言語的コミュニケーションが困難な重度障害児・者の自己決定・自己管理を支える技法の研究とマニュアルの開発

文献情報

文献番号
200100352A
報告書区分
総括
研究課題名
言語的コミュニケーションが困難な重度障害児・者の自己決定・自己管理を支える技法の研究とマニュアルの開発
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中邑 賢龍(香川大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中野泰志(慶応義塾大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
意思能力の不十分な障害者の人権擁護に関する整備が国家レベルで推進されているが、本人の意思を代弁する後見人はどのようにして本人とコミュニケーションをとればよいのであろうか?障害のある人の権利擁護の基礎は、自己決定・自己管理のためのコミュニケーションの能力を育み、それぞれに応じた環境を整備し、コミュニケーションの機会を広げていくことにあると言っても過言ではない。しかし、多くの人々は、言語的コミュニケーションが困難な人、特に重度知的障害や重複障害を持つ人とどのようにコミュニケーションとればいいのか糸口がつかめないままである。欧米では1980年代からAACというコミュニケーション技法に関する学際的研究領域において、重度障害を持つ人とのコミュニケーション技法が研究されている。特に、情報技術の進展とともに、ハイテク機器を用いたコミュニケーションが脚光をあびている。残念ながら、わが国では、障害を持つ人を出来ない人であり、保護すべき対象としてとらえる傾向が強く、コミュニケーションニーズも欧米ほど高くないため、AAC技法は浸透しているとは言いがたい。また、重度知的障害や自閉症を持つ人たちは、彼らが自己管理できないという周囲の思い込みの結果、行動を著しく制限されたり、監視されたりすることが少なくない。しかし、障害を持つ人が自己管理できるような環境が整備され、その活用方法を学ぶための教育プログラムが提供されれば、彼らは他人から監視される必要はなくなり、その人権が保障される。本研究では、自己決定・自己管理を可能にするための技法を検討し、そのマニュアルを開発することを主たる目的とする。
研究方法
本研究は2年計画で自己決定・自己管理を引き出す技法を研究し、マニュアルを開発することである。研究は2班に分かれ、「自閉症や知的障害のある人の自己決定・自己管理の技法研究」を香川大学の中邑を中心とした研究班が、「感覚障害を併せもつ人の自己決定の技法研究」を慶応義塾大学の中野を中心とした研究班が実施した。初年度である本年度は、以下のようなアプローチで自己決定・自己管理を引き出す技法を研究し、マニュアル作成のための基礎データを得た。1つは、中邑班を中心に自己決定・自己管理を支える技法に関する書籍を収集、整理した。国内のコミュニケーション関連の書籍31冊について、コミュニケーションに対するアプローチの仕方、どのような障害を対象にしているか、どのような技法を扱っているか、どのような解説の方法を用いているかなどの点からチェックした。2番目は、中邑班を中心に自己決定・自己管理を支える技法に対する福祉現場のニーズ調査を実施した。知的障害および自閉症関係の13施設を訪問し、施設職員に対し、インタビューを実施した。ここでのインタビューは量的な分析を目的としたものでなく、問題点を質的に明らかにするかたちで実施されたため、アンケート用紙は作成せず、自己決定引き出し、情報保障、自己管理について、その実施状況や方法を尋ねた。3番目は、中邑班・中野班で知的障害、自閉症、重複障害のある人に対し、エイドを用いない技法からハイテクエイドを用いる技法まで、様々な自己決定・自己管理技法を適用し、その効果や問題点を検討しながら、経過を事例としてまとめた。最後に、これらのデータを基に、どのようなマニュアルを次年度開発すべきかを全メンバーで議論し、方向を示した。
結果と考察
様々なコミュニケーション技法に関する書籍の存在が明らかになったが、初心者がどこからその技法を学んでよいかは分かりにくいものであった。また、対象となる障害や技法
にも偏りがあり、特に、重複障害に対するアプローチや、ハイテクを用いた技法の解説が少ないことが示された。施設職員の意識は、多くの施設職員が自己決定・自己管理の重要性を認識しつつも、その方法が分からず、その研修やマニュアルを求めていることも示された。また、既存の自己決定・自己管理の技法を実際に障害を持つ人たち24人に適用し、その経過を記録した。そこでは、技法の有効性が示されると同時に、自己決定には環境を整えることの大切さも示された。
結論
自己決定・自己管理に関する資料は少なく、施設職員のニーズも高い。本年度の研究成果は、マニュアル作成の基礎データとなる。次年度作成されるマニュアルは、多くの施設職員の自己研修やセミナーに利用できるように、施設職員の意識や経験レベルに合わせて数種類準備し、印刷物と電子媒体で提供予定である。施設職員の興味関心が低い場合は、コミュニケーションの可能性を知らせる本やビデオ、問題に気づいてもらうためのチェックリスト、初心者向けマニュアルが、関心はあるがどうしてよいか分からない場合は、より具体的な場面を想定したマニュアルが必要であると考えた。コミュニケーション技術(テクニックとテクノロジー)そのものだけでなく、コミュニケーション意欲を引き出す環境づくり、コミュニケーションの話題の重要性といった周辺の問題まで含めたマニュアルとすることで、実効性はさらに高まるであろう。本研究の成果は、多くの障害のある人たちの生活の質の向上に貢献できるだけでなく、家族や支援者にとっても心理的、身体的負担が低減するなどのメリットがあり、同時に、社会的にも、問題行動抑制や監視に要したコストを大きく削減できるであろう。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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