精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100322A
報告書区分
総括
研究課題名
精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 長澤泰(東京大学工学部建築学科)
  • 広瀬徹也(帝京大学医学部)
  • 山上皓(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 小宮山徳太郎(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神病床が急増した昭和30年代前後からすでに40年以上が経過し、多くの精神科病棟の治療・療養環境は、現在の国民の生活水準に十分に適合しない側面がでてきている。さらに、多様なニーズに応じたきめ細かな医療サービスが提供できるよう精神病床の機能分化のあり方を検討すること(平成12年1月25日公衆衛生審議会意見書)は急務ということができる。本研究の目的は、精神科入院患者数の動向をふまえて必要な医療費を予測しながら、精神疾患の特性、診療内容および国民の生活水準に応じた入院施設の設備構造、人員配置、治療内容を検討するものである。
研究方法
研究方法は、研究班を組織して、欧米先進国での病院の調査を行い(分担研究1)、国民の生活水準に応じた治療・療養環境を明らかにし(分担研究2)、診療内容に関する現状を把握するとともに(分担研究3)、触法行為を繰り返す治療困難者(分担研究4)、薬物中毒等の患者(分担研究5)について個別に分析し、さらに精神科病床の将来推計を行う(分担研究6)。以下に具体的な方法を示す。(1)樋口輝彦分担研究者を中心とした研究グループ(以下樋口研究班とする)では、平成12年度に行った欧州の代表的精神科急性期病棟のアンケート調査をもとに、その中から3施設を実際に視察し、急性期病棟の構造と機能及び人員配置に関する、より詳細かつ具体的な情報を収集した。さらに、米国を中心とした諸外国の33病院を対象に「急性期病棟の理想的な設備構造、人員配置」についてのアンケート調査を行った。(2)長澤泰分担研究者を中心とした研究グループ(以下長澤研究班)では、平成12年度の全国調査結果を踏まえ、患者のパーソナル・スペースに基づく疾病や様々な状態による患者の行動パターンについて整理した。すなわち長野県の病院の病棟において、患者の行動を時刻と病棟の平面図に綿密にプロットして、その結果を分析した。(3)広瀬徹也分担研究者を中心とした研究グループ(以下広瀬研究班)では、日本精神神経学会会員から他科医師およびその他の専門職を除いた8,566名から所属地区別に5%の割合で無作為に抽出した一般会員412名に対して診療内容に関する調査を実施した。調査内容は、日常的な1週間の受診患者特性、診療概要、記載精神科医の個人特性である。分析方法は、3群によってどのような特徴があるのかについて、1元配置分散分析により比較を行った。(4)山上皓分担研究者を中心とした研究グループ(山上研究班)では、精神保健福祉法第25条に基づく通報(いわゆる検察官通報)によって措置入院とされた触法精神障害者の処遇の実態についてのアンケート調査の分析を実施した。また触法精神障害者を多数収容する精神病院を訪問して、触法精神障害者の治療環境の実態について調査を実施した。(5)小宮山徳太郎分担研究者を中心とした研究グループ(小宮山研究班)では、情報が十分得られかつ協力の得られ易い簡潔なアンケートを作成し、全国の国立病院、国立療養所、都道府県・市立病院、精神保健福祉センター、民間精神病院、民間精神科クリニック等にアンケートを送付し、得られた結果を集計整理した。(6)伊藤弘人分担研究者を中心とした研究グループ(伊藤研究班)では、平成12年度に実施した抽出全国調査のデータを分析し、理論的枠組みを精緻化しながら、稼働病床数の将来推計を実施した。さらに、診療報酬上の包括病棟である精神科急性期治療病棟、精神療養病棟、
老人性痴呆疾患治療病棟、老人性痴呆疾患療養病棟の取得状況に関する調査を実施した。
結果と考察
