精神障害者の偏見除去等に関する研究

文献情報

文献番号
200100346A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の偏見除去等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 光源(東北福祉大学大学院精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 原田憲一(日本精神衛生会)
  • 西尾雅明(東北大学大学院医学研究科精神神経学)
  • 西村由貴(科学警察研究所)
  • 千葉潜(青南病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神医学における医療・保健・福祉は、精神障害者の社会生活機能を高め、その社会参加を実現するために行われている。精神障害の治療法はこの四半世紀の間に大きく変わり、新しい薬物療法や進歩した心理社会的ケアによって大幅に向上した。その反面、精神障害(者)に対する差別や偏見は根強く、それが障害者や回復者の社会参加を阻む大きなリスク因子であるという状況は変わっていない。そうした偏見は、精神医学への無理解や誤解や不適切な報道といったさまざまな因子で構成されており、それらを軽減するための具体的な戦略を策定し、実施する必要がある。本研究班の目的は、1)精神障害(者)に対する国民各層の理解を明らかにする、2)精神分裂病に対する差別や偏見を軽減できる具体的な方策を提案する、3)「精神分裂病」から「統合失調症」に呼称変更することによる偏見の軽減を図る、4)精神障害者関連施設への偏見とその除去手段を明らかにする、という4点に要約される。
研究方法
「精神障害(者)に対する国民各層の意識調査」では、日本精神衛生会員を対象としたアンケート調査を行った。平成13年10月初旬に日本精神衛生会員1760人にアンケートを郵送し、無記名で回答を求めた。アンケートの内容は、対象者の属性、精神障害者との接触経験、一般によく聞かれる精神障害者にまつわる言説に関する設問、職業的な関わりをするときの倫理的な配慮に関する設問、日常生活の中で精神障害者が関連する出来事への対処方針に関する設問、精神障害者差別に関する認識を問う設問、精神障害者のノーマライゼーションを進めるための施策の有効性についての設問などとした。「精神分裂病に対する偏見除去の方法に関する研究」では、地域保健の現場で実用可能な精神分裂病偏見除去のためのプログラムを提言するための第一段階として、平成13年度は北海道十勝、仙台、岡山の3地区において、それぞれの地域の実情に合わせた対象者(高校生、ホームヘルパー、民生委員)を設定し、専門家の講義と当事者の体験発表、小集団での接触体験を組み合わせた1~3回にわたる短期介入を行った。アンケート調査により評価された対象者の知識・態度の介入前後での変化を、対照群と比較する形で、それぞれの短期介入の効果が検討された。「精神分裂病の病名告知が患者・家族に与える影響に関する研究」では、平成13年度に日本精神神経学会・精神分裂病の呼称変更委員会で提出した精神分裂病呼称変更に向けての最終代替案である「統合失調症」に関し、当事者が社会からどのような偏見イメージをもたれると思うか、及び、同呼称の普及と理解を深めることを目的としてアンケート調査を行った。全国の登録社会復帰施設の指導員に最大10名の通所・入所者を選別依頼し、調査に同意された人々を対象とした。調査は全て郵送にて行った。「精神障害者関連施設に対する偏見とその除去に関する研究」では、平成13年度は全国の民間精神科病院1215施設とそれらが設置母体となる精神障害者グループホームについて調査をおこない、地域偏見によるそれぞれの施設開設時における影響および周辺地域偏見の状況をまとめた。
結果と考察
本年度はその初年度であるが、その研究成果の概要は次のようである。1)日本精神衛生会員を対象にした「精神障害(者)に対する国民各層の意識調査」では、510の有効回答(回答率29.0%)を得た。回答者の多くは精神保健福祉の専門家であった。回答者はさまざまな機会に、高い頻度で精神障害者との接触経験を有していた。専門家として活動する場合、一定の行動上の制約があることを自
覚しており、日常生活では控えめに援助を行うという回答が多かったが、一般に比較して社会における精神福祉活動に前向きの姿勢を示す回答が多かった。差別が問題になるような状況を高い頻度で経験しており、約9割が精神障害者は差別されていると感じていた。差別を軽減する方策として、医療の整備、住民への情報提供や支援、各種のイベントやキャンペーンなどが効果的と考えられていた。以上のように、専門家の視点から見た精神障害者差別のありようや、対処すべき方向性が明らかにされた。2)仙台、十勝、岡山で得られた地域拠点研究の結果を総括すると、①短期間の講義形式の介入でも、分裂病の知識や患者への態度が改善する項目が認められた、②介入前の知識や介入が効果を与える態度の領域は、対象者種別によって異なる傾向をみせた、③講義形式の介入に、小規模な集団での当事者との当たり前の接触体験を加えることにより、介入効果が高まった、④対象者も当事者の講義や集団への参加を有用なものと評価していた、⑤ヘルパーを対象とした時、偏見の程度の強い者ほど介入の効果が得られやすかった、などの結果が得られた。以上から、従来型研修でも一定の効果が得られるが、当事者参加型プログラムの重要性や、そこでの交流のあり方が精神分裂病に対する偏見を軽減する際のポイントとなることなどが明らかとなった。今回得られた3地区の結果を統合的に解析するとともに、さらなる実証的根拠を蓄積すべく調査研究を進展させる必要がある。3)世界精神医学会の「精神分裂病に対する差別と偏見をなくするためのプログラム」に参画している日本精神神経学会理事会で、精神医療・保健・福祉の領域において「精神分裂病」を「統合失調症」に改称することを決めた。このあと、同学会評議員会の議決、総会の承認が得られれば医療法の「精神分裂病」を「統合失調症」に変更する方向で作業中である。初年度の今回は、まず「統合失調症」に呼称が変更されるまでの経緯をとりまとめ、ついで、全国の社会復帰施設を利用している当事者を対象に、新呼称の受け入れ状況などに関するアンケート調査を実施中であり、結果は、次年度に報告する予定である。「精神分裂病」から「統合失調症」へ呼称が変更されたことは、古くなった疾患概念を改める意味も込めて呼称を変更している点で諸外国に例をみないものであり、その抗スティグマ効果が注目されている。4)精神科関連の医療・福祉施設を開設する際に、地域の偏見により開設に影響のあった事例を調査した。対象となったのは日本精神病院協会の会員病院(1215病院)で回収率は約67%であった。過去5年間に約69%が病院建築工事を行い、うち34%が地域住民からの抵抗を受けている。その77%は地域の協力を得るために何らかの対策を講じているが、それでも16%が工事計画の実施に支障をきたしていた。精神障害者グループホームの開設で地域住民の反対があったのは28%であり、15%が開設に支障をきたしている。地域のグループホーム建設にあたり、通学路の通行禁止や賠償の念書、地域行事からの疎外といった実体が浮きぼりになっており、施設スティグマ軽減への取り組みは急務と考えられる。
結論
平成13年度は、連携を取りながらも4つの分担研究各々の課題に取り組んできた。その結果、精神障害(者)に対する専門家の意識や関連施設建設地の住民の反応が浮き彫りとなり、より効果的な偏見除去プラグラム案を作成するための準備も整いつつある。一方で、「精神分裂病」から「統合失調症」へと病名呼称が変更されることに関する当事者や一般市民の意識や、変更による影響を評価するニーズも高まっている。平成13年度に得られた結果を基に、さらに精神障害者に対する偏見構造を明確化し、偏見除去を効果的に推進するためのプログラム案・施策案を作成するための調査研究活動を進展させる必要がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-