医療機関の機能分化と役割分担の実態を明らかにするための統計調査に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100128A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関の機能分化と役割分担の実態を明らかにするための統計調査に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
伏見 清秀(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の医療では、長期入院や大病院への外来患者の集中等が問題となっており、医療機関の役割分担の不明確性がその一因であると考えられている。また、医療技術の急速な進歩により医療の専門分化が進むとともに国民の専門医指向が強まっており、医療機関の専門分化と役割分担の実態を詳細に明らかにする事が必要とされている。しかし、従来の統計分析は医療設備、病床の充足、在院日数等を視点として解析されることが大部分であり、社会からの要求に応える解析が充分にされてきたとは言い難い。
本研究では、医療機関の専門分化の実態を明らかにするための統計調査のあり方を示すために、現在の統計調査データから、医療機関をその機能と相互連携の視点から評価するための統計指標を定め、医療機関の機能分化と役割分担の実態の時系列分析を試みること、およびこれらの分析を通じて医療機関機能分化を評価するために必要な調査項目を明らかにすることを目標とした。
研究方法
医療機関の機能分化に関連する各種統計調査の調査項目を統合したデータベースを構築し、医療機関の機能分類と相互連携を評価する指標について、暫定的な仮説の設定とその検証のプロセスを繰り返す仮説検証法により適切な指標を求めた。最初に、医療施設調査、患者調査、国民生活基礎調査、人口動態調査、病院報告、受療行動調査から必要な調査項目を抽出し、関連性の分析とデータフォーマットの解析を行った上で、医療機関機能分類のための統合データベースを設計した。データベースは各種分析軸に対して高速に集約、関連、分類等の解析が実施できるよう多次元データウェアハウスの理論に基づいて構築した。OLAP(On Line Analytical Processing)と呼ばれる対話型解析ツールを用いて、多角的かつ包括的な分析をリアルタイムで実施した。医療機能分化の指標の設定においては、国内外の医療機関の機能分類と機能評価に関する文献から得られた評価指標と、本邦における各種統計調査から得られる調査項目とを対比させ、有効な指標の設定方法を検討した。
結果と考察
1.医療機関機能分類のための統合データベースの構築:医療施設調査、患者調査、病院報告、受療行動調査を、医療機関コードをキーとして連結するリレーショナルデータベースを設計した。設計の第1段階として、各調査票に配置された調査項目を抽出した上で、調査項目の整理、関連性に基づくグループ化、データフォーマットの定義等によりデータ形式を抽象化し、全体のデータ構造が把握できる厚生統計調査データモデルを作成した。設計の第2段階ではデータベースの論理モデルを構築した。この段階では、全てのデータの関係を二次元デーブルで表す「関係モデル」を作成して各調査項目データを配置しデータベース構造を決定した。また、時系列分析に対応するために、選択肢、調査項目名、単位の年次変化等をコード変換と調査項目変換等のデータ処理で吸収し、年次間の整合性と一貫性を維持できるように設計した。設計の第3段階では、物理モデルを構築し実データを実装する方法を規定した上で、PCサーバー(インテルPentium4-Xeon 2GHz x 2、メモリー2Gバイト、ディスク36GバイトSCSI)にデータベースを構築し、ダミーデータを用いてデータベースの最適化を実施した。データベースはOracle OLAP serverにより構築し、Oracle Express AdministratorとOracle Express Spreadsheet Add-inにより多角的かつ包括的な対話型分析をリアルタイムで実施できるインターフェースを整備した。次いで、データベースを効率的に運用するためにインデックス(索引機能)の設定を検討した。調査項目の分析および事項の文献調査等の結果に基づいて、インデックスの設計と実装を行い、分析において頻用されると想定される項目の推定、予想される階級幅と階級数、データの絞り込み範囲等に基づいて予備的にインデックスを設定した。予備分析における応答性は非常に早く、大規模で複雑な分析においても実用的であり、統合データベースシステムを用いた医療機能分化に関する仮説検証法は実用性が高いと考えられた。
