青少年の精神・行動障害に関わる精神科医療プログラムの研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100351A
報告書区分
総括
研究課題名
青少年の精神・行動障害に関わる精神科医療プログラムの研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中根 允文(長崎大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山崎 晃資(東海大学医学部)
  • 太田 昌孝(東京学芸大学)
  • 上林 靖子(国立精神・神経センター 精神保健研究所)
  • 皆川 邦直(法政大学現代福祉学部)
  • 中島 豊爾(岡山県立岡山病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人の精神疾患に関する診療プログラムの指針は、若干の問題は残しながらも、これまで少なからず提案されてきている。診断指針に関しても、ICD-10F(WHO)、DSM-Ⅳ(APA)のいずれも成人ではほとんど重大な支障なく適応されることが実証されてきている。それに引き替え、児童思春期あるいは青少年の時期における精神科的問題については、世界的に見ても十分な検討がなされたとはいえず、日本国内では最近の精神鑑定結果を見るとき診断の妥当性に加えて提供された診療にさまざまな問題を孕んでいることが示唆される。また、そうした診断基準の開発過程あるいは日本への導入過程において、一致して合意されたとは言い難い。本研究の目的は、青少年を対象とする精神科的問題に関わる診断基準の適応及び診療の適正さを、これまでに話題となった事例をもとに検討すると共に、青少年の問題に対して精神科診療機関内における医療の具体的プロトコールの確立を目指したものである。研究はまず6部分、1)児童思春期の精神・行動障害の診療モデルの有用性の検討、2)小児期発達障害の診療モデルの研究、3)ADHDに関わる診療モデルの検討、4)青年期の行動異常に関わる親子アタッチメントと医療、5)青年期CDにおける現行診療状況の問題点解明、6)診断モデルに基づく医療プログラム施行の検討(CD)と虐待との関係)からなるが、将来的にはこれらを青少年の精神科医療プログラムの開発に集約させていくことを考えている。
研究方法
1.児童思春期の精神・行動障害の診療モデルの有用性の検討(分担研究:山崎晃資)
①児童思春期病棟15施設における平成13年10月30日現在の入院状況について、アンケート調査、②全国児童青年精神科医療施設協議会 (全児研) の報告書 (31号) に添付された平成12年度入院統計の検討、③愛光病院児童思春期病棟および都立梅ヶ丘病院の入院及び運営状況などについての検討を行い、我が国における児童思春期の精神・行動障害の診療モデルについての今後の検討課題をまとめた。
2.小児期発達障害の診療モデルの研究(分担研究:太田昌孝)
高機能自閉症児に対する認知発達段階にあったプログラムの開発を念頭に置いて、非定型自閉症の男子2名を対象とし、集団活動を通しての社会性の獲得について研究した。集団活動(バレーボール)を週に一度、1回30分、計38セッションを行い、ビデオカメラにて録画した。その評価を、他者との対人関係性、自発的役割において検討し、CBCL (親と教師)、S-M社会生活能力検査 (親)、改訂小児行動質問票 (親)、STAI (親) と共に評価した。
3.注意欠陥・多動性障害に関わる診療モデルの検討 (分担研究:上林靖子)
日本児童青年精神医学会および日本小児精神神経学会の医師1,395人(有効回答数701人)を対象としたアンケート調査を実施した。作成した質問票の内容は、①ADHDの診断、②ADHDと診断した子供に対する薬物療法、③家庭・学校・その他との連絡・連携、④薬物療法以外の治療プログラム、⑤治療の現状についての問題点、の5点から構成されている。その結果をADHDの診断治療の現状についてまとめ、考察した。
4.青年期の行動異常に関わる親子アタッチメントと医療 (分担研究:皆川邦直)
対象は東京都立中部総合精神保健福祉センター思春期デイケア親プログラムにおいて施行されている、思春期の養育心理教育およびグループ親ガイダンスに参加した延べ1,632名の親のうち、2ヶ月以上継続参加し、2回以上ガイダンスを受けた59名の親である。対象となる思春期問題は非精神病性の多様な障害であるが、多くは不登校、家庭内暴力、ひきこもりまたは怠学、非行である。その評価方法は、①(助言)活用群と非活用群、②子供の変化、③ガイダンス前後における親の気持ちの変化、④親自身のアタッチメントスタイルの評価(希望者のみ)を軸にしている。これらにつき、その効果を臨床的に測定評価した。
5.青年期行為障害における現行診療状況の問題点解明(分担研究:中島豊爾)
分担研究者の所属する旧来型の公的精神科病院における、20歳未満の少年について、平成9年度以降5年間の外来、入院状況の経年変化を疾患別に調査、検討することにより、病院の担う役割の変化を分析した。また、衝動性制御が困難なため、近年事例化することが増えている軽度発達障害に対する役割の検討のために初診時20歳以上で発達障害(精神遅滞を除く)の症例についても調べた。さらに、現状の把握のために、17例の機関連携を必要とした児童・思春期事例の検討を行った。
6.診断モデルに基づく医療プログラム施行の検討(行為障害と虐待との関係) (分担研究:中根允文)
平成13年4月から12月までに、研究協力者の所属する児童相談所に非行相談として受理されたケースから、CDと診断されたものと、非行はあるものの、CDと診断されなかったケースについて、虐待の既往、両親の問題、等12要素につき、統計学的有意差を検討、今後の被虐待児のCDの出現に関して早期アプローチの可能性を考察した。
