国際障害分類の改訂作業に伴う諸制度との関係及び諸外国の動向調査研究

文献情報

文献番号
200100305A
報告書区分
総括
研究課題名
国際障害分類の改訂作業に伴う諸制度との関係及び諸外国の動向調査研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
仲村 英一((財)日本医療保険事務協会理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 大井田 隆(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
  • 桐生 康生(山梨県峡北地域振興局健康福祉部(韮崎保健所))
  • 矢野 英雄(国立身体障害者リハビリセンター)
  • 大川 弥生(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界保健機関(World Health Organization; WHO)は、1980年に公表された国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps; ICIDH)初版の改訂(改定)を行った。1990年代に入り、専門家、関係団体等の協力のもと改訂作業が始められ、改訂版は医学モデルから、医学・社会の統合モデルへの変更と言える抜本的なものであり、2001年5月の世界保健総会で採択された。ICIDH第1版は国際疾病分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems; ICD)を補助する分類という位置づけであったが、WHOはICIDHの改訂を重要視しており、ICDとともに「国際分類のファミリー」を構成する「コア」として位置づけることを提案している。そして、名称も新たに国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health; ICF)と変更された。内容面の変更及びこれら国際的な動きから、ICIDH改訂について、日本の障害者施策との関係を整理し考察することが、今後の障害者施策の推進に当たって重要であると考えられる。そこで、本研究では、WHOによる改訂の最終段階である初年度(2000年度)は、ICIDH改訂に関する諸外国の動向を調査するとともに、各障害分野における日本の諸制度との関係を調査研究した。次年度(2001年度)は、改訂されたのを受けて、日本の障害者施策との関係を整理するとともに、ICF活用の方策を探った。
研究方法
(1) ICIDH改訂に関する諸外国の動向:ICIDH改訂に関してWHO専門家会議等に出席して国際動向に関して情報収集を行った。また、各国のICIDH専門家との情報交換を通じて各国のICIDH改訂に対する意見を収集した。 (2) 日本の諸制度との関係:保健諸制度、身体障害、精神障害、知的障害、情報システムの視点から日本の諸制度との関係を調査した。保健諸制度との関係では、平成13年3月末現在障害に関する何らかの計画を策定している344地方公共団体における障害者施策に携わる者を対象として、ICFに関する質問紙調査を行った。身体障害施策との関係では、日本の身体障害者制度全体を概観し、障害者プランおよび身体障害者福祉法について、ICF Part2 (Environmental Factors, Personal Factors) Chapter 5 Services, systems and policies(e500番台)のどの項目を対象としているのかを整理した。また、諸外国におけるICFの活用状況を調査した。精神障害施策・知的障害施策との関係では、精神障害、発達障害、大脳高次機能障害の3分野におけるICF適用の意義と問題点を整理した。また、精神障害者のデイケアや小規模作業所に通所中または就労支援等を受けている精神障害者の障害程度を把握するためのICF簡便版の作成を試みた。情報システムとの関係では、病名等保健医療福祉分野で使われている用語・コードと比較するとともに、保健医療福祉分野の情報モデルのデファクトスタンダード(事実上の標準)であるHL7 RIM(Health Level Seven Reference Information Model)におけるICFの位置づけを検討した。ICFコーディング支援システムに関する研究では、ICFコーディングを支援するシステムの基本設計のためにユースケース分析を行った。保健所におけるICFの活用では、保健所におけるICFの活用事例として乳幼児発達相談・訓練事業および脳卒中情報システム事業における調査票の開発を行った。
結果と考察
(
1) ICIDH改訂に関する諸外国の動向:ICIDH改訂作業に伴い、各国の専門家、関係団体等から、多くの修正意見がWHOに提出されている。概ね、ICIDHの改訂には肯定的であるが、多様な意見が提出されたため、最終的に調整できない事項については将来の定期的な改訂時に検討することで、世界保健総会に向けての最終案にまとめられた。内容面では、活動(Activity)と参加(Participation)の区別が不明確であることが大きな議論となった。最終的に活動、参加ともに同じリストを用い、各国で使い分けることになった。検討の過程で、WHOからICIDH改訂の目的が、人口集団の健康(Population Health)の測定にあるという意向が示され、突然の目的の変更であるとして、諸外国及びICIDH開発に関わってきた専門家から難色が示されている。なお、WHOは、ICIDH改訂案を人口集団の健康の測定の一部として位置づけることを検討しており、現在各国において、その妥当性、実現性等について検討が行われている。各国ともICIDH改訂の重要性、意義は認めていたが、施策への直接の反映について具体性をもった対応を考慮している国はないようである。ICIDH改訂版は、細かい点では多くの問題があるものの、全体としては初版と比べると大きく前進しており評価できる。特に、共通言語としての役割が大きいと考えられた。WHOにおいては、引き続き改訂・改良作業を行う等の維持管理が必要不可欠である。