うつ病による自殺の予防を目的としたスクリーニングと介入の研究

文献情報

文献番号
200100337A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病による自殺の予防を目的としたスクリーニングと介入の研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
神庭 重信(山梨大学医学部精神神経医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 古川壽亮(名古屋市立大学医学部精神医学)
  • 尾崎紀夫(藤田保健衛生大学医学部精神医学)
  • 本橋豊(秋田大学医学部公衆衛生学)
  • 角南譲(八雲病院)
  • 大野裕(慶応義塾大学医学部精神神経科学)
  • 井上雄一(順天堂大学医学部精神医学)
  • 粟田主一(東北大学医学部 精神医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、わが国においては、自殺者数の増加が社会問題となっているが、これまでの研究から自殺者の多くがうつ病(大うつ病性障害)に罹患していることが明らかになっている。未治療のうつ病患者の自殺率は15%にのぼるとされており、うつ病患者の早期発見・早期治療が、直接に自殺者数の減少につながると考えられる。厚生省の患者調査によれば、わが国でもうつ病の受療率が大幅に増加していることが示されているものの、受診していないうつ病患者も多いと推定されている。それゆえ、自殺率を低下させるためには、国民全般に対するうつ病の知識普及(一次予防)とうつ病の早期発見と介入的援助(二次予防)を徹底させることがきわめて重要であると考えられる。うつ病の一次予防や二次予防を全国に広めることを目的として、申請者らは、①精神科医療機関を受診していないうつ病患者に対する簡便かつ確実なスクリーニング法の開発、②うつ病の一次予防や二次予防を行うための行政と医療のネットワークづくりを二本の柱とし、これらを有機的に結び付ける組織的研究を行うために、研究班を組織する。
研究方法
研究は3カ年計画で、平成13年度は第1年目にあたる。本研究では1および2年度において、以下①と②の2系統の研究を並行して進める(研究の詳細は後述)。①うつ病の早期発見スクリーニング手段と介入法を確立する研究 ②全国3箇所の地域をモデル地域として、実際に地域介入を試行し、地域介入の問題点を洗い出し、より効果的なうつ病の早期発見と自殺の包括的な予防対策を考案する研究 3年度は、1および2年度で得られる2系統の研究で得られた成果を統合して「うつ病の早期発見と自殺予防」のための対策案を作成する。またその対策案を、行政事業として、全国規模で使用することを目標とし、地元精神保健福祉センター、保健所、「いのちの電話」、医師会とも協調しながら活動を推進して行く。全年度を通じて、保健婦、「いのちの電話」の関係者、プライマリーケア医師を対象として、“うつ病と自殺"をテーマとしたシンポジウムを開催する。また、マスメディアやインターネットを利用した、一般市民に対するうつ病と自殺に関する啓発普及法の開発をめざす。精神科医療機関を受診していないうつ病患者に対する簡便かつ確実なスクリーニング法の開発と、うつ病の一次予防や二次予防を行うための行政と医療のネットワークづくりを二本の柱として研究をすすめてゆく予定であるが、お互いのテーマが可能な限り相互に関連しあい、有機的なつながりをもつようにする。
計画の詳細は以下の通りである。 1および2年度 ①うつ病の早期発見スクリーニング手段と介入法を確立する研究 a)うつ病患者のスクリーニングに関する文献学的研究:これまでにも国内外において開発されてきたスクリーニング法を、Medlineなどを用いることにより入手し、比較・検討を行う。各々のスクリーニング法の作成の背景、対象、簡便さ、妥当性、他のスクリーニング法との整合性、日本語版の有無などを調査・整理する。 b)地域社会におけるうつ病患者のスクリーニング法の開発:市町村単位での介入的援助のような、多人数に対して用いることが可能な簡便なスクリーニング法の開発を行う。現在知られているスクリーニング法から有用と思われるものを検討する。c)高齢者および身体合併症をもつ患者におけるうつ病のスクリーニング法の開発:高齢者の1割程度がうつ病に罹患しているとされているが、若年者と比較して心気症的傾向が強い。また、プライマリーケア医を受診する身体合併症をもつ患者では、特にうつ病の合併率が高いことから、高齢者と身体疾患患者のスクリーニング法の開発を行う。d)自殺の可能性が強いうつ病患者のスクリーニング法の開発:自殺の可能性が強いうつ病患者の特性を見い出すことを目標とする。自殺未遂歴のあるうつ病患者の特性を後ろ向きに調査・検討する。e)保健婦、“いのちの電話"の相談員にとって用いやすいうつ病患者のスクリーニング法の開発:うつ病患者を発見もしくは患者から相談を受けるそれぞれの職種にとって最も有効なスクリーニング法の選定を行う。②うつ病の早期発見と自殺の予防のためのより効果的な対策を考案する研究 a)スクリーニング法を用いた市町村単位での介入的援助(二次予防):うつ病のスクリーニング法を用いた市町村単位での介入的援助による患者の発見の可能性を検討する。青森県、秋田県、新潟県の3つの自治体をフィールドとして、異なったスクリーニング法を用いた介入的援助を行い、有用性を比較・検討する。
