知的障害児の医学的診断のあり方と療育・教育連携に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200100309A
報告書区分
総括
研究課題名
知的障害児の医学的診断のあり方と療育・教育連携に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
加我 牧子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 杉江秀夫(浜松市発達医療総合センター)
  • 難波栄二(鳥取大学遺伝子実験施設)
  • 西脇俊二(国立秩父学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
知的障害児は精神運動発達あるいは言語発達の遅れを主訴として,幼児期に小児科外来を受診することが多い.これらの児の診断を行う場合,特異な顔貌や多発小奇形を伴う時,染色体検査を行うことはおおむね共通した考え方となっている.しかし理学的所見に乏しい知的障害児に対して原疾患の検査や現状評価のための検査をどこまで行うかは主治医の考え方や診療現場の設備,さらに医療施設の性格や地域における役割など多面的な要件に左右される.今年度は発達障害の専門外来を有する病院において,初診時に精神遅滞を疑われた症例に対して実際に行われた検査と有所見率,療育・教育連携の現状を明らかにする事を目的とした.さらに実際に療育・教育を担当する側の教職員の意識を知り,実践した連携について教職員側の評価を行い,どのようなシステムとを構築すべきか明らかにする目的で調査を行った.
研究方法
1. 発達障害専門外来における医学的診断検査の実施状況と有所見率
発達障害専門外来を有する関東東海圏の4医療機関を主として最近5年間に受診し,診察上,診断に直結する明らかな臨床所見がなく,初診時に精神遅滞を疑われた202症例を対象とした.このうち種々の理由で医師が計画した検査が実施されなかった6症例を除外した196症例を今回の調査対象とした.発達歴を含む臨床症状の評価に加え,初診後おおむね1年以内に実施された検査とその結果,療育教育連携の現状につき後方視的に検討し解析した.特にモデル施設で,発達障害例に対して行った染色体検査について所見の有無を検討した.なお臨床検査としての遺伝子診断についても保護者のインフォームドコンセントを得て行い,自閉性障害の研究的遺伝子診断についてはプライバシー保護を最優先し,ヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針に基づいて施行した.
2.医療と療育・教育連携についての教職員等体験者の評価
関東地区の養護学校・心身障害児学級の担任教師への医療との連携状況ならびに満足度の郵送調査に加えて,東海地域で専門家チームが療育の場や保育園・幼稚園・学校などの担当者(教職員など)との面談をシステムとして先進的に実施しているモデル施設において,このシステムの利用者に満足度や問題点などのアンケート調査を行った.対象は1年間に面談を行った91教育機関の教職員等である.調査にあたっては保護者の同意を得て行った.
結果と考察
1.発達障害専門外来における医学的診断検査の実施状況と有所見率
対象となった症例の初診時の平均年齢は4.8(±3.5)歳,主な検査を受けた時の平均年齢は5.0(±3.4)歳であり,性別は男性139名,女性57名であった.
一症例に対し平均7.6±4.5種類の検査が実施され,そのうち3.0±2.3種類の検査で何らかの所見を認めた.実施率の高い検査は,頭部MRIが63.3%,脳波56.1% ,聴性脳幹反応53.6%といった中枢神経系の検査であった.次いで,血算52.6%,遠城寺式発達検査51.0%,血液生化学50.0%,尿一般34.7%,視覚誘発電位34.2%が高率であった.染色体検査の実施率はGバンドで31.1%,Fragile X症候群が12.2%であった.
有所見率が高かったのは,田中ビネー式発達検査100.0%,Wechsler式発達検査96.2%,遠城寺式発達検査94.0%,津守稲毛式発達検査88.9%と知能・発達検査であった.次いでSPECT84.0%,事象関連電位83.3%,視覚誘発電位59.7%,耳音響放射58.3%,頭部CT55.9%といった中枢神経系の検査が高率に異常を示した.染色体検査の有所見率はGバンドで13.1%であった.染色体検査を積極的に実施している施設では表在奇形等を伴わない,non-syndromalな症例では33例/281例(11.7%)が異常所見を示した.遺伝子検査の実施率は10.7%にとどまった.検査が施行された症例は特定の疾患を疑っての検査であったが結局全症例において異常は認めなかった.
2.医療と療育・教育連携についての教職員等体験者の評価
知的障害児に関する養護学校や心障学級への教育-医療-福祉の連携の現状についての調査では,学校から外部の施設や医療機関への相談は多く,効果は一定の評価を得ているものの,相談までの待機期間が長いこと,より専門的なアドバイスがほしいなどの指摘もあり,教師の満足感はやや低かった.一方,専門家チームによる医療-療育・教育連携の場をシステムとして設けて実施している施設で,利用者に満足度,問題点などの調査を行ったところ,82機関,95人の教職員(回収率84.5%)から回答を得た.この調査では,連絡窓口の存在により「連携がとりやすかった」との解答が多かった.患児の個人情報保護のため面談に際し確認書作成の手続きについても教職員の理解が得られていた.面談については88.4%の者が分かりやすかったと評価し,情報は教育機関内で有効に活用されている傾向にあった.面談を実施した教職員の94.1%が今後も積極的に連携を行いたいと回答しているなど全般的に高い評価を受けていた.
3.考察. 発達障害の専門的な外来を有する医療機関にいて初診時に精神遅滞を疑われ,医学的診断検査が実施された症例では,ひとり平均7.6±4.5種類の検査が実施され,そのうち3.0±2.3種類の検査で何らかの異常所見を認めた.精神遅滞の病因解明と言うだけでなく,各症例の評価に検査が貢献していることが確認された.染色体検査により診断確定に至る症例も多いことから知的障害児に医学的検査を行う場合は積極的に考慮すべき項目と考えられた.
関東地域の教師を対象とした調査で,医療・療育・教育連携についての医療機関への満足度がやや低かったことは教師からの要求水準の高さを示唆するものと思われた.しかし専門スタッフのチームアプローチが定着しているモデル施設においては相談した教職員等の満足度は高く,方法をシステムとして整備することの重要性を示唆していた.現在はすでに医療と教育の連携の必要性を議論する時期がすぎており,いかに連携していくのか現実的な問題点を整理し解決していく時期になっている.
次年度には,知的障害児の医学的検査についてより有益で適切な診断バッテリーの作成が必要であり,具体的な医療・療育・教育連携の最適なシステムについて提言する準備を進めたいと考えている.
結論
初診時に精神遅滞を疑われた症例の医学的診断検査では高率に何らかの異常所見が認められ療育・教育の場への情報の適切な伝達が必要と考えられた。染色体検査により診断確定に至る症例も多いことから知的障害児に検査を行う場合は積極的に考慮すべき項目と考えられた.教育・療育連携はすでに様々な形で行われているが、養護学校や心身障害学級教師への調査では相談の効果に一定の評価を得ているものの満足度はややかった.しかしすでにモデル地域で専門家チームによる療育・教育連携システム化を実践している施設からの報告では,医療療育教育連携の有用性は高く評価され,教職員など相談者の満足度も高かった.従って,医療と教育の連携の必要性を議論する時期はすぎており,いかに連携していくのか現実的な問題点を整理し,解決していく時期になっていると思われる.次年度には具体的な指針を提言していきたい。

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