OECDのSHA手法に基づく医療費推計及び国際比較に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100129A
報告書区分
総括
研究課題名
OECDのSHA手法に基づく医療費推計及び国際比較に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮澤 健一(医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 坂巻弘之(医療経済研究機構)
  • 石井聡(医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毎年、厚生労働省統計情報部から公表される「国民医療費」は、医療政策における成果をはかる重要な指標の一つであるとともに、中長期の政策目標設定においても重要であるが、医療保険の対象外の項目、予防や健康管理に関わる費用、医療機関の運営および設備整備の費用等が除外されているため、政策的な議論のベースとしては不十分であり、また保健医療支出の範囲が諸外国とも異なるために、国際比較を行う場合に問題になることが指摘されてきた。
OECDは2000年に、国際的に統一した標準表の形で国際比較可能となる保健勘定の提供や医療サービスの首尾一貫した報告の枠組みの提示を目的として、新たな保健医療に関する支出の推計方法である「A System of Health Accounts」(SHA)を発表した。SHAは、医療活動の全分野を対象とした包括的な勘定枠組み(International Classification for Health Accounts ;ICHA)を提供しており、機能別(HC)、供給主体別(HP)、財源別(HF)の3次元分類を柱としている。また、これに呼応する形でOECDより毎年出版される「OECD Health Data」の中の医療費に関する項目も変更されてきている。そこで、われわれは平成12年度研究において、SHAに準拠した日本の医療費推計方法を開発し、その手法を用いて1998年度の総医療費の推計を行うとともに、「OECD Health Data」の値としてOECDに報告した。本研究においては、推計方法の精緻化を行い、新たに1999年度の総医療費推計を行なうとともに、過去5年に遡って1995年度から1998年度までの総医療費について再推計を行った。
研究方法
平成12年度研究で開発した医療費推計方法の精緻化を行い、その手法を用いて1995年度から1999年度の各年度について総医療費推計を行った。推計は、OECD Health Data 2002の項目に従って行い、またSHAテーブルを作成した。SHAテーブルは、総医療支出(Total expenditure on health)ではなく総現行医療支出(Total current expenditure on health)、すなわち総医療支出から設備投資額を差し引いた部分を各分類に従い2次元あるいは3次元テーブルに表したものであるが、本研究では、特に基本となる3つの2次元テーブル(table2:HC-HP、 table3:HP-HF、 table4:HC-HF)について作成した。特に、今後、OECDから求められるSHAテーブルが変更された場合でも、柔軟な対応が可能となるよう、標準テーブルよりも詳細に、機能別分類・供給主体別分類・財源別分類の小分類項目まで掘り下げた推計を行った。
結果と考察
本研究では、従来の推計方法から若干の変更を行った。まず、OECD Health Data 2002の項目が従来から変更になったため、以下の対応を行った。Total expenditure on in-patient care の細目がa)急性期治療、b)精神疾患関係の治療、c)慢性疾患や介護による長期看護、d)その他の入院治療の4項目から、e)入院患者の治療、リハビリ、f)慢性疾患や介護による長期看護の2項目に変更となったが、本研究ではa)とb)に該当するのがe)、c)とd)に該当するのがf)とした。Expenditure on ancillary servicesの細目が追加されたが、該当する費用は制度上存在しないとみなしたため推計方法に変更はなかった。Expenditure on home careの細目として治療及びリハビリのホームケア、長期看護のホームケアが新設されたが、それぞれ国民医療費の訪問看護医療費、国民医療費の老人訪問看護医療費として推計した。Health Dataの項目変更の対応以外に推計手法等の変更を行った部分として、救急業務費を地方交付税制度解説(単位費用編)の救急業務費の単位費用から推計し加えた点と、財源別分類において、従来はHF.1.2及びHF.2.3に含めていた国民医療費に公費負担医療給付分として明記されている部分を全額ICHA-HFのHF.1.1に計上した点が挙げられる。