b)一般国民に対するメンタルヘルスの向上に関する教育(一次予防):国民に対する啓発活動に関する研究を行う。本年度は、現在知られている啓発活動の中から、最も効率がよいものを比較・検討する。c)インターネットを用いたうつ病に関する情報の提供(一次予防)と双方向システムによるうつ病患者の発見(二次予防):IT時代を到来をふまえて、インターネットを用いたうつ病の予防システムを構築する。
結果と考察
以下の2系統の研究を計画し、第1年度に下記の成果を得た。
①各種類のスクリーニング手段と介入法をマニュアル化する研究を進めている。第1年度には、自己記入式うつ病評価尺度であるBeck Depression Inventry (BDI)の正式な日本語版を作成し信頼性を検討した。さらに地域住民、検診受診者、大学病院精神科外来患者、身体疾患患者を対象として、うつ病のスクリーニング法としての評価を加えた。
②全国のモデル地域において、実際に地域介入を試行し、地域介入の問題点を洗い出し、より効果的なうつ病の早期発見と自殺の包括的な予防対策を考案する研究を進めている。
青森県における地域介入研究(大野裕)概要:高齢者に対してうつ状態と自殺念慮のスクリーニングテストを実施した。テストの陽性者には、個別に訪問して構造化診断面接を行った。面接の結果、うつ病や自殺の危険性が高いと判断された高齢者には、医療機関への受診を勧め、訪問巡回をして経過観察を行っている。今後は、対象年齢を拡大するとともに、社会的援助の効率的な提供プログラムについても研究を進める。
秋田県における地域介入研究(本橋豊)概要:65歳以上の住民を対象としたメンタルヘルスの健康調査を行い、うつ的症状の有症率に地域差があること、うつ的症状は家族同居によるストレスがあり、手段的自立度が低いことと関連性を有することがわかった。また、地域住民のエンパワメントをはかるため、メンタルヘルスサポーター育成事業を開始し、今後の介入研究の端緒と位置づけた。
宮城県における地域介入研究(粟田圭一)概要:2地区において、高齢者のメンタル・ケアー事業を開始し、保健婦による訪問調査、集団検診、健康相談を介してのスクリーニング、地域住民の啓発事業などを進めている。
島根県における地域介入研究(角南譲、井上雄一)概要:いのちの電話ボランティアに対するメンタルヘルス一般、電話での危機介入の仕方につき研修を行った。これらの活動から、ボランティアが積極的介入に対して強い抵抗感をもっていることが明らかになった。今後はいのちの電話での具体的な介入方法として、ロールプレイ、「MINI」の有効性についてさらに検討を深める。
うつ病スクリーニング法の開発(尾崎紀夫、古川壽亮)概要:Beck Depression Inventry (BDI)の正式な日本語版を作成し信頼性を検討した。さらに地域住民、検診受診者、大学病院精神科外来患者、身体疾患患者を対象として、うつ病のスクリーニングを進める。
第2―3年度は、各地における介入研究をさらに進める。最終的には、それまでに得られた成果を統合して「うつ病の早期発見と自殺予防」のためのマニュアルを作成した。そのマニュアルを、行政事業として、全国規模で使用することを目標とし、地元精神保健福祉センター、保健所、「いのちの電話」、医師会とも協調しながら活動を推進して行く。加えて、一般市民に対するうつ病と自殺に関する啓発普及法の開発をめざす。
結論
全国のモデル地域において、実際に地域介入を試行し、地域介入の問題点を洗い出し、より効果的なうつ病の早期発見と自殺の包括的な予防対策を考案する研究を進めた。各種類のスクリーニング手段と介入法をマニュアル化する研究を進めた。第1年度には、自己記入式うつ病評価尺度であるBeck Depression Inventry (BDI)の正式な日本語版を作成し信頼性を検討した。さらに地域住民、検診受診者、大学病院精神科外来患者、身体疾患患者を対象として、うつ病のスクリーニング法としての評価を加えた。これらの成果をもとに、うつ病による自殺に対する効果的な対策システムを構築すべく、①一般住民(一次予防)、②保健所での検診、③「いのちの電話」、の3つのレベルにおいて、うつ病による自殺のスクリーニングと介入のためのマニュアルを作成する。次に、青森、秋田、島根の3地域をモデル地域としてフィールド・リサーチを行い、全国規模で展開可能な包括的介入マニュアルを開発する。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-