障害者福祉政策における行政と当事者のパートナーシップのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200100324A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者福祉政策における行政と当事者のパートナーシップのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大熊 由紀子(大阪大学大学院人間科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北野誠一(桃山学院大学社会学部社会福祉学科)
  • 河東田博(徳島大学医療技術短期大学部)
  • 斉藤弥生(大阪大学大学院人間科学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来の日本の障害者運動は「請願型」「要求型」「告発型」が多く、行政の実際の取り組みに直接参与する機会はまれだった。しかし、「措置」から「契約」へ福祉政策が移行する中で、障害者も自らが必要とするニーズを的確に判断し、どのような支援をどう組み立てるか、何がどこまで出来るのか、出来ないのかを現実的に見つめる力を持つ必要性が浮かび上がってきた。行政やサービス提供者に対して要求ではなく提言を行う、あるいは、求めるニーズを引き出すための優れた交渉能力や論理的説得力を持つ障害者は日本ではまだ少数にとどまっている。数少ない先進例も、政策に生かされる形では研究されていない。国は1993年の障害者基本法改正で、国の障害者福祉政策の決定及び推進に関して、障害当事者(団体)の参画のもとでそれを行うことを法に明記した。この基本法の精神を踏まえ、国はもちろん、府県や市町村も障害政策推進のために障害当事者の参画を促すことが望まれる。本研究では、障害者福祉政策におけるパートナーシップ形成への取り組みが進んでいるアメリカ、スウェーデン、デンマーク、そして、日本の中でもこのような動向の特に進んでいると思われる大阪府及び大阪市における障害当事者(団体)と行政とのパートナーシップを調査分析し、政策決定への当事者参加・参画の可能性を探るとともに、今後どのような関係が構築されていくことが望ましいかを考察する。
研究方法
文献研究と並行し現地調査を行った。分担研究者河東田は、主として知的障害分野を担当し、当事者参加・参画が早くから行われているスウェーデンに2001年5月から9月にかけて滞在して調査した。さらに、2002年3月、日本の大阪で関係機関・代表者への聞き取り調査を行った。分担研究者北野は、主として身体障害分野を分担し、2001年8月にスウェーデン・デンマークで身体障害当事者の聴き取り調査を行うとともに、これまで数回にわたって調査研究を行っているアメリカとの比較研究を行った。さらに、15年以上その活動を見守ってきた大阪の障害者諸団体や中心メンバーに対する聞き取り調査等も並行して実施した。主任研究者大熊は、分担研究者斉藤とともに精神障害分野と総括を担当し、2001年8月から9月にかけてデンマークとスウェーデンで障害者団体と「傘の組織」と呼ばれるその連合組織、ならびに、行政の関係についての聞き取り調査を行った。また、大阪府と大阪市で障害の種別を越えた当事者団体の相互啓発について調査した。
結果と考察
間接民主主義的手法と直接民主主義的手法に分けて考察することにした。
【間接民主主義的手法】大きく2種類に分類することができた。
ひとつは障害者自身が議員や行政担当者になることである。スウェーデンの全盲のベンクト・リンクビスト氏が国会議員をへて社会大臣を8年間つとめ、さらに国連を舞台にスタンダードルールの構築と評価にあたったことは象徴的である。日本でも、地方議会において、大阪府豊中市の入部加代子氏を代表とする障害者議員連盟が存在した。
もうひとつは障害当事者や団体の意向を反映させる政治家や政党をつくり出し、立法と行政のパートナーシップを構築する方法である。この方式はアメリカで成果をあげている。ロビー活動だけでなく、必要な大同団結(コーリション)や多数派工作の戦略に長けていると言える。1990年のADA(障害をもつアメリカ人法)の獲得などはその典型である。
【直接民主主義的手法】大きく2種類に分類することができた。
ひとつは、障害者に関するすべての政策に関して障害当事者(団体)が意見を反映するシステムをつくり、参画を日常化する方法である。また、障害当事者(団体)のみならず、サービス提供団体や専門家達が共同で参画して広く障害者政策について検討するやり方である。前者の方法はスウェーデンやデンマークで広範囲に見られた。国やほとんどの自治体に障害者委員会があり、障害者政策に当事者の意向を反映することを義務づけるシステムが定着している。知的障害についても例外ではなく、立法のための国会聴聞会で意見陳述し、政策決定への直接的関与もなされるようになってきていた。当初は形だけの参加となっていたが、事前情報の提供やわかりやすい資料の作成、個別支援者の配置、継続したフォローアップ支援などの支援システムが徐々に整えられるようになっていった。日本でこのような仕組みをもつのは大阪だけで、『障害者の自立と完全参加をめざす大阪連絡協議会(通称障大連)』が大阪府及び大阪市と年2回、2日間にわたっておこなっている「オールラウンド交渉」(障害福祉課を窓口にして交渉するのではなく、労働担当部局、教育委員会、交通部局や都市計画部局自体と障害者団体連合がスケジュールを組んで直接交渉するやり方)がこれにあたる。障害者団体の強い要求やプレッシャーを基に行われるこのようなやり方も政策誘導に必要不可欠な方法の一つと言える。後者は障害者基本法にもとづく「障害者施策推進協議会」方式で、サービス提供団体や専門家たちと障害当事者が共同参画して広く障害者政策について検討するやり方である。日本の場合、ほとんどの市町村が障害者施策推進協議会だけしかないか、それもない状態であり、それも、ほとんど行政施策の事後承認に終わることが多い。ただ、大阪府や大阪市では、知的障害者を含む多数の障害当事者が委員として参画して意見が反映されている。
もうひとつは、障害者支援政策ごとにアドホックな委員会を立ち上げて、そこに障害当事者が参画する方法である。スウェーデンやデンマークのようにシステマティックな方法が確立している国々においてもこの種の委員会が数多く存在しており、多くの障害当事者がこれらの委員会に参加・参画していた。日本でも、大阪市で現在行われている障害者施設モニター委員会や、障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会等にも、自立生活センターの障害者や支援者が多く参画していた。大阪府や大阪市では、故定藤丈弘大阪府立大学教授が全身性障害をもつ福祉研究者であったこともあり、このような方法の下で福祉政策研究者・障害当事者・行政関係者のパートナーシップが生まれた。大阪府の福祉のまちづくり条例作りやその改正作業ではこの三者が連携した。交通バリアフリー法の原型もこのような方法に基づくパートナーシップから生まれたといっても過言ではない。
結論
障害者政策における行政と障害者とのパートナーシップの形成過程と当事者参加・参画は世界各国のそれぞれの歴史的・社会文化的背景によって異なる様相を呈していたが、総じて、どの手法(間接的・直接的)においても、アメリカ、スウェーデン、デンマークにおける行政と障害当事者とのパートナーシップ形成が進んでおり、学ぶべき点が数多く見られた。障害福祉政策における行政と障害当事者とのパートナーシップは、障害福祉施策だけでなく、すべての国民が真の豊かさを享受する政策にもつながっていく。このことを肝に銘じながら、我が国における行政と障害当事者とのパートナーシップをより強固なものにし、障害福祉政策の充実を図っていく必要があると思われる。

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