災害時に障害者を支援する情報システムに関する研究

文献情報

文献番号
200100336A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時に障害者を支援する情報システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
河村 宏(財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体障害者、認知・知的障害者及び精神障害者のそれぞれが大規模災害時に必要とする情報の発受信のシステムと、それを実際に運用する人的な支援について総合的に研究し実証試験に基づいた提言を行う。
研究方法
障害当事者団体およびその支援団体と提携して研究を進め、障害者のニーズに応えつつ全ての被災地域住民を支えるバリアフリーの情報システムとその運用態勢の実現をめざす。また、国際的な研究交流と成果の海外への技術移転も展望する。また、プライバシーに十分配慮してそれぞれの障害における災害時の情報ニーズを明らかにする。
防災および救援情報のアクセスに必要な基本技術のうち未完成のものを特定し、必要な場合にはそれの開発も含めた提言を行う。
障害者の個人としての尊厳を基調に置き、実践的なシステムの開発およびそれを運用するためのするを進めつつも単なる技術論議ではなく、システムの運用に必要な諸条件を総合的に考察し提言を行う。
結果と考察
障害者放送協議会と提携して障害当事者の立場から見た事例研究を、阪神淡路地震、名古屋・東海水害、東海村放射線被爆について文献調査および聞き取り調査を実施した。すべてのケースにおいて、障害がある人への事前の情報支援の不備が顕著であり、救援時および長期に及ぶ復興プロセスにおける情報支援と共に、防災情報の視聴覚障害者に対するアクセシビリティーと認知・知的障害者にとっての「わかりやすさ」(comprehensiveness)に重大な問題があることが浮き彫りになった。
比較研究のため、米国ロサンゼルス市周辺の地震に対する聴覚障害者コミュニティーの取り組みに関する文献調査および、連邦政府危機管理庁担当者からの聞き取り調査を行った。世界貿易センター事件以後米国内の防災に関する取り組みが激変したため、ニューヨーク州政府および米国連邦危機管理庁(FEMA)の協力を得て、マンハッタン地区の現地視察を実施し、障害者の被災状況およびその対策について補足的に聞き取りを行った。その中で極めて綿密に行われたとされる貿易センタービル周辺の救援活動においてすら、シェルター(救護および相談拠点)の存在は各国の言語の文字でのみ表示され、非識字者と認知・知的障害者の救援に問題を残したことが懸念される。被災現場での意見交換の中で、国際的に広く理解されるシェルターのシンボルマークの制定と普及教育が必要との認識でFEMA担当者と一致した。
視聴覚障害、重度の身体障害、認知・知的障害、精神障害のすべてを含む情報支援のシステムは、システムの機能と共に、グローバルにそれを共有できる持続性と経済性を不可欠とする。このような視座で、既存の放送、通信、出版およびコミュニケーションの技術と先行する研究を、主としてインターネット検索により、動向把握を行った。その結果、音声、画像、テキストの情報の三つの要素のそれぞれに着目し、コンテンツ製作においてはこれを統合できるフォーマットを選ぶ必要があることを確認した。また、関係分野の研究開発および標準化動向把握のためにW3C、WGBH、スウェーデン障害研究所等を訪問し意見交換を行った。その結果、Digital Accessible Information System (DAISY) が、accessibility およびcomprehensivenessの両方において、防災情報および救援における情報支援のデータフォーマットとして最も有望なコンテンツのフォーマットであることがわかった。これを検証するためにDAISYフォーマットのマルチメディアのサンプルコンテンツを作成した。これの評価は、ユーザーインターフェースの開発と共に2年次の課題である。コンテンツ製作およびユーザーインターフェースの研究については、スウェーデンから"easy to read"出版の専門家を招聘しDAISYの認知・知的障害者向け応用について共同研究を行った。
災害情報および事前教育に関するグローバルな資源共有についてネット上のマルチメディアコンテンツとデジタル放送技術の現況について文献調査および聞き取り調査を行った。デジタルテレビはaccessibilityおよびcomprehensiveness共に十分な検討がされていないことが分かった。特に字幕および副音声による画面解説に必要な時間情報付テキストの標準の欠如が今後の開発の重大な障害になると思われるので、これの標準化の取り組みが必要と思われる。
視覚障害者のWWWのaccessibilityについて、(財)日本障害者リハビリテーション協会が開発したAltairにPDFファイルを読むためのプラグインの開発を行った。これにより、視覚障害者は無償のソフトウエアでWWW上のPDFファイル(防災情報に多用されている)を読めるようになった。
1.事前の教育・訓練を含む防災活動、2.救援、3.復興、のそれぞれのフェーズにおいて必要とされる情報支援とコミュニケーションを様々な障害がある人々を含めて共有するためのシステムは、既存の放送、通信、新聞等の大規模なシステムと共に、口コミ、メモ、メール、携帯電話等の地域に密着したコミュニティーと個人の活動によって効果的に運用されなければならない。そのための、個人、行政、企業、NPO等の連携のありかたについての研究も必要と思われる。
結論
初年度は順調に所期の第一段階の調査および研究開発を実施した。防災、救援、復興のそれぞれのフェーズで障害分野ごとに独自の情報ニーズがあり、コンテンツとインターフェースのそれぞれについてaccessibilityとcomprehensivenessの両面を評価しつつシステムとその運用態勢の研究を進めることにより所期の成果が得られる見通しを得た。
国際的にもアメリカおよびスウェーデンと共同研究を進める態勢が確立され、更に英国と発展途上国にパートナーを求めることにより、グローバルに提携しながら成果を共有する研究開発の進め方の見通しを得た。
第2年次には新しく開発される予定の操作が簡単なDAISYプレイヤーソフトウエアとサンプルコンテンツを組み合わせた防災教材を制作し、シンクロナイズされたマルチメディアという新しい認知・知的障害者への情報支援技術をパッケージメディアおよびストリーミングでそれぞれ用いる際の諸問題の解決を研究する。事前教育および救援情報のコンテンツのaccessibility とcomprehensivenessの総合評価のための試験運用に必要な各技術要素の殆どはすでに存在していると思われるが、timed-textと呼ばれる時間コード付テキスト情報の開かれた国際標準が欠落しているため、2年次以後はこの問題の解決とストリーミングするコンテンツのナビゲーションの標準化を組み合わせて取り組む。
第2年次においては、国内外の事例研究を更に進めると共に、当事者による現状評価と防災および救援態勢への参加を含めた情報支援のシステムの運用態勢についての研究も進める。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-