保健医療プロジェクトの事前・中間評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100137A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療プロジェクトの事前・中間評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
三好 知明(国立国際医療センター国際医療協力局)
研究分担者(所属機関)
  • 兵井伸行(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健医療分野におけるプロジェクトが効率的かつ有効に行われるため、プロジェクト・マネージメントの改善の重要な要素となる事前・中間評価の改善を目的とする。
研究方法
主任研究者らは初年度に引き続き、事前評価にかかる保健医療サービスのアセスメント手法についての研究を行った。これは地域保健医療システムにおけるニーズアセスメントを、プロジェクトのベースライン調査としてどのように迅速かつ効率的に行うかということであり、実際にボリビアにおける新規プロジェクト短期調査などにおいて検証した。
さらに現行のJICA保健医療プロジェクトにおける事前・中間評価の実態を把握するため、アンケート調査を実施した。ここでは事前・中間評価やモニタリングなどに対する意識や活用状況などについても調査した。
一方、分担研究者らは引き続き、迅速評価法や参加型評価法について、その手法をツールとして活用するために、文献や実際の適用事例を基に歴史的発展過程も含めその特徴を明らかにし、指標設定も含めた適用の方向性を検討した。さらに、保健医療プロジェクトの立案やモニタリング・評価に活用される迅速・参加型手法における指標開発と指標設定についても検討を行った。
結果と考察
1)主任研究者らが行った事前評価にかかわるアセスメント手法についての研究では、地域医療システム調査に関する手法開発を行った。これまではともすれば、漫然と非系統的に開発途上国における医療施設の調査を、“縦の構造"と呼ぶことのできるリフェラルの流れに沿ったシステムの中で各医療施設を捉える方法と、“横の構造"と呼ぶことのできる同レベルの医療施設と比較して捉える方法との2つのアプローチを提唱した。このような“縦の構造"と“横の構造"のマトリックスの中で捉える考え方は、系統的な医療施設のアセスメントに役立つと思われた。これにより、医療施設のサービス内容や施設・機材レベル、人員配置などをより適切に改善し得るようになると思われ、ひいては援助の妥当性の確保や保健政策の立案にまで利用できるのではないかと考える。
さらに、主任研究者らは我が国の保健医療プロジェクトの事前、中間評価の現状を分析するため、実施中の保健医療分野の技術協力プロジェクトに対してアンケート調査を実施した。アンケート結果から、事前・中間評価やモニタリングは標準化された手法が現場において明確でないまま、実施されており、その意識もプロジェクト間で異なることが判明した。現状ではほとんど全てのJICAプロジェクトではPCMワークショップを行い、PDMを作成している。しかしながら、PCMを評価に用いることはカウンターパートを巻き込み、共通理解を促すという点で、一定の役割は担い得るものの、参加型とされるPCM手法の問題点も多く、これを用いて評価を行うことには限界があるといえる。
プロジェクトの効率性の向上など、質の改善のためには、プロジェクトを計画、実施、評価というサイクルでとらえたマネージメントが重要である。また、プロジェクトの自立発展性を得るには参加型によるオーナーシップ形成が重要である。こうした点から、事前・中間評価は参加型のマネージメント・ツールとしてプロジェクト開始時より組み込まれるべきであり、個々のプロジェクトに併せて,個別的なアプローチを参加型で開発していくべきである。このようにアセスメントやモニタリングと組み合わせた形で評価を行うことは、まさに参加型プロジェクト形成そのものといえよう。従来行われている評価は参加型といいつつも、単に参加者として存在することであることも多く、参加型評価の改善は保健医療分野における参加型プロジェクト形成という全体的視野から考える必要がある。
分担研究者らは保健医療分野のプロジェクトの立案、モニタリング・評価における参加のあり方と指標開発も含めたその手法について検討を加えた。その結果、援助機関や関連機関においては、「参加」を開発の重要な構成要素と捉えるようになってきているが、いわゆるプロジェクト・アプローチから実証・実験や学習、そのプロセスを重視したアプローチへの移行は起こっていないことが示された。したがって、主体である地域住民のエンパワーメントを達成するには、迅速・参加型手法を積極的に導入し、双方向のモニタリング評価が必要であると考えられる。
明らかになった迅速・参加型手法の主な課題は、手法の適用についての統一した指針や公式は存在しないこと、また、参加を地域住民が主体である開発のための持続的な社会プロセスと位置づける発想、認識の転換が求められている点、質的データを重視した適切なモニタリング評価指標開発が必要であり質的研究の方法論に関するさらなる検討が望まれる点である。さらにコミュニケーション・スキルを備えた各種手法に習熟したファシリテーターの必要性と手法を活用した事例の蓄積と検討が不可欠であることが示された。また、プロジェクトを道具として継続発展的な社会開発を目指すアプローチ(Basket of Choices)の重要性が明らかとなった。
また、保健医療プロジェクト立案とそのモニタリング・評価のためにさまざまな手法をツールとして活用するためには、各手法の特徴を把握する必要とともに適切な指標の設定が不可欠であり、分担研究者は参加型モニタリング・評価手法における指標開発と指標設定について、文献や実際の適用事例を基にその特徴を明らかにするとともに活用の方向性を提示した。
参加型モニタリング・評価における指標設定において基本となる5つの設問は以下の通りである。
①実行するといったことを行ったか?(What?)
②うまくいった、いかなかったことから何を学んだか?(Why?)
③この仕事をしてどんな違いをもたらしたか?(So what?)
④異なったやり方でできるだろうか?(Now what?)
⑤継続的な学習のために評価結果を用いるどのような計画を立てるか?(Then what?)
こうした指標設定を考慮に入れつつ、プロジェクトにおいて具体的な参加型指標を考えたい。
結論
1)保健医療プロジェクト評価の現状については、アンケート調査から事前・中間評価やモニタリングは標準化された手法がないまま、実施されており、その意識もプロジェクト間で異なる。今後はプロジェクト・サイクルに標準化された方法で組み込む必要がある。
2)事前・中間評価は参加型のマネージメント・ツールとして、アセスメントやモニタリングと組み合わせた形でプロジェクト開始時より組み込まれるべきである。
3)迅速・参加型手法の主な課題は、参加を地域住民が主体である開発のための持続的な社会プロセスと位置づける発想、認識の転換が求められており、質的データを重視した適切なモニタリング評価指標開発が必要である。
4)参加型モニタリング・評価手法における指標開発と指標設定について、その特徴を明らかにするとともに活用の方向性を提示した。

公開日・更新日

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