
日常生活関連支援を行う介助犬の可能性について、犬の飼育の可能性について、より正確な情報普及が必要である。また、安全で有効かつ効率的な介助犬育成が行われるためには、犬の獣医学的検査及び評価方法を確立し、また障害者に対する評価や指導体制は、リハビリテーション医、理学療法士、作業療法士らと共に個々の障害者の機能的評価、及び生活や性質などについてきめ細かく把握した上での訓練計画と環境設定が必要であり、また、適合性の評価及び指導が重要である。リハビリテーション医学的な観点からの指導体制は、障害の程度が変化する使用者には特に重要である。補助犬法案がより実効性の高い法律となって良質な補助犬の育成をし障害者の自立と社会参加を促進するためには執行システムを明確にする必要がある。

公開日・更新日

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