結果と考察
1. 児童思春期の精神・行動障害の診療モデルの有用性の検討 (分担研究:山崎晃資)
3つの調査の結果、外来および入院治療を必要とする児童思春期の子供達が、かなりの数で存在していることがわかった。その治療の問題点として、1)入院適応の問題、2)入院治療の困難性、3)スタッフの情緒的混乱、4)児童思春期病棟からの退院に際して起きる問題、5)退院後のフォローの問題、6)地域における児童思春期精神保健システムの確立があげられ、現行の診療報酬体系では非常な努力を強いられていることも確認できた。児童青年精神医学の守備範囲は広く、また、症状の発現時期が早まり、解決には長い時間を要するようになってきた現状では、一刻も早い、児童(青年)精神科医療の確立が不可欠である。
2.小児期発達障害の診療モデルの研究(分担研究:太田昌孝)
対象となった非定型自閉症児2名において、バレーボールのルール理解の向上と対人関係の改善が見られた。これは小集団を編成することで急に高まり、できなさの不安のない集団が他者への働きかけ、帰属意識を育んだと考えられた。高機能自閉症児でも、集団指導場面において社会性が促進されうるが、家庭・学校生活における行動改善には結びつかず、今後は現実生活のシミュレーションや家庭、学校との連携を含んだ包括的プログラムが必要となるであろう。
3.注意欠陥、多動性障害に関わる診療モデルの検討 (分担研究:上林靖子)
ADHDを診療対象としている一般精神科医は64%、児童青年精神科医は94%であった。診断基準にはDSM-Ⅳ、ICD-10Fが用いられているが、その適用に困難を感じている医師が半数以上であった。主として、診断項目についての客観的判断が困難であること、症状の場面性、変動に関するものであり、診断ガイドラインの確立が必要であろう。薬物療法が84%において行われていた。第1選択に使用される薬物は中枢刺激剤であるが、児童青年精神科の方が高率に選択されていた。が、信頼性、妥当性のあるとされる、チェックリストを使用している例は10%以下にとどまり、薬物療法の適用と使用法、効果判定法を確立する事が求められる。心理社会的治療としては、学校との連携を中心に積極的に行われていた。先駆的な特殊プログラムの実施は10%以下であり、極めて少ないのが現状である。
4.思春期のメンタルヘルスを促進する治療プログラムに関する研究-グループ親ガイダンスと親へのサイコエデュケーション-(分担研究者:皆川邦直)
親プログラムによって、助言を活用したり、活用しようと努力したりする親の子供は8割以上改善を示した。一方で、親自身が子供とのかかわりに興味を示さないものが15%存在し、この群の子供には親以外の大人が彼らの養育にかかわる必要があると思われた。個別ガイダンスに比べ、グループ親ガイダンスは時間経済効率が高いので、この種の親子支援プログラムが設置されることが望ましい。
5.青年期行為障害における現行診療状況の問題点の解明(分担研究:中島豊爾)
旧来型の精神科病院においても、他機関では対応困難な児童・思春期事例の緊急対応を含めた入院治療を行うことはある程度まで可能であった。現状において努力できることは、法的機関(検察庁、少年鑑別所)、警察署との迅速な連携を保つこと、福祉、教育機関との連携が日常的に必用なことである。また、対応を誤れば、行動障害に発展するリスクの高いPDDなどの発達障害事例も無視できないため、一般精神科医の発達障害に対する診断技術の向上を図る必要があると思われた。将来的には、拠点となる医療機関の整備、動的ネットワークの構築、矯正・司法との境界設定と継続的見直し、医学・教育・心理・社会診断の整合性の確立、児童相談所における診断・相談機能の強化が必要とされる。
6.診断モデルに基づく医療プログラム施行の検討-行為障害と虐待との関係(分担研究:中根允文)CDと診断されたケースには、CDと診断されなかったケースに比べ、虐待の既往が有意に高く、その体験の有無に止まらず、その質の違いにも認められた。早期に始まり、何種類かにわたる虐待を受けた子供たちはその後の問題行動が予想できるだけでなく、いわゆるCDと言われる問題行動に発展する可能性があると考えられた。ゆえに、被虐待体験の有無だけでなく、その質をも考慮した、早期のアプローチの重要性が示唆された。
結論
青少年を対象とする精神科的問題に関わる診断基準の適応および診療の適正さを検討するために、児童思春期の入院治療に関わる実態、高機能自閉症児の治療プログラムの検討、注意欠陥・多動性障害の診断・治療の実態、思春期症例のグループ親ガイダンスの試み、青年期行為障害の現行診療状況の問題点の解明、被虐待児の行為障害への発展のリスクについて、各分担研究者の専門性を生かして検討することができた。こうした各論的な視点及び一部総括的な視点を含むが、現在の児童思春期及び青年期の問題行動および行為障害等における診断・治療の問題点がかなり明らかにされたと考える。また一部については、その具体的な治療プログラムの施行の検討も行われた。しかし、今年度の結果はいずれもパイロット段階であり、こうした実態を改善する試みがより広範な計画のもと多数の実地施行がなされて初めて、青少年期における具体的な精神科医療プログラムが提案されてくるものであり、到底単年度にて結果が出るはずのものではなく、今後さらに入念な研究継続の必要性が望まれるところである。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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