児童思春期精神医療・保健・福祉のシステム化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100344A
報告書区分
総括
研究課題名
児童思春期精神医療・保健・福祉のシステム化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
齊藤 万比古(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内知夫(医療法人愛光病院)
  • 佐藤泰三(東京都立梅ヶ丘病院)
  • 太田昌孝(東京学芸大学付属特殊教育研究施設)
  • 奥村雄介(関東医療少年院)
  • 開原久代(東京都児童相談センター)
  • 上林靖子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 生島浩(福島大学大学院教育学研究科)
  • 長井圓(神奈川大学法学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、児童思春期の子どもに特有な引きこもりや行為障害を伴う心の障害に対する対応のこのような現状を、主に関連する各専門分野間の連携という観点から分析するとともに、問題出現の早期から諸機関の連携による包括的・連続的な援助を提供できるような対応システムのあり方を検討し、期待されるシステム化案を呈示することを目的として行うものである。
研究方法
主任研究者は、今年度は研究協力者と共にワーキング・グループを形成し、精神医療、児童福祉、精神保健、教育相談の各分野に属する諸機関573ヶ所に対して、子どもの心の障害に対する対応および他機関との連携の現状を明らかにするアンケート調査を行った。主任研究者は各分野の連携をめぐる実態を示しているこの調査結果と、各分担研究者が実施した本年度の研究成果をまとめることで総括研究とした。
結果と考察
(1)回答率49%であった総括研究における調査結果から次のような連携をめぐる現状が明らかになった。対象とする問題のうち非行、虐待、家庭内暴力は主として児童相談所をはじめとする児童福祉機関が、精神障害は主として精神保健福祉センターと保健所からなる精神保健福祉機関および精神科医療機関が、不登校・引きこもりは児童福祉機関、教育機関、精神保健福祉機関、精神科医療機関の全てが対応している。これらの機関は精神科医療機関、児童相談所、教育相談機関との連携経験を現在でもかなり持っているが、その他の機関との連携経験はそれよりかなり低い水準になっている。連携の必要性については最も少ない矯正・保護機関に対してさえ74%の機関が連携を必要と考えており、精神科医療機関、児童相談所、教育相談機関の3機関との連携の必要性にいたっては95%以上の機関がそれを認めているなど、各機関で分野の異なる多機関との連携の必要性が高まっている現状を示している。なお現状では回答を寄せた機関の31%が複数の分野の機関が参加する連携システムに参加していると答えている。このようにニードの高い連携であるが、実際に連携上の困難を感じた事例は年齢的には13歳以上の思春期・青年期が、性別では男子が多い。その問題の内容は、主問題としては「対社会的問題行動(非行)」が特に多く、「神経症症状(不登校・引きこもりなど)」と「虐待を中心とする家族要因」がそれに続いており、その他の問題は数の上でかなり少なくなる。ところが、困難さに関与している問題を全て拾い上げるとこの上位3問題にまったく数の違いは見出されなくなることから、この3問題が単独でというよりは重複することで困難さを増大させ、連携ニードを高めていることが推測される。また地縁や人脈を頼りにした2機関間の自然発生的な協力関係が従来の連携の主流であったとすれば、現在は地域に存在する多彩な分野の機関が参加するより組織化された実効力のある連携システムを求めるニードが高いといえるだろう。今後この分野では、現存する連携システムの機能と限界についてより詳細な検討を加える必要があり、それに基づいて各地に形成すべき連携システムへの参加機関、活動範囲、持つべき機能を定義していく必要がある。特に現状で最も欠けているのが個々の事例に対するケース・マネージメント機能である。事例がある機関から別の機関に移っても一貫して事例の状況を把握し、適切な機関の治療・