2.医療機関の機能分類のための指標および相互連携の評価のための指標に関する検討:実データの投入と多次元分析による解析のために、医療機能分化に関する既存研究の詳細な文献的検討を行った。諸外国の医療機能分化の評価法に関する検討により次のような点が明らかとなり、本研究データ分析の際の医療機能分化に関する指標設定の際に活用できることが示された。アメリカではプライマリケア医と専門医の分業、入院機能と外来機能の分離が徹底しており、最近の入院医療から外来医療への重点シフトは、在院日数の短縮から短期入院手術、外来手術への流れと捉えられ、本邦の医療機能分化の時系列分析おいてその実態を分析する必要があることが示された。慢性期治療における入院リハビリセンター、外来リハビリセンター等の機能等も示された。また、急性期と慢性期以外の医療に対応する「亜急性治療施設」の概念を検討する必要性が示された。英国のNHS制度は本邦の医療システムとは大きく異なるが、家庭医登録制、専門医療完全紹介制は本邦のプライマリケアのあり方を分析する上で一つの指標となることが示された。フランスの入院医療を主に担う公的病院の、「地域医療センター(大学病院)」、「セクター病院センター」、「地区病院」、「特殊病院センター(癌、精神疾患)」、「中期療養施設」、「長期療養施設」等の区分は、本邦の大学病院、特定機能病院、地域基幹病院、救命救急センター、国立療養所等における機能分担分析においての一つの指標となることが示された。私的病院についての「急性疾患治療施設」、「中長期入院施設」、「在宅診療施設」、「精神病対策施設」等の区分は本邦での小規模医療機関の機能分類の指標となると考えられた。ドイツでは入院医療での公的総合病院機能の重視と小規模私的病院の単科機能が特徴的であり、本邦での公私機能分担に関する分析指標に反映させうることが示された。以上の分析を元に、医療機関の機能分化の基本パターンを次のように設定し、分析を進める過程で細分化および追加を行うこととした。病院機能分類では、急性期重点一般:短在院日数+広範囲疾患入院、急性期重点専門:短在院日数+特定疾患入院、救急重点一般:広範囲疾患救急、救急重点専門病院:特定疾患救急、慢性期重点一般:長期入院、特定分野専門:特定疾患、地域連携重視病院:地域連携密、自己完結型病院:広範囲外来入院診療+粗連携、診療所機能分類では、特定分野専門診療所:特定分野外来、在宅重点診療所:在宅医療重点、歯科診療所機能分類では、口腔外科重点歯科:口腔外科主体、矯正重点歯科:矯正歯科主体、小児歯科重点歯科:小児主体、等を設定した。また、専門性を評価する指標として、病床数、施設状況、標榜診療科別患者数、主要疾患別患者数、主要疾患別手術状況、疾患別医療機関別患者集中度、従事者数、専門外来、臨床研修、救急医療体制、院内委員会、夜間休日診療、在宅医療、手術、設備・診療機器、入院環境、業務委託、診療情報管理、看護体制、特殊検査等が有効であると考えられた。相互連携を評価する指標としては、紹介状況、地域連携、院外処方等、院経路、退院経路、紹介の状況、救急医療等が有効であると考えられた。
結論
本研究における統計データの統合データベースの構築により、多年にわたり蓄積された医療関連統計データを包括的に活用し詳細に分析するための方法が明らかとされた。膨大な統計データを、データウェアハウス技術を応用して時系列構造を持つ関係データベースに再構築することにより、非常に多数の統計仮説の検証を高速かつ多次元的に遂行可能であることが示された。また、本研究の実施過程でデータベースを構築するにあたって体系的に整理された医療施設調査、患者調査、病院報告等の調査票項目のデータモデルは、各調査の相互関係、年次推移、データフォーマット等の情報を集約したメタデータとして利用可能であり、複数統計調査の結合または時系列分析を必要とする研究の設計に利用できると考えられる。本研究では次年度以降これらの情報を活用して医療機能分化に関する各種指標を設定し分析を進める予定
である。さらに、文献的考察から明らかとなった諸外国の医療機能分化の評価法から、本邦の医療機関分析における解析視点の設定の方向性が示されたと考えられる。また、本研究により提案された医療機関機能分類の具体例および専門性と相互連携を評価するための指標は、医療機関の専門分化と役割分担の実態を詳細に明らかにしていく上で、今後の医療統計調査体系の改善と再構築の有益な資料となると考えられる。これらは、医療の質の確保と効率化のための施策の推進に貢献し、医療機関の役割分担の明確化につながることが期待される。

公開日・更新日

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