青少年の飲酒問題の実態と予防に関する研究

文献情報

文献番号
200100347A
報告書区分
総括
研究課題名
青少年の飲酒問題の実態と予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
白倉 克之(国立療養所久里浜病院)
研究分担者(所属機関)
  • 白倉克之(国立療養所久里浜病院)
  • 尾崎米厚(鳥取大学医学部衛生学)
  • 勝野眞吾(兵庫教育大学学校教育学部)
  • 清水新二(国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部)
  • 鈴木健二(国立療養所久里浜病院)
  • 樋口 進(国立療養所久里浜病院)
  • 杠 岳文(国立肥前療養所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は青少年の飲酒問題に関する2つの実態調査研究、具体的な予防活動に関する3つの研究、さらにアルコール関連問題についての時系列データに関する1つの導入研究より構成され、それぞれが互いに独立した6つの研究に区分することが出来る。 以後、各研究課題ごとに以下の課題番号をつけて記載する。括弧内は分担研究者名である。(1) 未成年者の飲酒問題の長期予後に関する研究 (鈴木ら)、(2) 我が国の小・中・高校におけるアルコール教育の実態に関する健康教育プログラム (尾崎ら)、(3) 学校を基盤とした健康教育プログラム (勝野)、(4) 飲酒問題のある青少年に対する有効な教育・介入技法の開発に関する研究(杠ら)、(5) 未成年者飲酒を取り巻く環境のあるべき姿に関する研究 (樋口ら)、(6) アルコール関連問題に関する時系列データに関する研究 (清水ら)。
研究目的 = 本研究は、青少年におけるアルコール関連問題の予防施策を効率的に行なっていくための、基礎資料提供をその目的としている。具体的には、(1) 未成年者の飲酒問題の発生過程とその助長要因の同定、(2) 学校における飲酒問題の予防教育の実態把握、(3) 学校を基盤とした飲酒問題に関する健康教育プログラムの作成および評価、(4) 具体的な教育教材や問題飲酒者への教育介入技法の開発、(5) 飲酒に関して青少年を取り囲む環境の評価、等を行っていく。また、これらのデータを含めたアルコール関連問題全体のデータベース作成に関する予備的研究も行っていく。研究結果から、彼らの飲酒を促進している要因の同定、彼らを取り囲む環境や予防教育についての具体的な提言がなされることが期待される。
研究方法
(1) 1997年に神奈川県M市の4つの中学校に在籍していた生徒本人と保護者より調査研究の同意が得られた802名を対象として、3年後の郵送によるアンケート調査を実施した。転居等により追跡不能な14ケースと無記名の回答18通を除き、578通の返送が得られ、これらを有効回答として分析処理した。調査内容はこの1年間の飲酒頻度、飲酒量、飲酒場面、同伴飲酒者、未成年者の飲酒に関する意識の変化や飲酒による失敗経験などより構成され、例年と同様の内容であった。(2) 研究対象は全国の小・中・高校よりそれぞれ無作為に抽出された各300校ずつとし、調査票は各校で健康教育の企画・実施の中心的役割を果たしている教師に各校を代表する形で記入していただいた。調査内容は健康教育の実態に関するもの及び学校保健の近年の課題やトピックスなどとし、調査期間は2002年3月より4月とした。(3) 本年度は欧米諸国の飲酒・アルコール問題に関連する健康教育プログラムを収集してその動向を分析し、なかでも青少年の飲酒問題に焦点を絞って作成されている米国の包括的プログラムProject Northlandの内容について詳細に検討した。(4) 県教育現場関係者との協議の結果、喫煙問題やアルコール・薬物問題は補導や生徒指導の形で関与することが多い事実を踏まえ、補導や生徒指導された対象者への教育・介入を含めた飲酒教育を禁煙教育・薬物乱用防止教育を統一した視点で行うこととした。生徒指導を受けた高校生6人に飲酒問題のスクリーニング・テスト(AAIS,QFスケール)を実施し飲酒問題の評価を行うと共に、Brief Intervention技法を用いて予備的に教育・介入を行った。また出来るだけ平易な表現と身近な問題として理解しうるよう配慮して飲酒問題を有する高校生用健康教育教材を作成した。(5) 新聞13紙を対象として、一般紙は朝刊のみ7日間、タブロイド紙は6日間に掲載されたアルコール飲料の宣伝広告について、その数、大きさ、内容などの検討を行った。同じ新聞紙面に掲載された物を売ることを目的にした広告についても検討した。アルコールの広告が全広告のどのくらいの割合をしめるか、また未成年者をターゲットにしているかなどについて特に留意した。(6) 平成13年度は導入研究として、アルコール問題の各種データを広範に渉猟し、これを検討して時系列データソースとして選別した。
結果と考察
(1) 今回の調査結果を過去3回のそれと比較すると、月1回以上の飲酒者が増加し飲酒量ではビールをコップ2杯以上飲むものの割合が増加している。QFスケールで飲酒状態を評価すると、問題飲酒群は5.7%へ増加すると共に正常群は55%減少しており、飲酒パートナーも家族と飲む者が減少し友達との飲酒が増加していた。飲酒を勧められた時の態度では「断る」という回答が60%から30%に激減し、「断れずに飲んでしまう」と言う回答が5%から26%へと増加していた。飲酒に関する意識の変化についても、3年経過の間に「飲まない方がよい」という意見が減少し、「飲む、飲まないは個人の自由」という考えが上回る結果になっていた。性差については、女子の方が問題飲酒群が少ないものの、パートナー・飲酒を勧められたときの態度や意識には性差が見られなかったという。(2) 調査内容としては、平成13年度の健康教育の実施頻度、実施場面別実施回数、実施担当者、指導方法、指導内容
