重症心身障害児のライフサイクルを考慮した医療のあり方に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200100355A
報告書区分
総括
研究課題名
重症心身障害児のライフサイクルを考慮した医療のあり方に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
平元 東(北海道療育園)
研究分担者(所属機関)
  • 平元東(北海道療育園)
  • 山田美智子(神奈川県立こども医療センター)
  • 諸岡美知子(旭川荘療育センター児童院)
  • 中野千鶴子(国立療養所鈴鹿病院)
  • 米山明(心身障害児総合医療療育センター)
  • 松葉佐正(芦北学園発達医療センター)
  • 高橋和俊(東京小児療育病院・みどり愛育園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症心身障害児に提供される医療・療育は、小児期のみならず重症児のライフサイクルを考慮し長期的展望にたって、それぞれのライフステージにおける最も至適なものでなければならない。本研究は、呼吸障害や摂食障害など重症児特有の病態を調査し、証拠に基づく医療(EBM)と療育を検討するとともに、一人ひとりのライフサイクルの中で福祉的視点から重症児のQOLを考慮した至適な医療・療育の提供のあり方を提言することを目的とする。
研究方法
1.全国の公法人立重症心身障害児・者施設94施設を対象に、気管切開、気管腕頭動脈瘻、気管軟化症についてアンケート調査を行った。2.神奈川県立こども医療センターの25年間の気管切開についてレトロスペクテブに調査を行い、気管切開の趨勢と動向について調査した。3.東京都在住の「人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)」を通じて、保護者にアンケート調査を行い、機材・物品の利用状況、衛生材料の供給、経済的負担、訪問看護・ヘルパーの利用状況、施設・学校などにおける医療的ケアの実態、家族が感じている問題点などについて調査を行った。4.気管切開をしている超重症児を対象に呼吸管理モニター「コズモプラス8100」を使用し、SpO2、EtCO2、MV、VCO2、R、気道内圧、気道流速を経時的に測定し、その対応を検討した。5.慢性呼吸不全の経過で気管切開を行った重症児の心機能について、胸部X線像の心胸比(CTR)、心電図、心拍変動解析の変化を気管切開前後で検討した。6.呼吸リハビリテーションについて、実施されている呼吸障害への対応・対策の実態調査、及び、入園利用者への直接ケアに携わる病棟職員による呼吸療法について、実施状況とその意義についての意識調査を実施し、結果を分析した。7.重症児の胃食道逆流症(GER)について、どのような要因がGERの重症化に関与するのか、早期に重症化症例を見分けるためにGER症例の長期経過について検討した。8.全国の公法人立重症心身障害児・者施設および全国の国立病院・療養所重症心身障害児(者)病棟にアンケート調査を行って慢性腎不全に罹患した重症児の医療の現状や問題点を調査し、慢性腎不全を合併した重症児における医療の今後の検討を行った。9.超重症児の酸化的ストレスの状況を尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)を用いて測定し、その原因について検討した。10.北・北海道地域において在宅生活をおくっている重症心身障害児・者に対し、その生活実態をアンケートにより調査を行い、その結果をライフステージ別に検討し、至適支援のあり方について考察した。11.在宅重症児に対する通園事業の実態を評価し、医療の重要性を実証するために、みどり愛育園通園在籍児・者の死亡例の調査を行い、直近の1年間に要した医療の実態について検討した。
結果と考察
1.重症児全体の5%に気管切開が施行されていることがわかった。気管切開の適応と考えた術前の状態は、繰り返す難治性の下気道感染症の存在が最も多く、ついで頻回の誤嚥、頻回の人工呼吸管理であった。気管切開の適応があると考えられているにも関わらず保留となっている症例の7割が、家族の了承を得られないでおり、医療的適応とインフォームド・コンセントの困難さが重症児医療にはあることがわかった。気管腕頭動脈瘻はのべ11人にみられ、救命率は36.4%と低く、気管切開の導入の時期、適応についてさらに検討が必要であ
ると思われた。2.重症児の気管切開例は、特に1歳以下の重症児以外で著しく増加していたが、NICU病棟入院中に気管切開を行う様になった事や在宅人工呼吸器療法の増加にも関連があると考えられた。しかし、気管切開の低年齢化は、社会的に多くの問題があり、今後在宅支援や通園や学校での医療的ケアのサポ-ト体制の充実が必要であると考えられた。3.在宅人工呼吸を行っている重症児が増加しているが、東京都における在宅人工呼吸療法(HMV)施行重症児のアンケート調査では、社会的問題として経済的問題、養護学校での医療ケアの問題、訪問看護での問題が明らかとなった。現実にHMV利用者の経済的負担は大きいことがわかった。4.「コズモプラス8100」はベッドサイドで非侵襲的にSpO2、EtCO2、MV等を同時に測定し、FVカーブ、PVカーブも見ることによって呼吸器の設定や対応を検討する事ができ、重症児の呼吸障害評価に有用であった。5.慢性呼吸不全を呈する重症児では、肺性心の状態と考えられる例が少なくないことがわかった。しかし、重症児では胸郭変形があり、長期にわたる肺病変も存在するため、心機能については一般的な基準での判断が難しい症例も多く、個々の症例で経過を追って判断する必要があると思われた。6.重症児における呼吸療法(呼吸リハビリテーション)は、その有用性が多くの職員に理解され、実施されていることがわかった。しかし、さらに多くの施設で実施されるためには、安全で普及に足る実用的な「重症児者に対する呼吸療法」の指針の作成する必要があると思われた。7.重症児のGERは、発症からの有症状期間・術前の重症児スコアが予後を左右する要素であり、長期的にも呼吸器合併症による悪化が予測されることがわかった。保存的治療から外科的治療への見きわめを術前状態を悪化させない段階で行う必要があると考えられた。8.重症児の慢性腎不全は一般の慢性腎不全とは原因がかなり異なっていること、保存的治療は積極的に行われているが、透析治療に関しては、導入の決定、導入後の本人側の問題、施設側の問題など、一般に行われている透析治療にはみられない様々な問題点のあることなど、診断・治療の面で一般の慢性腎不全とは異なる様々な問題をかかえていることが明らかになった。9.超重症児の尿中8-OHdG値は健常者に比較して高値であり、頻回の医療的ケアによって強いストレスを受けていると思われた。10.北・北海道地域において在宅生活をおくっている重症心身障害児の生活実態調査において、ライフステージ別各年齢層で生活実態やニーズに差があることがわかった。全国各地域において在宅重症児支援を実効性のあるものにしてゆくためには、重症児本人の状態はもちろんだが、それぞれの地域における年齢的、社会環境的状況からくるニーズに対応できるものが必要であると考えた。11.みどり愛育園の重症児者通園事業15 年間の在籍者の中で死亡例が20名見られ、特に年少組の死亡は、7歳6ヶ月までに見られている例が殆どであり、超重症児者 7 名、準超重症児者 6 名を含む死亡例のうち、約半数が自宅での急変によるものであった。重症児通園がいかに生命の危険あわせとなって稼働しているかの実証であり、通園事業における医療体制の整備がいかに重要であるかが示された。
結論
重症児の生命予後を左右する呼吸障害や腎不全を主として現在の重症児施設や在宅重症児に対して行われている医療・療育の実態を調査した。重症児特有の病態に対する指針づくりや社会的・経済的支援、医療体制の充実と在宅医療ケアのあり方をさらに検討する必要があると思われた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-