文献情報
文献番号
200100133A
報告書区分
総括
研究課題名
包括的社会保障制度に関わる国際比較と国際協力戦略に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川口 雄次(WHO健康開発総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 渡邉一平(広島国際大学)
- 西村周三(京都大学)
- 石井敏弘(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、アジアNIESやアセアン諸国などの法律・制度の実状を把握・比較・整理することを通じ、包括的社会保障制度(社会保障制度のグローバルカバー)を検討することである。日本からの有効な支援を模索し、各国が直面している社会保障制度改革の実態を検証することで、改革を積極的に考えている国や地域に対して連携の在り方を検討し、提案することを目指す。
研究方法
WHO健康開発総合研究センターは、開発途上国の健康施策の課題と方向性について、健康と福祉の重要性に鑑み、一人一人が自分の健康管理の重要性を認識し、未来の世代に向けて健康と安全性を確保するために様々な活動を提案し、実践してきた。過去2回のグローバルシンポジウムにおいて、21世紀型の保健医療と健康づくり体制構築を支援する世界的なネットワーク構築を目指す中で、各国の地域住民に対する健康維持増進、疾病予防、診断、治療、リハビリテーションおよび介護、福祉サービスのシステム化に向けての成果を検証し、いくつかの提言を行ってきた。これらの成果を各国、各地域の代表は持ち帰り、更により良い施策として実践することを模索している。従来、開発途上国の発展に重要視されてきたのは、産業・商業の育成が中心の施策であった。しかし、今日の開発途上国は、地球規模での経済、社会、自然環境に亘る大きな変化の影響下にある。そのため、社会の安定性や民力の確保の点から、国民の健康維持増進が重要な課題となってきた。開発途上国の健康施策の課題と方向性について包括的社会保障システム構築を通じて移転可能なシステムを国際協力プログラムのあり方と併せて検討した。
結果と考察
結果と考案=石井は、“疾病"と“貧困"の2つが困窮の代表であり、人々の健康状態の水準を高めると共に“疾病"を予防し健康増進を図ることは、社会保障制度の運用に大きく関わっているとの見解を示した。世界銀行、世界保健機関などの国際機関が公表する国別データを用いて、健康状態と公衆衛生、社会保障に係る指標との関係を分析した結果、男性平均寿命、傷害調整平均余命などの健康水準指標は、水道利用人口割合、必須医薬品を入手できる者の割合、医師数(人口10万対)、保健医療費といった公衆衛生に係る指標と正の相関にあることが認められた。社会保障費についても正の相関であった。本分担研究の結果から、疾病予防/健康増進に関わる公衆衛生施策が、集団の健康水準の向上に寄与している可能性が示された。社会保障費については、集団の健康水準が高くなることが費用の増加をもたらしていると考えられる。
西村は過去の統計データの解析に基づいて、日本の経験から得られるものを利用した国際協力の可能性について、日本の過去の制度の功罪を踏まえて、過去30年間の日本の医療保障制度の発展の経験を、主に中進国への適用可能性について検討した。日本の国民健康保険制度の発展過程を概観し、相互扶助システムとしての「社会保険制度」の役割を見直し、日本の「健康保険制度」は予防・保健に重点をおくというよりも、疾病の治療を重視するという形で発展し、(1)公的保障でもなく、また市場に委ねた健康増進や医療保障でもない「相互扶助」システムの意義と限界、(2)都市部と農村部における公的部門の保健・医療保障の役割の差異、について検討を行った。保健財源の確保の点では、保健婦、国民健康保険料収納担当者の形成したノウハウなどを国際協力に活かす手法について検討した。日本の保健政策においては、税財源を中心とし、政府(地方政府)の責任に属するものという理念のもとで諸活動が行われてきたことから、その分離政策が、健康増進に関して地域ごとにきわめて大きな格差を生む要因となった。地方自治体の予防への熱意、地域コミュニティの形成密度などにおける格差が、地域住民の健康水準に大きな差をもたらすこと、また健康水準が高い地域ほど、国民健康保険の保険料の納付率が高いことが明らかとなった。日本での保健増進政策と疾病治療保障との関連に関する財源調達メカニズムの関連に関する経験は、諸外国における保健政策での地方分権のあり方や地域コミュニティ維持の方法に数多くの示唆を与えるものと思われる。具体的な国際協力のあり方として、(1)経験豊富な保健先進地域の保健婦、(2)保険料納付率の高い地域の国保収納担当者、による指導を通じた協力が検討されるべきであることを示した。