(1)樋口研究班では、(a)視察を行った3施設はいずれも1病棟が10~20床で建築的にも高いアメニティを有しており、*特に北欧の1施設では治療上の利点を意識した上で快適な病棟が実現されていた。また(b)アンケートについては、現時点で回収された分析によると、病床数、トイレなどの設備、人員配置について理想とする姿がほぼ共通していた一方で、ECT専用室、酸素吸引などについては回答が分かれていた。(2)長澤研究班では、(a)入院患者は、他者との関係性に影響を受けて一般の人とは異なる行為内容と行動パターンを持っていることがわかった。(b)ほとんどの患者が生活機能レベルが高いと判定された特有の施設でありながらも、コミュニケーションや社会・文化活動については身体機能レベルとは無関係な結果が出た。(c)ある場所にこだわる患者群が現れ、それらの群が患者の属性や疾患と関係があることが明らかになった。(d)着席する際、他人との距離感について非常に敏感な患者群と、そうでない患者群があること、そしてその患者群が疾病区分だけでは、明快に区分しきれない患者個人個人の属性がかかわっていることが伺えた。(3)広瀬研究班の調査の結果によると、回収数は68、回収率は16.5%であった。民間施設勤務は、多くの分裂病患者と入院患者を診療し、直接的な患者への診療時間が長かった。一方、大学勤務は、経験年数の浅い若い層の医師で、操作的診断、特にDSM-IVを用いて、解離性障害や摂食障害を有する患者を診療し、入院患者への1人あたりの診察時間は長く、医学研究やその他の専門活動を行い、全勤務時間も長かった。国公立施設勤務は、おおよそその中間であった。(4)山上研究班では、指定病床を有する907病院のうち、施設票は465病院から回答を受け(回収率51.5%)。また個人票は202病院から回収した(22.3%)。分析した個人調査票555ケースでは、対象患者の88%が男性で、年齢の最頻値は30代で、平均年齢は40.6 (SD = 13.2)歳であった。過去に措置入院歴があったケースは16%、過去の入院歴もしくは通院歴があるケースは65.4%であった。精神医学的診断では、「精神分裂病・妄想病型障害・妄想性障害」が約7割で、次いで「精神作用物質による精神・行動の障害」が2割であった。入院時の症状・状態像としては、「幻覚妄想状態」が約8割、「精神運動興奮」が約5割に見られた。人格の病的状態も約3割にみられた。(5)小宮山研究班では、専門病棟あるいは専門病床を有する15カ所のうち12カ所から調査票を回収した。男女混合病棟が7カ所(閉鎖病棟5、開放病棟2)、非混合病床は5カ所(閉鎖病棟2、開放病棟1、開閉両様2)であった。男女混合病棟では、病室による区分(5カ所)、男女無区分の時間は起床から消灯(6カ所)が多かった。食堂は同一であるが(6カ所)、洗面所は区分されている場合が多かった(5カ所)。専門病棟で行う医療サービスについては、個人精神療法(12カ所)、集団精神療法(12カ所)、疾病教育(12カ所)、作業療法(12カ所)、運動療法(12カ所)、芸術療法(5カ所)、行動療法(2カ所)、認知行動療法(2カ所)、内観療法(4カ所)、家族療法(8カ所)などであった。(6)伊藤研究班では、(a)精神科稼働病床の将来需要の推計については、5年後には27万9千床~32万3千床、10年後には25万8千床~31万7千床になることが推測された。(b)診療報酬上の包括病棟については、平成13年9月における精神科急性期治療病棟を有する施設(病床)数は83(4,225床)、精神療養病棟は597(71,416床)、老人性痴呆疾患治療病棟は183(9,703床)、老人性痴呆疾患療養病棟は213(14,166床)であった。
結論
以上の研究により、海外では1病棟の病床数は10~20床が多く、さまざまな工夫がなされていた。また理想的な姿は一部を除いて共通している傾向があった。わが国における病院においては、患者の行動パターン等に特徴があり、その特徴は身体機能レベルや生活機能レベルとは異なる特徴であることが示唆された。精神科医は、勤務先により診療内容が異なっていた。すなわち民間医療施設勤務者では多くの精神分裂
病患者を診療し、大学勤務者は解離性障害や摂食障害の患者を診療する割合が高く、国公立施設勤務者はその中間であった。触法行為を繰り返す治療困難者については、「精神分裂病・妄想病型障害・妄想性障害」が7割を占め、入院時の症状・状態像では8割が「幻覚妄想状態」を、5割が「精神運動興奮」を示していた。薬物中毒等の専門病棟あるいは専門病床を有する施設では、男女混合病棟(7カ所)と非混合病棟(5カ所)に別れていた。精神科稼働病床の将来需要は今後減少することが明らかになった。また診療報酬上の包括病棟の取得も約3割にのぼり、機能分化が診療報酬上進められていることが明らかになった。これからの精神保健政策策定にあたっては、これらの動向を考慮する必要がある。以上の研究結果は、精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方の検討に際して有益な資料となる。ただし、結果の妥当性等の検討など、今年度の調査にはいくつかの限界があるため、それらの課題を来年度はさらに検討する必要がある。

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