障害児等に対する水中運動を活用したリハビリテーション・プログラムの開発及び評価に関する実践的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100308A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児等に対する水中運動を活用したリハビリテーション・プログラムの開発及び評価に関する実践的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 昇(川崎医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 末光茂(社会福祉法人旭川荘医療福祉センター)
  • 中島洋子(社会福祉法人旭川荘自閉症幼児通所訓練部バンビの家)
  • 宮地元彦(川崎医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A.研究目的:障害の改善によって日常生活のQOLは、まさに向上する。その手段として水は、古くから活用されてきた。水の物理的特性である浮力は、とりわけ有効であり身体機能の改善だけでなく自閉症児の療育手段のひとつとされてきた。運動分野の中でも特に水中運動に的を絞った背景には自閉症児が姿勢保持やバランスの確保に不得意であることがあげられる。水中は、浮力と水圧の助けを得ることができるので姿勢やバランスを確保しやすく、有効な運動療育の手段と考えられた。そこで障害児・者等のリハビリテーション・プログラムを開発、提供し、提供したプログラムに対する効果と適切な評価方法を明らかにすることを本研究の目的とした。研究目的を達成するために以下の課題を設定した。1.重症心身障害児・者における水中運動プログラムの検討2.早期療育機関での水泳療育の実践-自閉症児のための水泳指導プログラムの開発-3.障害児・者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発4.障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果の評価方法
これらの成果に基づき水を活用したリハビリテーション・プログラムの実践による障害の改善とその効果及び評価方法を明らかにした。
研究方法
B.研究方法:【1.重症心身障害児・者における水中運動プログラムの検討】発達レベルに合わせて3つのグループに分類し、さらにそれらの群を健康ランクに合わせて3群に分類した。それぞれに対応した水中運動プログラムを実施した。【2.早期療育機関での水泳療育の実践-自閉症児のための水泳指導プログラムの開発-】平成13年度バンビの家水泳療育に10回以上参加のあった幼児11名とした。生活年齢は3歳2ヵ月~6歳0ヵ月、IQは31~118であった。診断名は全員広汎性発達障害であった。開発したプログラムを技能別に2群にわけて実施し、「浮き」「キック」といったバランスと協調運動技能の獲得について評価した。【3.障害児・者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発】平成13年度においては、平成11年度に開発した自閉症児のためのリハビリテーション・プログラムを実践展開し、その効果と自閉症児の生活改善について評価した。年間を通して月2回(第2,4土曜日:小学校休日)開催した。ビデオによる行動記録、指導補助員による評価表に基づいて評価を行った。鷲羽スイミングクラブにおいては、5~16例を対象に週2回プログラムを実践した。武蔵野エイトスイミングクラブにおいては、9~10月に障害者水中運動健康法教室を公募して年4回実施した。【4. 障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果の評価方法】中枢循環機能の評価法として心臓や大血管の形態を、超音波診断装置を用いて無侵襲に最高酸素摂取量を推定した。末梢循環機能の評価法として一次微分脈波と橈骨動脈血流速波形を超音波ドップラー血流計で測定し、両者の関係を定量した。平成13年度は、これらの評価方法に従って2年間継続測定した結果をまとめた。(倫理面への配慮)ヘルシンキ宣言の趣旨に沿って、被験者及び保護者に対して研究目的、方法、期待される効果、不利益がないこと、危険性を十分排除した環境とすること、そして事故等の際の救急体制について十分なインフォームド・コンセントを実施した上で本研究に参加してもらうこととした。また、本研究を通じて得た個人情報については、管理を徹底し、人権擁護とプライバシーの保護に万全を期した。
結果と考察