援助などの対応への参加を要請できる、この連携システムの要となる機能であり、本研究でこの機能に関する定義を行って連携システムの中に位置づけたい。 (2)行為障害については今年度の分担研究でも非行という枠組みでくくられた少年事例の中に高率で存在することが明らかになり、司法概念たる非行と精神疾患概念たる行為障害がかなり近似のものであることが示された。では疾患概念に組み込まれた行為障害という診断を受ける児童・青年は精神医療の対象といえるのであろうか。これを明らかにするのも本研究の課題であるが、おそらく医療的治療の対象は行為障害全てではないというのが妥当な到達点ではなかろうか。どこまでは精神医療が関与すべき行為障害であり、どこからはそうでないのかという境界線を明らかにすることが今後求められるであろう。現時点では仮説ではあるが「矯正・再教育機能を持つ機関の関与が中心となるべき行為障害」「精神医療機関の関与が中心となるべき行為障害」「両者の中間にある行為障害」に分類する考え方を提示したい。行為障害と診断を受けていても犯罪が問題の中心になっているような場合、従来どおり触法少年と呼ばれた14歳未満の非行では児童相談所、児童自立支援施設等の児童福祉機関が介入の主機関となり、また14歳以上の犯罪少年では検察庁、家庭裁判所、少年鑑別所、少年院、少年刑務所、保護観察所といった司法・矯正機関が主な介入機関となるべきであろう。もちろん学校に所属する子どもの場合には非行への最初の関与機関は学校であり、また学生であると否とに関わらず地域の警察である。これが矯正・再教育機能を持つ機関の関与が中心となるべき行為障害である。次に、行為障害と同時に行為障害以外の精神障害が併存しており、後者の治療が優先されるべきであると判断される行為障害があり、該当する医療機関の治療構造を破壊しない水準の行為障害であることを条件に、従来の精神医療機関が主な介入機関となる。このような精神疾患として薬物性精神病を含む精神病性の疾患、うつ病性障害、摂食障害、器質性精神障害等をあげることができる。AD/HDやアスペルガー障害などの発達障害に併存する行為障害は、年少例ほど教育機関と医療機関の連携した介入が中心になるべきである。また行為障害だけの診断でも小学生や幼児のような年少例では、医療機関が主に介入すべきケースが少なからず存在する。以上の2領域の行為障害の中間領域があって、行為障害だけの精神科診断が可能な年少事例や被虐待児の非行の中には、従来の矯正・再教育機関による介入だけでは支えられない子どもたちがいる。また行為障害以外の精神疾患の診断を受けているものの医療機関の枠組みでは行動修正の成果があがらない併存行為障害もある。このような事例こそ現存するどれかの機関で単独に対処することはきわめて困難であり、機関間のかなりつっこんだ連携により、あるいは新たな機能を持つ機関の新設によってしか対応できない事例であろう。 (3)今後必要となるのは、教育における「長期的施策」と精神医療福祉における「対応・治療」との適切な連携強化、精神医療福祉分野の人的・物的な基盤を整備・配分する施策、未成年者の自律・保護と親権との適切な調整をなしうる法的整備および運用指針の作成、児童福祉法と精神保健福祉法との関係整理等である。
結論
児童思春期の心の諸問題の中で、行為障害を中心にした反社会的な行動上の問題や・不登校・引きこもりなどの非社会的な行動上の問題に対して単一の機関だけで対応することには制限も多く、現在他機関との連携のニードはきわめて高い。現状でも連携は行われており、必ずしもその経験の満足度は低いとは言えないが、満足すべき水準ともいえない。本年度の結論を基盤として次年度では連携システムの現状をさらに詳細に検討して、求められる連携システムの内容・機能について明らかにしていく。また今後このような連携システムを有効に作動させるために、現法律体系下での運用上の問題点を明らかにし、必要な改善点を提示していく予定である。同時に今年度は仮説的に示した医療対象
としての行為障害概念の検討を深め、精神医療の対象となりうる行為障害の範囲を整理するとともに、行為障害を併存させやすい精神疾患についても検討を加える。

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