高次脳機能障害者に対する連続したサービスの提供に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100349A
報告書区分
総括
研究課題名
高次脳機能障害者に対する連続したサービスの提供に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
長岡 正範(国立身体障害リハビリテーションセンター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤徳太郎(国立身体障害リハビリテーションセンター更生訓練所)
  • 飯田 勝(埼玉県総合リハセンター)
  • 伊藤利之(横浜市総合リハビリテーションセンター)
  • 宮永和夫(群馬県精神保健福祉センター)
  • 片山容一(日本大学医学部板橋病院・脳神経外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立身体障害者リハビリテーションセンター、分担研究者の施設を中心に、社会的リハビリテーション諸施設、すなわち更生援護施設、更生相談所、地域リハサービス、精神障害保健施設などにおける実態を調査し高次脳機能障害者のリハビリテーションおよび福祉サービスの連続性についてわが国の現状について把握するとともにその課題を明らかにし、サービスの質の評価方法やサービス提供方法等、今後のわが国のサービスのありかたについて明らかにしようとするものである。本研究は平成13年度から実施された「高次脳機能障害者支援モデル事業」に対して、その成果を提供するための調査研究である。
研究方法
現状(実態)調査と前向き調査とからなり、いずれも3年計画で実施する。
1.現状調査
[1年目]実態調査:更生援護施設、更生相談所、地域リハビリテーション、精神障害者保健施設など高次脳機能障害者が現在利用可能なリハビリテーション施設に対して実態調査を行う。どのような原因疾患、人口学的背景、紹介元の機関の種類、手帳の有無と種類、訓練内容などを調査する。その細目は、更生援護施設における実態、職業訓練に関する状況、更生相談所を通じてあるいは地域に見られる種々のサービスにおける実態、精神障害医療・社会復帰施設の利用等からなる。
[2・3年目]1年目の調査結果を分析し、現有の諸施設の高次脳機能障害者に対する関与の現状を明らかにする。モデル事業で検討される予定のプログラムの策定に基礎的な資料を提供する。実態調査:同調査を反復することによりこれら社会リハ諸施設の利用状況の経時的変化を調査する。
2.前向調査
[1-3年目]地域を限定し、特定の救急救命センター、脳神経外科病院に入院した高次脳機能障害者を登録する。退院後、総合リハビリテーション病院を経て、更生援護施設、更生相談所、地域リハビリテーション、精神障害者保健施設などのどのような機関を利用し、最終的に復職・復学・保護的雇用・生活施設・在宅・病院入院などどのような帰結になったかを検討する。また、その経過で特定の機能評価項目がどのように推移したかを記録分析する。
現状調査・前向調査により平成13年度から開始される「高次脳機能障害支援モデル事業」の実施に伴って新たに導入されるプログラムの帰結に対する影響の有無を検出することできると予想される。
結果と考察
(1)更生援護施設における実態調査:高次脳機能障害者を抽出するために障害種別のうち外傷性脳損傷者を対象とした。施設利用中の外傷性脳損傷者の利用施設種別は、身体障害者更生施設11.2%(重度身体障害者更生援護施設8.1%)、知的障害者更生施設22.5%であり、知的障害者更生施設の利用者が多かった。重度身体障害者更生施設と知的障害者更生施設でのケアの必要性を検討すると、両施設利用者とも身体的ケアの必要性は低く、高次脳機能障害によって生じると思われるケアに必要性は高い傾向が認められ、知的障害者更生施設においてケア全般の必要性が高かった。
(2)更生援護施設における高次脳機能障害者の職業訓練に関する実態:国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所において約20年間にわたり職業訓練を施行した128名の外傷性脳損傷について、訓練帰結を中心に検討した。平均年齢は23.3歳、受傷時平均意識障害期間は39日、平均FIQは81であり、 職能訓練44%、職業訓練56%で、平均訓練機関は17.7月であった。1)高次機能障害の主な内容は記憶障害46%、注意障害9%、失語20%、対人機能拙劣17%、適応障害26%であった。2)訓練帰結は、一般就労54%、自営5%、福祉就労9%、家庭復帰等31%であった。3)高次脳機能障害と訓練帰結との関係については、記憶障害、注意障害、失語などの神経心理学的症状を合併は就労率にほとんど影響を及ぶさなかったが、対人機能拙劣、適応障害などの精神機能障害の合併例では就労率を低下していた。すなわち、神経心理学的症状を合併せず精神障害も合併しない例の就労率は64%であるのに対して、神経心理学的症状を合併せず2項目以上の精神症状を合併している例の就労率は33%であった。
(3)横浜市総合リハセンターを利用した高次脳機能障害者の実態調査を行い、社会参加へ向けたリハビリテーションセンターのあり方を検討した結果、高次脳機能障害者にとって、入院・外来といった医療施設や身体障害者更生施設、授産施設、スポーツ施設、さらには障害者更生相談所を同一センターに併設し、包括的な医学・社会・職業リハサービスを利用者のニーズに合わせて円滑に提供できる体制を整備することが有効かつ効率的なアプローチを実施できる条件であると考えた。急性期病院とリハビリテーションセンターとの連携や有効なプログラムの開発、利用可能な社会資源の拡充が今後の課題である。
(4)精神医療施設・精神障害者社会復帰施設等の機能については、本年度はまだ明らかになっていない。
(5)前向調査:日本大学医学部板橋病院に入院した患者で、高次脳機能障害をもつものについて調査項目(社会的データ23項目、医学的データ12項目、機能的データ10項目、帰結データ4項目)を決定し、本年度中は11例の登録を行なった。今後、追跡調査の予定である。
結論
本年度の実態調査では、更生援護施設を利用する外傷性脳損傷者の特徴や、更生訓練所を利用した職業復帰に関して基礎的な資料が得られた。横浜市総合リハビリテーションセンターを中心とする医学・社会・職業にわたって行われている包括的サービスは、平成13年度に開始された高次脳機能障害者支援モデル事業との関連で、地域との連携の一つの具体的モデルとなりうるものと期待される。一方、前向き調査については今後一層の症例の蓄積が必要である。また、精神保健分野におけるサービスの実態については更に検討する必要がある。

公開日・更新日

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