チェアスキー・ソルトレークモデルの研究開発(総括研究報告書)

文献情報

• 文献番号: 200100319A
• 報告書区分: 総括
• 研究課題名: チェアスキー・ソルトレークモデルの研究開発(総括研究報告書)
• 課題番号: -
• 研究年度: 平成13(2001)年度
• 研究代表者(所属機関): 田中 理(横浜市総合リハビリテーションセンター)
• 研究区分: 厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
• 研究開始年度: 平成12(2000)年度
• 研究終了予定年度: 平成14(2002)年度
• 研究費: 4,000,000円
• 研究者交替、所属機関変更: -

研究報告書（概要版）

研究目的

高性能競技用チェアスキー(ソルトレークモデル)の開発を通して、一般に提供できるチェアスキー普及モデルの向上をはかり、障害者のスポーツ・レクリエーションを媒体とした社会参加の促進に寄与することを目的とする。本研究では、チェアスキーの台形リンク・サスペンション機構とそれに適合するショックアブソーバの開発、CAD・CAM技術による選手個別適合シートの開発、空気抵抗を低減する空気力学的カウルの開発を通して高性能競技用チェアスキーを開発し、その成果を普及用チェアスキーに還元することでチェアスキー用具の向上をはかる。

研究方法

横浜市総合リハビリテーションセンター、神奈川県総合リハビリテーションセンター、ヤマハ発動機株式会社、ヤマハ株式会社、株式会社GKダイナミクス、カヤバ工業株式会社、日進医療器株式会社、川村グループ、川村義肢株式会社、株式会社アニマ、有限会社トモ、横浜ラポールの研究者、研究協力者からなるプロジェクトチームを構成し、ソルトレークモデル機体開発(台形リンク・サスペンション及びショックアブソーバ、機体フレーム試作)、雪上滑走実験による官能評価・性能分析(選手の官能評価、ショックアブソーバ・ピストン速度及び衝撃吸収に関する計測・分析)、シート開発(CADによる採型法の開発、CAMによる製作法の開発)、空気力学的カウル開発(カウルの開発と風洞実験及び雪上滑走実験による効果分析)等に関する一連の研究を実施し、チェアスキー・ソルトレークモデルを完成させる。試走選手への研究及び実験協力要請については、本研究の目的と内容、参加条件、想定される危険、事故の責任の所在、プライバシーの保護等を十分に説明し、これに同意する選手と同意書を交わした上で、本研究活動に参加協力してもらうことにした。

結果と考察

昨年度開発モデルの「フットレストのバタツキ現象」を解決するため、つま先前方に仮想回転中心がある台形リンク・サスペンション機構を持つ機体を開発した。開発した機体は「バタツキ現象」を解消し、雪面からの衝撃をよく吸収するとともに、スキー板全体で雪面を捉えることが可能になった。雪上滑走実験の計測結果からは、ショックアブソーバが衝撃を滑らかに吸収していること、加重・抜重のコントロールが効率よく行われていることが確認できた。さらに、昨年度開発したチェアスキー・シート用CAD・CAMシステムを用い、選手個別のシートを製作するオーダーメイド・シートの製作手法を完成させた。本システムでは専用採型具の併用により滑走姿勢を擬似的に再現して採型することができ、さらにコンピュータ上でシート形状画像を見ながら評価、修正できるため、選手個別のイメージに合うシート形状をシミュレーションできる。CAD上で修正され、決定されたシート形状データを5軸切削加工機で陽性モデル化し、それをもとに最終シートを成型した。また、昨年度の試作カウルで露呈した、①様々な体形の選手へのフィッティング、②カウルの剛性不足、③取付けの簡便性、④雪の巻き込み、⑤バンク角の不足、⑥滑走時の騒音などの問題点を解決するために、カウル形状及び構造の改良を行ない、カウルの最終形状の作りこみを行なった。風洞実験による空力計測の結果、カウルを取り付けた方が風速、姿勢によらず5%程度空気抵抗が小さくなることが確認されカウルの有効性が立証された。このようにして得られた形状をもとに、カーボン強化プラスチックで最終カウルを製作した。
完成したソルトレークモデルは、リフト搭乗も容易にでき、シャープな滑走性を実現した。リンク全体の動きは滑らかで、前後方向への重心移動が大きく取れることにより、スキー板全長にわたるコントロール操作を容易にするとともに、滑走時スキー板全長にわたって雪面をよく捉えていることが観察できた。選手からは、スキーの切り返しが非常に素早くできること、スキー板が自然と前に進むので、身体が取り残されないようにさえすれば非常に速く滑ることができるなどのきわめて高い評価がもたらされた。シートについても、個別適合完成度の高いシートを提供することが可能となり、選手から非常に高い評価が得られた。カウルについても特別な問題点は見出されなかった。開発した最終カウルにより、特に高速系の種目においてタイム向上が期待される。

結論

台形リンク・サスペンション機構の開発、CAD・CAM技術を取り入れたシート開発、高速滑走時の空気抵抗を低減する空気力学的カウルの開発を通して、チェアスキー・ソルトレークモデルを完成させた。ソルトレークモデルは、雪上滑走実験の定量的計測結果及び選手の官能評価結果から非常に高い性能を保持していることが分かった。ソルトレークモデルはきわめて完成度の高いチェアスキーであり、普及用モデルとしてすぐにでも一般化できるものである。

公開日・更新日

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