川口、渡邉は包括的社会保障制度(システム)として、国際協力戦略としての包括的社会保障制度について検討した。包括的社会保障とは、長寿化した生涯の中でより良い人生(well being)を実現するために、必要にしてあるべき生存条件を保障することを指している。今後の世界的連携の環境下においてその実現を考える時、その保障制度は「共生」と「相互扶助体制」を原則としなければならない。その際、保障領域は①年金、②保健医療、③福祉、④雇用、⑤教育、⑥環境、の6つから構成される。更に「21世紀に適応する最適な包括社会保障システム」の構築には、下記の三要素を基本に行わなければならない。①Basic Human Needs(Essential Human Needs)、②人間を中心とする開発および③人間の安全保障、のグローバル化である。加えて、研究班会議の検討成果として、日本の包括的社会保障制度に係わる国際協力戦略としての対象分野と対象地域・対象国についても検討した。
西村は過去の統計データの解析に基づいて、日本の経験から得られるものを利用した国際協力の可能性について、日本の過去の制度の功罪を踏まえて、過去30年間の日本の医療保障制度の発展の経験を、主に中進国への適用可能性について検討した。日本の国民健康保険制度の発展過程を概観し、相互扶助システムとしての「社会保険制度」の役割を見直し、日本の「健康保険制度」は予防・保健に重点をおくというよりも、疾病の治療を重視するという形で発展し、(1)公的保障でもなく、また市場に委ねた健康増進や医療保障でもない「相互扶助」システムの意義と限界、(2)都市部と農村部における公的部門の保健・医療保障の役割の差異、について検討を行った。保健財源の確保の点では、保健婦、国民健康保険料収納担当者の形成したノウハウなどを国際協力に活かす手法について検討した。日本の保健政策においては、税財源を中心とし、政府(地方政府)の責任に属するものという理念のもとで諸活動が行われてきたことから、その分離政策が、健康増進に関して地域ごとにきわめて大きな格差を生む要因となった。地方自治体の予防への熱意、地域コミュニティの形成密度などにおける格差が、地域住民の健康水準に大きな差をもたらすこと、また健康水準が高い地域ほど、国民健康保険の保険料の納付率が高いことが明らかとなった。日本での保健増進政策と疾病治療保障との関連に関する財源調達メカニズムの関連に関する経験は、諸外国における保健政策での地方分権のあり方や地域コミュニティ維持の方法に数多くの示唆を与えるものと思われる。具体的な国際協力のあり方として、(1)経験豊富な保健先進地域の保健婦、(2)保険料納付率の高い地域の国保収納担当者、による指導を通じた協力が検討されるべきであることを示した。
川口、渡邉は包括的社会保障制度(システム)として、国際協力戦略としての包括的社会保障制度について検討した。包括的社会保障とは、長寿化した生涯の中でより良い人生(well being)を実現するために、必要にしてあるべき生存条件を保障することを指している。今後の世界的連携の環境下においてその実現を考える時、その保障制度は「共生」と「相互扶助体制」を原則としなければならない。その際、保障領域は①年金、②保健医療、③福祉、④雇用、⑤教育、⑥環境、の6つから構成される。更に「21世紀に適応する最適な包括社会保障システム」の構築には、下記の三要素を基本に行わなければならない。①Basic Human Needs(Essential Human Needs)、②人間を中心とする開発および③人間の安全保障、のグローバル化である。加えて、研究班会議の検討成果として、日本の包括的社会保障制度に係わる国際協力戦略としての対象分野と対象地域・対象国についても検討した。
結論
新しい社会保障制度構築の基本構想の策定および運営方法に対する提言として、21世紀に適応する最適な社会保障制度を構築するためには、グローバル リスクの原因となる貧困を含むリスクの要素の克服に繋がるBasic Human Needs、人間中心の開発、および安全保障のグローバル化を取り入れることが重要である。包括的社会保障制度は、その状況の下に構築されるべきであり、同時に、人間の生存を脅かす全ての環境条件から人間を守るための制度でなければならない。その制度は相互に扶助しなければならない保障であるとし、その保障領域としての、年金・医療・福祉・雇用・教育・環境の6領域において、国際比較・国際戦略を模索すべきである。これらの領域における相互扶助の試みが、国を越えた連携として展開され、共生としての統合化の可能性を追求することが今後とも求められる。
公開日・更新日
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更新日
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