強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究

文献情報

文献番号
200100328A
報告書区分
総括
研究課題名
強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 雅子(鉄道弘済会 弘済学園)
研究分担者(所属機関)
  • 中島洋子(旭川荘 旭川児童院)
  • 大場公孝(侑愛会 第2おしま学園)
  • 三島卓穂(鉄道弘済会 弘済学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
強度行動障害への支援を検討することを全体の研究目的とした。下位研究に、児童施設における学校教育との連携のあり方、強度行動障害への医療的研究、更生施設での強度行動障害改善への療育研究、児童施設での強度行動障害改善への療育研究、強度行動障害判定基準の改訂、地域生活移行支援を設けた。
研究方法
児童施設における学校教育との連携のあり方については、弘済学園と伊勢原養護学校の実際の支援・教育記録を対象とし、教員・指導員からなる作業班で、よりよい連携を可能にする条件の検討を行った。強度行動障害への医療的研究はハイリスクのスクリーニングをするために、自閉症幼児早期療育部門バンビの家を卒園した自閉症児のうち追跡可能な220人を対象として、早期の指標を検討した。行動制限に関しては事例研究から考察を進めた。更生施設での強度行動障害事例研究への療育研究は事例を担当した職員の研究報告を検討する方法を取った。児童施設での強度行動障害事例研究も同様であり、対象としては、従来取り上げられてこなかった過緊張型の強度行動障害例、精神病院での長期拘束例、年少自閉症での早期介入例、を選択した。強度行動障害療育への導入研究は事例研究による。強度行動障害判定基準の改訂は作業班の中で意見交換していく。地域生活移行支援では、地域移行した家族の報告書を作業班で検討し、地域移行の意味、必要な支援、必要な手続きなどを整理した。
結果と考察
第1部 児童施設における学校教育との連携のあり方の検討。強度行動障害という重い障害には学校と施設のていねいな連携が求められるが、文部科学省管轄の学校と厚生労働省管轄の施設という異なる性格をもつ機関同士での困難さがある。前年度の研究結果から学校、施設それぞれの連携で重要なのは、①指導目標の共有、②話しあう時間、③相互に理解しようとするスタンス、であったことを受けてこの3項目について具体的に検討した。指導目標の共有と統一化をめざすために、弘済学園と伊勢原養護学校の記録を対象として、記録様式の共通化を検討した。その結果、学校と施設それぞれ表記は異なるが内容は酷似しており、記録形式を媒介にして指導目標を共有できる可能性が出現した。③相互の不審については、互いの不審事項を整理し作業班で分析した結果、情報提供の悪さが不審につながることが判明した。そこで、情報提供や②で課題となる話し合う時間の確保を含む連携マニュアルの重要さが確認され、定期的な情報交換、話し合う時間の確保を内容とするマニュアル作成に着手した。第2部 強度行動障害をめぐる医療と福祉との連携。強度行動障害の約8割は知的障害を伴う自閉症を基礎障害とし思春期前後より行動障害の悪化をきたす例が多い。行動障害の兆しに対して、早期介入をし強度行動障害への発展を阻止するには、幼児期から一貫した相談システムや専門家による経過観察システムが重要であり、早期療育機関における卒園児の動向追跡をおこなった。早期療育機関と発達障害専門医療機関の連携による、観察・相談システムが、追跡形態として有効であった。行動障害の発現を予防するために、行動障害に発展しやすい因子を行動障害ハイリスク因子として抽出し、そのような因子をもった自閉症児を行動障害ハイリスク自閉症として識別する重要さを確認した。施設において自傷・他害などの強度行動障害療育の際に危険回避のための行動制限を場面は少なくない。人権との関連で、福祉処遇の場での療育と行動の制限を治療的観点から整理する必要がある。第3部 成人期の強度行動障害への療
育的研究。強度行動障害を示す自閉症の人達に対する療育支援に関し、TEACCHプログラムの構造化のアイデアを応用して支援に取り組んだことで、行動障害の軽減と自立的行動を促進できることが再度確認できた。また、その際に自閉症が随伴しやすい強迫性やそううつ様障害について配慮した支援が有効性を一層増すことが確認された。第4部 児童期の強度行動障害への療育的研究。強度行動障害の児童期の療育を4例で検討した。第1例は緊張感が非常に強い「過緊張型」である。「過緊張型」への療育方法は類型としてまだ明確でない。事例検討の結果、キイパーソンが存在すること、他者との距離があること、負荷を減らすことが必要であり、それをみたす環境と支援が示された。第2例は、多動で興奮しやすい年少の自閉症例である。年少期によく見られる療育困難な自閉症の1タイプであり、強度行動障害への早期介入として理解することができる。多動性には構造化の技法、興奮には緊張と弛緩をコントロールされる体験、また年少であるため生活リズム形成が重要であった。第3例では、強度行動障害療育の導入方法を検討した。生活リズムを形成すること、構造化による安定環境の提供、時間をかけルールに基づき折り合う経験をすること、タイムアウトによる鎮静後の折り合いを形成することが有効であった。今後さらに症例を増やして整理することが求められる。第4例は、精神病院での長期・長時間の拘束経験例である。強度行動障害特別支援事業を通じて施設生活が可能になるか、検討した。支援経過から施設生活は十分に可能で生活の質を高めることができた。歴史的に強度行動障害支援特別事業が存在しなかった時期に、他の選択肢がなく精神病院を利用している類似例にも同様の可能性があることが示唆された。強度行動障害判定基準は現行版の普及度と改訂版の感度とのバランスを検討している。第5部 強度行動障害をみせる人の地域生活への移行支援。
地域生活は今日重要なテーマであり、強度行動障害でも地域生活が期待される可能性がある。可能とすれば、どのような要件が必要なのか検討せねばならない。入所施設内で強度行動障害が一定程度安定したケースに対し地域生活支援がどの程度可能か検討した。対象は現在家庭から通所を3年継続している自閉症の女性である。その結果、地域移行形態としての通所型は利点が多く、情報交換や迅速な相談の可能性、医療の継続性、地域支援の受けやすさ、レスパイトで生活の再建のしやすさなどがあり、強度行動障害での状態の悪化に対応しやすいことが指摘された。通所が定着することは在宅生活を維持するのに最低必要な要件であるが、それには、①起床、②通所、③食事調整、④余暇の過ごし方が、特に重要であると理解された。在宅での課題は多いものの在宅通所形態には家族・本人とも満足度が高く施設に比べ生活の質は高まっている。支援としては、移行の際の段階的支援、日常的な相談機能、レスパイト機能が必須であり、本研究ではそれぞれの要件を具体的に整理した。今後の地域移行の際の一つのモデルとなると考えられる。
結論
児童施設における学校教育との連携では、連携マニュアルを作成することが、全国調査で指摘された課題の具体的な解決につながると確認された。モデル案を作成している。教育目標の統一もその中に含まれる。強度行動障害への医療的研究ではハイリスク自閉症を早期に発見することが重要であり、早期のスクリーニング項目を検討している。施設において行動制限を治療的観点から整理しはじめている。更生施設での強度行動障害療育では、TEACCHによる支援の有効性が再確認された。児童施設での強度行動障害療育では、過緊張型への療育方法、年少自閉症での多動興奮への療育方法、強度行動障害療育の導入方法、長期長時間の精神病院拘束例の強度行動障害支援特別事業での適応可能性が示された。強度行動障害判定基準は現行版の普及度と改訂版の感度とのバランスを検討している。地域生活移行支援研究では、通所の条件での在宅支援を検討した。生活の質が向上したこと、その際の要件が何か確認された。地域移行のモデルの一つとして考えられる。

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