障害児の発達支援のあり方と市町村との関係に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100307A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児の発達支援のあり方と市町村との関係に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 喜篤(川崎医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 本間博彰(宮城県子ども総合センター)
  • 村川哲郎(サポートセンターぱすてる)
  • 藤田美枝子(静岡県こころと体の相談センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進国における障害児の発生状況は大きく変化している。その背景には、周産期医学の進歩、生活様式の変化、環境の変化などが関与している。一方、これら発達障害児については、その発見や把握が必ずしも円滑に行われているとは限らず、その主要な行政機関とみられる保健所や児童相談所においてすら、障害児の今日的な実態を捉えることは容易ではない。しかも、障害児の示す障害内容や程度は著しく多様であり、家族や養育者にとっては戸惑うことも少なくない。
近年、わが国では社会福祉基礎構造改革が推進されているが、特に平成15年度からは障害福祉に関する責任主体として、市町村の役割が飛躍的に増大する。そうした仕組みの変革期にあって、障害児への対応は特に配慮を要する場合が多い。障害児に関する社会的対応では、従来からの施設支援については基本的に措置制度が存続されるが、在宅・地域支援については基本的に市町村行政に委ねられるため、市町村にとってはまったく新しい課題なのである。
本研究は、入所施設への依存性を著しく減少させつつある障害児童について、その福祉的責任を担う市町村がどのように対応したらよいかを明らかにしようという目的で行なわれた。
研究方法
初年度及び2年度ともに、次の3つの分担研究を遂行した。なお最終年度における研究では、過疎地域における重症心身障害児の在宅療育を支援する新しい試みとして、主任研究者直属の研究協力者として、愛知県コロニー研究所の三田勝己・赤滝久美の両氏および北海道療育園の平元東氏による「情報通信技術(IT)システムによる重症心身障害児の在宅支援に関する調査研究」を行なった。
分担研究1 発達障害児の実態と市町村の対応について
この研究では、宮城県における児童相談所の障害児の把握状況ならびに県下の市町村の支援状況、北海道・道東地域における軽度障害児とその養育者への支援、新潟県における某保健所管内(1市11町村)における障害の就学に向けた支援などを調査・分析した。
分担研究2 自閉症児を中心とした通園療育と在宅支援について
この研究では、自閉症支援の専門家としての分担研究者・研究協力者のほかに、障害児の母親、児童相談所職員、市町村職員、教育大学附属養護学校教員などを研究協力者に迎え、極めてユニークかつ貴重な調査・研究を行った。
分担研究3 障害児支援における児童相談所と市町村の連携について
この研究では、静岡県の児童相談所が中心となり、県下で地域支援を実践している人たちを研究協力者として迎え、県下全域におよぶ74市町村の母子保健担当者へのアンケート調査を行った。また、研究の一つとして「地域療育講演会及びシンポジウム」を企画して問題の把握と分析を行った。
結果と考察
主任研究者直属の研究協力として行われた「情報通信技術(IT)システムによる重症心身障害児の在宅支援に関する調査研究」では、過疎地域に生活する在宅重症児とその家族(150ケース)を対象にアンケート調査を行い、さらに動画能力を有する高機能テレビ電話による双方向の映像・音声情報を通信させ、これが、安心して在宅ケアを遂行するうえでの有力な手段になり得ることを確認した。
以下、各分担研究の結果についてのべる。
1 発達障害児の実態と市町村の対応について(分担研究者:本間博彰)
1歳6ヶ月児健診および3歳児健診における健診受診率とそれに基づいて行われる精神発達精密健康診査受診率から、何らかの発達障害を予想させる幼児の実態を把握しようと試みた。これによると、1歳6ヶ月児の発達障害の把握は必ずしも高くなく、3歳児のそれの方がはるかに高かった。やはり、発達障害の場合、幼児期前半に把握されるケースは必ずしも多くはなく、幼児期後半に把握されることが多いといえる。また、その把握率は市町村の母子保健における取組みに関係があることが示唆された。いずれにしても、わが国の発達障害児の把握とその対応は、欧米の実態に比較するとなお不十分であることが伺われた。
行政的な見地からみるとき、障害児の早期発見と早期療育の成否は市町村における母子保健に依存するところが大きい。今後の重要な視点である。
2 自閉症児を中心とした通園療育と在宅支援について(分担研究者:村川哲郎)
最終年度における研究の特徴は、その出発点の視点として、障害児の母親3人の手記に基づく課題設定があげられる。松倉順子氏、葛西るり子氏、上田志美子氏による体験的手記は、それぞれの経験や具体的課題において相違するものがあるとはいえ、問題の核心においては極めて共通するものがあり、その指摘そのものが、本研究の必要性を示し、目標を明示しているといって差し支えないものであった。これらの手記をみると、児童相談所も保健所も、あるいは専門機関といわれるものも、その障害児が必要としていたものを提供していたとは到底いえないことが分る。改めて今後の支援のあり方を深く考えさせられるものであった。そうした中で、函館地区において実践された支援の実態は、おしまコロニーを中心として、市町村・大学教育学部附属養護学校、児童相談所、保健所、病院その他が優れた療育チームを形成して得られた成果であった。自閉症児への支援というだけでなく、すべての障害児とその家族に対する支援のモデルとして注目に値するものであった。
3 障害児支援における児童相談所と市町村の連携について(分担研究者:藤田美枝子)
静岡県下74市町村の母子保健担当者に対して実施されたアンケート調査によれば、障害児に対する市町村の苦悩は極めて大きく、特にその専門的知識・技術や専門機関との連携の難しさであった。これは、市町村の努力や力量の問題というよりは、むしろ国・都道府県・市町村という広域的な範囲にまたがるシステムの問題として理解される必要があると考えられた。また、企画された「講演・シンポジウム」を通じて明らかにされた中核的な課題は、「いかにして子育てを支援するか」であった。
結論
今日の発達障害児問題とは、明白な知的障害や自閉症を伴う児童だけでなく、さまざまな問題を伴っている場合が多く、しかも、それが軽度もしくは境界領域にあると思われるようなケースにいたるまで、極めて広範な児童の問題として考えなければならないと結論される。施設依存の支援体制から脱却し、地域に根ざした支援体制を構築するためには、市町村の母子保健、都道府県(ないしは政令都市)における児童相談所、地域療育機関、学校などとの連携が重要であることは当然であるが、それを実現するためには、優れた成果をあげている地域の実践に学ぶことが重要であると思われる。たとえば本研究で取り上げた函館地区などはそのモデルの一つとして大いに参考になると考えられる。

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