推計結果の概略は以下に記す通りであるが、1995年度から1999年度についての経年的な変化を確認することも可能となった。総医療支出は1995年度に約33.7兆円だったものが、1999年度に約38兆円に増加した。国民医療費は1995年度の約27兆円から1999年度に約31兆円に増加しており、総医療支出に対して約80%から81.5%を占めている。また、この5年間で国民医療費が約2%から6%、総医療支出は約1.5%から4%の伸び率で推移しており、両者の伸び率の推移は似た傾向を示している。医療的サービスは、「入院医療費」、「入院外医療費」、「在宅医療費」、「補助的医療サービス(臨床検査、画像診断、移送費等)の総額であるが、1995年度の約22.4兆円から1999年度の約27.5兆円に23%程度増加した。入院医療費は、「リハビリを含む急性期の入院治療費」と「長期入院医療費」からなり、通常、医療費には計上されていない正常分娩費用の推計値も含まれるが、1995年の12.2兆円から1999年の14.4兆円に、約17%増加した。その内訳として、急性期の入院治療費が5年間で微増にとどまる一方、長期入院医療費は1.2兆円から2.9兆円へと5年間で2倍以上に急増した。入院外医療費には、「一般の入院外治療費」と「歯科治療費」が含まれるが、1995年度の約10兆円が1999年度に約12.8兆円に、約30%上昇した。いわゆる歯科自由診療の費用は推計値に含まれていない。この上昇は、歯科治療費微増にとどまるため、一般の入院外治療によるところが大きい。また、入院外医療費の自己負担率は、13.5%から18.6%に上昇している。在宅医療費には、「一般の在宅医療費」と「長期看護の在宅医療費」があり、1995年度の210億円から1999年度の1,050億円に急増し、その伸びは「長期看護の在宅医療費」の延びにほぼ比例している。
財源別分類では、全体の7割弱を「社会保険」が占めている。「社会保険」の財源として投入されている公費についても、「社会保険」に含まれている。1995年に約68%だったのが1999年に約65%に若干低下した。一方「自己負担」の割合は、約15%から約17.7%へと上昇した。
SHAテーブルの各分類について、1999年度の推計結果概略を以下に記す。機能別分類の構成(HC.1治療的医療サービス:68%、HC.2リハビリ治療サービス:0%、HC.3長期看護サービス:8%、HC.4ヘルスケアの補助的サービス:1%、HC.5外来患者への医療供給:18%、HC.6予防および公衆衛生サービス:3%、HC.7保健管理および健康保険:2%)、供給主体別分類の構成(HP.1病院:51%、HP.2看護施設:3%、HP.3外来ヘルスケア提供者:29%、HP.4医薬品の小売りおよびその他の提供者:12%、HP.5公衆衛生プログラムの供給および管理:3%、HP.6一般健康管理および保険:2%)、 財源別分類の構成(HF.1政府‐HF1.1社会保障基金を除く政府‐HF.1.1.1中央政府:9%、HF.1.1.2州、地方政府(都道府県):1%、HF.1.1.3地域、市町村:1%、-HF.1.2社会保障基金:70%、HF.2民間部門‐HF2.2民間の保険会社(社会保険以外の):0%、HF.2.3家計負担(自己負担):18%、HF.2.5企業(健康保険以外):1%)
結論
本研究により、今後も推計を継続していく上での課題も明確になった。まず、データソースの限界による問題が挙げられる。具体的には、制度上あるいは概念上は費用支出が存在する項目について、データソースの不足により推計不可能な場合があり、過少推計の原因となっている。また、データソースの数値あるいは推計値を各項目に分類できずに、ひとつの項目に一括計上している場合もある。さらに、すべての公表統計資料の内容を把握できないため、推計に使用できるデータソースが他に存在する可能性もある。次に、項目の境界に関する問題がある。項目間の境界の判断は各国間で行っており、整合性が保たれていない部分が存在する可能性がある。また、推計対象範囲に含まれるかの判断も各国に委ねられている。特に国際比較を行う場合には、この点について留意する必要がある。最後に、推計手法の問題が挙げられる。単年度の推計結果では明らかにならなかったが、時系列の数値として捉えた場合に、問題点が浮上した。基本的に同一項目については、一定の傾向(上昇傾向や下降傾向)を示すのが正常と考えられるが、年毎に上下の変動が大きい項目については、推計に使用しているデータソースあるいは推計手法に問題があると考えられる。これらの項目についても、手法改善の余地があるであろう。

公開日・更新日

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