の項目、学外講師の有無、関係機関との連携、生徒の問題行動の有無、職員研修等を具体的に調査すると共に、健康教育開始の望ましい学年についても調査した。又自由記載調査として、アルコール予防教育推進のため現場での問題点とその対応や課題についても過去の実績調査と比較し得るように配慮をして実施した。(3) 欧米諸国の飲酒・アルコール教育に関連する動向を分析した。飲酒・アルコール問題を含む薬物乱用プログラムをBukoskiの指摘の如く、1. 知識・認識に関する領域、2. 意識・態度と対人関係に関する領域、3. 行動に関する領域、4. 環境に関する領域、5. 治療に関する領域の5領域に分けて、それぞれ具体的な目標と達成方法について検討した。その結果、知識のみを重視した旧来の教育手法は有効ではないとの結論に達し、2,、3,、4を重視した包括的な飲酒・喫煙・薬物乱用防止プログラムが開発される傾向が顕著となり、なかでも児童・生徒参加型のプログラムが主流になっている事実を指摘している。又飲酒を含む薬物乱用防止教育の評価と有効性について検討し、Life Skills Training Programの長期間にわたる有効性を指摘すると共に、Meta-analysisを用いての有効性の評価が重要であると結論し、特に米国の地域と連携した包括的プログラムProject Northland の内容について詳細に報告している。(4) アルコール健康教育のための教材『アルコールと健康-きみの健康をお酒の害より守るために-』を作成した。これは、1. 青少年の飲酒の実態、2. 依存性薬物としてのアルコール、3. アルコールによる健康被害、4. アルコール依存症の4部より構成され、約30分間で読了しうるもので、写真や図表を多く取り入れる工夫がなされている。この教材に関する生徒の読後感想を求めた結果、全員「役に立った」と答えており、全員が関心を持って読んだ手応えが得られたと報告している。次いで喫煙指導を受けた生徒6名へのBrief Intervention技法を用いた試行的介入について報告がなされており、向後事例を積み重ねながらより有効な介入プログラムの提示を目標に検討していく。(5) アルコール飲料の新聞紙上での宣伝広告の調査によると、販売を目的とした全広告2,172点の4.3%を占めていた。新聞の種類で広告商品の内容に相違があり、一般紙では日本酒をはじめ多種類の酒類広告が出ていたが、タブロイド紙やスポーツ紙では発泡酒の広告がその大半をしめていた。内容については商品の写真とコピーの組合せが約2/3を占めており、読み物的な広告は週刊誌に較べて少なかった。今回の調査では明らかに青少年や女性を標的とした広告は殆ど見られなかったものの、広告の量と質は季節的な影響が指摘されているところであり、今後引き続きモニターする予定である。(6) 現在までのところ、27のデータソースが確認されており、その内データの収集・入力が済んだ項目について以下のような結論を得た。1. 肝硬変死亡数は戦後一貫して増加傾向にあるが、アルコール性肝硬変症者数は横這い状況を経て、1990年代より確実な増加トレンドに入っている。2. アルコール依存症死亡数は増加トレンドと減少トレンドを繰り返して推移しているが、アルコール精神病死亡者数は増加期・安定期・減少期と位相変化が明確であり、1975年以降は現在まで減少期にある。3. 急性アルコール中毒死亡数は1970年代後半をピークに減少を示し、最近ではピーク時の1/10程度で推移している。4. 飲酒運転違反件数は車両総数や運転者数の増加にもかかわらずほぼ横這い状態を示し乍ら推移し、酒酔い運転は減少している。5. 戦後の酒類製生量は戦後の高度成長期の1955-1975年間で4倍強の激増トレンドを示していたが、これに続く安定低成長期でも伸び率こそ鈍化しているものの増加トレンドで推移し、平成年間に入って停滞トレンドで現在に至っている。
結論
本研究は今日大きな社会問題となっている青少年のアルコール関連問題に対する効率的な予防活動を展開するための基礎資料の提供を目的としている。その目的を達成するために、青少年の飲酒問題発生のプロセスの解明とその助長因子の同定、アルコールを含めた
予防教育の実態把握、予防教育プログラムの確立と具体的な教育用教材の開発、教育介入インターベンション技法の検討、さらには青少年を取り巻く環境諸要因の検討などと共に、アルコール関連問題に関する体系的なデータベースの構築を課題として研究を推進してきた。個々の課題一つ一つについても、それぞれ重要かつ多大なエネルギーを要する研究課題であるが、いずれも青少年のアルコール関連問題の予防活動の実効性ある展開には不可欠な課題として位置づけられており、有意義な基礎資料の提供を目指して鋭意とりかかっている状況である。本年度は3年計画の1年目であり、具体的なデータの提供は少なかった。しかし、未成年者のコホート研究では、追跡3年後の調査結果に関する解析内容などの貴重なデータが報告されている。また、健康教育プログラムの作成・評価に関する研究、教育教材や教育介入技法の開発に関する研究、環境要因の研究でも実績が示されている。次年度以降、学校に於ける予防教育の実態調査から貴重なデータが報告されるものと期待される。さらに、アルコール関連問題に関するデータベースも順調に構築されていき、利用可能となることが期待される。

公開日・更新日

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