人工内耳装用児の言語習得訓練状況についての全国調査と訓練法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100311A
報告書区分
総括
研究課題名
人工内耳装用児の言語習得訓練状況についての全国調査と訓練法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 貞雄(国立立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 舩坂宗太郎(チルドレンセンター)
  • 中島八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
  • 徳光裕子(富士見台聴こえとことばの教室)
  • 河野 淳(東京医科大学付属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工内耳装用児の言語習得訓練法は施設ごとに個別的でありその密度も一様ではないと考えられる。そこで人工内耳装用児の言語習得訓練の現況について全国調査を実施して、その集約分析を行う。その成果を基にして標準的な訓練プログラムと教材を開発し、提供することを本研究の目的とする。平成13年度においては平成11年度から12年度にかけてに実行・分析した全国調査結果を、人工内耳情報センターを通じて全国に配布する。これにより明らかになった訓練方法等施設ごとの現状と要望ならびに人工内耳装用児個人ごとの装用児の個人プロフィールと問題点を全国の関連職員に周知する。人工内耳と補聴器はともに進歩の早い機器であり、一方で難聴発見の低年齢化は著しい。そこで、人工内耳装用児と低年齢乳幼児を含む人工内耳の適用と補聴器装用児について適正化を図るとともに、使用機器の現状に見合った標準的な訓練プログラムを考案する。
研究方法
人工内耳装用児全国実態調査により得られた結果をデータベース化する。その結果、施設に関しては現行の訓練に関する取り組みの実態と問題点を詳細に明らかにする。装用児個人については、標準的な訓練プログラムと教材の開発に必要な個人プロフィールと人工内耳装用結果について実態と問題点を明らかにする。(柴田、中島)また、この調査結果をインターネットを通じた情報センターから情報提供することを図る(中島)。人工内耳装用児の言語習得訓練の実際を通じて、そのデータを集積した上、必要な訓練条件を明らかにする。加えて、他の施設での訓練との比較検討を行い、それぞれの利点を検討することにした(舩坂)。また、小児における人工内耳埋め込み術の手術年齢、最適訓練プログラム作成等の重点事項についての研究を行なう(河野)。また難聴幼児の早期発見化に伴い、0歳時からの早期療育プログラムを開発することを目的とする。そのために発達評価方法の開発ならびにデジタル補聴器の幼児への適用を重点課題として研究し、人工内耳装用児と比較研究をなす(徳光)。 盲ろう幼児における人工内耳装用の実態について見解を明らかにする(柴田、中島)。
倫理面への配慮: 研究の遂行に当たっては難聴児の人権を最大限に尊重する。公開、非公開を問わず個人データについては、特定の個人が明らかにならないような形式で調査を進める。また、調査の協力依頼にあたり、各施設には研究の趣旨説明を十分にする。データベースのうち公開される部分と成果発表についてはどのようにしても個人情報が特定できないようにする。
結果と考察
柴田は中島と共に、平成11年度に実施した人工内耳装用児の実態に関するアンケート調査の結果をさらに集約分析した。有効回答総数を再掲すれば、訓練施設に関する質問表に対して74件、個人プロフィールに関する質問表に対して125件であった。
個人プロフィールについて、調査時の平均年齢は74.4か月(6歳3か月)であった。手術時年齢の平均は50.5か月(4歳3か月)であり、最年少例は23か月であった。1.聴能:総数121例について追跡調査データが得られ、術前聴能は68%の例で音の弁別のみであったものが、術後1年以内にこの比率が5%以下になり、一方術前で12%であったある程度の聴能をもつ例が、1年以内に83%となり、術後2年以内には94%となった。人工内耳装用がいかに有効であるかを示す結果となっている。一方3年の経過観察でも、一定の聴能を持ち得ない例が2例あり、これは失敗例とみなされる。2.話し言葉の発達:3歳未満で手術を受けた例(16例)の追跡調査データでは、術前において意味のある言葉を話さない例が75%であったが、6か月以内に23%に低下した。