C.研究結果:【1.重症心身障害児・者における水中運動プログラムの検討】重症心身障害児・者について発達レベル、移動のパターン、健康ランクを加味してプログラムを作成した。水泳技能の向上が必ずしも主とはならない重症心身障害児・者では水中活動における浮力や水圧の感覚的体験も重要な要素になると考えられる。【2.早期療育機関での水泳療育の実践-自閉症児のための水泳指導プログラムの開発-】自閉症幼児の協調運動技能の獲得について評価した。課題そのものの特質や対象児の発達レベルによって、経験の積み重ねや人的補助で通過するものと環境設定や個別的な配慮によって通過するものがあった。しかしながら、補助や回数では技能の獲得が困難な例もあった。【3.障害児・者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発】第1期と比較して第2期,第3期の評価点が向上した.第3期の評価点を鑑み第4期には,水泳技術の課題を導入した。第1期においては、環境への適応を目標とした。流れを理解させるために個々の課題の始めと終わりを対象児童に確認させた。第2期においては、平衡能の改善、水中カゴ入れは空間認知の改善、リズム体操は模倣の習得をねらいとした。第3期の評価点は、第2期と差がなかった。水中でのリズム体操は、陸上では困難な姿勢を維持させ、平衡能の改善と模倣の習得を促進させた。第4期は、水泳技能の向上を目標とした。第4期の評価点は,第2期、第3期と比較すると低下した。このことは、第4期において水泳技能の課題を導入したことによる影響と考えられた。<2.身体障害者に関する結果>高齢身体障害者に関する水中プログラムを個々に対応したプログラムとして作成し、実践した。著しい効果がみられた例を示した。症例A:81才、女性。1998年12月、大腿骨頭部骨
折、人工骨頭置換手術。自立歩行ができず、車イスでの生活。1999年4月から週3回実施。同年6月に水中での独立歩行が可能となった(2500m)。現在も実践継続。武蔵野市障害者センターにおいては次の改善(平均値)がみられた。体重が4.2kg減少、体脂肪率が4.5%減少、10m歩行が7秒25減少、歩幅が14cm改善。【4. 障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果の評価方法】無侵襲な方法で中枢循環機能と末梢循環機能を評価できることをすでに明らかにした。これらの評価方法を用いて2年間継続的な評価を行った結果、継続して適応可能であることが明らかになった。
D.考察:【1.重症心身障害児・者における水中運動プログラムの検討】重症心身障害児・者について発達レベル、移動のパターン、健康ランクを加味してプログラムを作成した。水泳技能の向上が必ずしも主とはならない重症心身障害児・者では水中活動における浮力や水圧の感覚的体験も重要な要素になると考えられる。【2.早期療育機関での水泳療育の実践-自閉症児のための水泳指導プログラムの開発-】自閉症児に見られる知覚過敏に対して、課題そのものの特質や対象児の発達レベルに合わせた経験の積み重ねや人的補助、環境設定、個別的な配慮等によって技能向上が見られたことから、個別的な配慮のもとで個々の発達課題が達成されていくことが示唆された。【3.障害児・者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発】自閉症児のリハビリテーション・プログラムを4期に分けて実践した。浮力水着の着用とリズム体操の導入によって課題学習の成果が著しく現れたことは、課題学習プログラムの有効性を示すものであると考えられた。第4期において、水準を上げた課題に取り組むと評価点の低下が起こり、その結果、のこぎり刃状に変動したと考えられた。また,第4期には,比較的大きな学校行事が組み込まれていることも要因の一つであると考えられた。高齢身体障害者については、結果で示した様に特に著しい改善効果が認められた。これらの成果は、水の物性である浮力と水圧による影響が著しい成果に結び付いたと考えられた。特に鷲羽スイミングクラブでの実践は、週2~5回、2~4名の保護介助者がプログラムを進行した。個々に対応したプログラムの妥当性が検証された。【4. 障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果の評価方法】中枢循環機能は超音波診断装置を用いた左心室および大動脈の形態を計測することで、末梢循環機能は指尖脈波を解析することで、運動負荷を必要とせずかつ無侵襲に精度良く評価することが可能であることが示唆された。本成果により、障害児等に対する水中運動を活用したリハビリテーション・プログラムの評価がより客観的に行うことができると考えられる。心拍変動パワースペクトル解析は、心臓副交感神経活動の推定に有用であることが示された。これらの評価方法を用いて2年間継続的な評価を行った結果、継続して適応可能であることが明らかになった。
結論
E.結論:障害児・者に対する水中運動のリハビリテーション・プログラムに関わる文献調査、実態調査、MEPAを用いた分析、太田ステージを用いた分析、運動課題の整理、陸上運動との比較、プログラムの開発と実践等の一連の研究によって、水の物理的特性の活用が障害者児・者の障害を改善し、心身のバランスの良い発達、日常生活におけるQOLの向上に貢献することが示唆された。

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