障害統計については、アメリカ合衆国、フランス等数か国により、DISTABと称するグループが構成され、ICFの障害者統計への活用の試みが開始された。日本においては、日本語への翻訳が最重要な課題である。厚生労働省は2001年6月に「国際障害分類の仮訳作成のための検討会」を立ち上げ日本語への翻訳作業を開始し、現在最終段階に入っている。また、コーディングマニュアルやコーディングガイドラインの開発、コーディング研修の実施等も重要な課題である。ICFは健康以外の要因による参加制約(社会的不利)を対象としていない。これは、貧富の差、性差別等の問題を取り上げると議論がまとまらないことが懸念されたためと考えられる。そのため、日本のように英語等の国際公用語を母国語としていない国の人々が国際的な社会参加の制約を受けているという問題は扱わない。情報化社会の進展にともない言語による参加制約は一層深刻となると予想されるので、日本としては国際社会における言語による参加制約について積極的に問題提起する必要があると考えられた。(2) 日本の諸制度との関係:保健諸制度との関係では、ICFの認知度や活用度がICIDHと比較して低いこと、しかし、現行の多くの障害者福祉に係る諸事業等と関わりがある、あるいは活用できると多くの担当者が考えていることが明らかになった。これらの施策の対象となる障害者選別の基準は障害程度等級が用いられる場合が多かった。また、ICIDHの概念は広く知られているもののICIDHという名称自体は行政機関の障害者施策担当者や現場にあまり知られていないと思われた。日本の障害保健福祉施策においてICFがあまり活用されていないのは、基本的枠組みや歴史的経緯の相違が大きな原因であり、ICFが行政組織の担当者にほとんど浸透していないのは、こうした状況の延長であると考える。しかし、その活用可能性については多くの担当者が認識していることから、ICFの内容が具体的に知られるようになれば、行政の障害者施策において活用されることが期待できると考えられた。身体障害施策との関係では、障害者プランについては、e500番台のtwo-levelについてはすべてを対象にしていることがわかった。また、身体障害者福祉法については、e575, e570, e580を中心に他の施策と連携してサービスを提供していることがわかった。諸外国の例では、フランス、オーストラリア、カナダでは既にICIDHを活用していた。身体障害者施策を評価する枠組みとしてEnvironmental Factorsのe500番台は役立つと考えられる。例えば、国全体の施策のメニューがあるかどうかを評価する場合等である。ただし、評価基準としては、記述が十分ではなく、サービス水準や達成
度の評価、相対評価等に用いるのは現状では難しいと考えられた。海外では、欧米で既にICIDHが活用されていたが、用途は統計的な活用であり、年金等の手当てには活用が不十分であった。精神障害施策、知的障害施策との関係では、精神障害に関しては、ICFはICIDHに比べると、相互作用モデルの色彩がより強く、生活障害の評価がより細やかになり、心理社会的アプローチの評価への利用等の利点が考えられる。一方、活動、参加、環境の観点からの評価は現在の専門職になじんでいない等の問題点が指摘された。知的障害に関しては、IEP(individual educational program)をたて、各個人に必要な援助を提供するのにICFは有用である。具体的には、現場のリハビリテーションにおいてどのようなサービスをすべきか考えるときのチェックリストとしての活用が可能と思われる。精神障害者向けのICF簡易版では、心身機能23項目、活動と参加80項目、計103項目よりなる試作版が作成された。精神障害は、「精神疾患」への治療と、「障害」への対応の両者を必要とする状態である。しかるに明治以来の日本の精神保健史をみると、政策上、「疾患」の治療・病者の保護という側面が前面に出て、「障害」への福祉的対応という部分は後発であった。したがって「障害」への対処を、ICFが示すように、活動や参加の視点から組み立てていくことは、今後病院中心の精神医療・保健を地域生活中心の医療・保健・福祉に転換していく際に重要な視点であると考えられる。ICF簡易版の作成の過程で精神障害の「不安定性」の把握が議論になり、実際の援助場面での「疾病性」の把握と「障害性」の把握の統合の問題は、今後の議論を必要とする課題として残された。情報システムとの関係では、情報システムで用語・コードを利用するためには、一概念一用語一コードかつコード不変の体系が必要である。そのため、ICFについてはより詳細なレベルでのコード化が必要である。ICFはHL7 RIMのEntityクラスのサブクラスであるPersonクラスのdisability_cd属性またはActクラスのサブクラスであるObservationクラスで表現される。HL7 Domain Vocabulary Listings for RIMへICFを追加することが重要である。ICFコーディング支援システムに関する研究では、「ICFの概要について調べる」「コーディング規則を調べる」「評価点の付け方を調べる」等9のユースケースが抽出された。9のユースケースとその要件に適合した支援システムの開発が重要である。保健所におけるICFの活用では、遠城寺式・乳幼児分析的発達検査表等既存の発育・発達の評価票には環境因子に関する項目が欠けていたため、環境因子を加えた評価票を開発した。また、脳卒中情報システム事業における登録票に活動や参加に関する項目を加えた発症後追跡票の開発を行った。乳幼児発育・発達、脳卒中、難病等の疾病の評価にICFの視点を導入することで活用が図られることが示唆された。
結論
ICIDH改訂に関する諸外国の動向及び日本の諸制度との関係について調査研究を行った。ICIDH改訂版は初版と比べて大きく進歩しており共通言語としての役割が大きいと考えられる。また、既に開発の段階から普及の段階に移っており、今後、普及のための調査研究が求められる。

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