これは正常な発達に人工内耳が有効であったと考えられる。総数116例の検討においても、術前において意味のある言葉を話さない例が36%であったが、1年以内に6%に、2年で約3%になった。3.音声によるコミュニケーション:3歳未満で手術を受けた例(15例)の追跡調査データでは、術前において音声による意思の疎通を全く欠く例が80%であったが、1年以内に27%に低下し、年齢相応の発達を示す例も現れた。以後年齢が長ずるに従って意思の疎通を欠く例はさらに減少することを示した。総数112例の検討においても、術前において音声による意思の疎通を全く欠く例が46%あったが、1年以内に10%に低下し、年齢相応の発達を示す例が13%現れた。以後2年以内で年齢相応の発達を示す例が31%に達した。これらの集計結果は単に人工内耳装用の有効性を示す上で有用であるばかりでなく、補聴器使用の難聴幼児との比較を可能にすることで意義は大きい。
また12年度において実施した7歳未満で手術を受けた盲ろう重複障害幼児の人工内耳装用例の実態調査では該当者はないことが判明した。この実態については、重複障害をもつ幼児には人工内耳装用をすべきではないという意見と、人工内耳に無関心であるという意見があったことを付記する。中島は以上の調査結果の詳細をデータベース化し、インターネット上で公開した。
舩坂は1984年に創設した日本で唯一の民間によるチルドレンセンターにおけるリハビリテーションの経験から、人工内耳装用乳幼児の最適言語訓練法の開発をなした。その結果、手術前に親と聾児の双方が専門の言語訓練士と面接をなし、事前に良い関係を作る。手術後における音声言語獲得過程において、母親または養育者の話しかけが決定的に重要である。術後3週間で50音の弁別が可能になるので、聴覚のみによる訓練が良い。言語訓練士は母親として子供を育てた経験のある者が望ましい。4歳台までに手術し、大脳の発達時期に合わせて音声言語獲得訓練ができるようにすべきであり、そのために乳幼児を専門にする言語訓練施設と専門職員がいるべきである。以上の結論を得た。またこれらの要件を備えたチルドレンセンター(東京)における訓練成果は諸外国の成果と比べて優れたものであり、学齢期に達した児童はすべて普通小学校に入学できた。
徳光は難聴幼児通園施設において、0歳からの早期聴能言語治療訓練および教育に取り組み、補聴器を使用している難聴幼児と人工内耳装用児の両方の言語訓練を通じて以下の結論を得た。確立された基本方針は1.残存能力の積極的活用による音声言語の獲得、2.社会的コミュニケーション行動の育成、3.小児の心身の健全な全体発達の促進である。療育プログラムの編成について、人工内耳装用児の療育プログラムは補聴器使用の乳幼児と術前、術後を通じて全く同一であると結論した。またアプローチについては個別的と集団的との両方があることを指摘し、実践した。一方デジタル補聴器の幼児への適用において、1.幼児の場合、効果判定に1年以上を要する。2.騒音下における聞き取りが優れている。3.施設内で微調整が可能なトリマー式調整機種の利便性が高い。これらを結論付けた。
河野は新たに開発された神経反応テレメトリー(NRT)を応用し、この閾値を頻回に測定することにより人工内耳装用児のマップ作成を可能にした。この方法は非侵襲性であるだけでなく、自己申告が不可能で、聴性行動反応が不明瞭な難聴幼児で有用なマップ作成方法となった。人工内耳埋め込み術を実施した難聴幼児の経験からは、聴取、構音の発達は低年齢手術患児の方がよい傾向にあったが、小学校低学年においての手術症例でも発達はみられた。
結論
人工内耳埋め込み術を乳幼児において実施することにより、良い治療成績が得られることについての異論はなかった。音声言語獲得過程については全国調査を通じて、客観的データとして十分なものが得られた。一方で、盲ろう幼児についての実施例はなく、この点については実施の是非も含めて、今後の検討課題となろう。訓練プログラムについては、音声言語だけによる訓練を推奨する見解があり、また補聴器使用の場合と何ら変わるところはないとする見解もあった。また神経反応テレメトリーのような新しい評価方法が開発され、それを応用することにより、一層客観的な評価システムが構築されつつある。本研究に携わった研究者に共通した結論として、人工内耳の有用性の確認とともに、人工内耳装用乳幼児を専門にする訓練施設、専門職員の必要性と充実が指摘された。

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研究報告書(紙媒体)