社会的構造因子と地域集団健康指標の関連性に関する研究 (H13-統計-001)

文献情報

文献番号
200100124A
報告書区分
総括
研究課題名
社会的構造因子と地域集団健康指標の関連性に関する研究 (H13-統計-001)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 英樹(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福原俊一(京都大学)
  • 小林廉毅(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、社会的構造因子、特に経済的生活水準や地域格差が地域健康状態に及ぼす影響を、個人レベルならびに地域集団レベルの健康指標について検討することを目的とした。地域健康状態を左右する要因として医療・予防医学などの成果が主に検討されてきたが、近年社会疫学の台頭により、社会的因子、特に経済的格差による健康状態への影響が国際的に議論されている。健康日本21の概念にも謳われるように、医療の枠を越え広く社会的環境整備の観点から地域住民の健康を定量的に捉えることが、地域健康増進政策を立案推進するために重要となっている。本研究は既存厚生統計をもとに社会経済指標と健康指標に関する基礎的なデータを提出することをもってこうした動きに寄与することを意図した。単年度統計を用いた我々の先行研究では、社会経済的指標(収入格差や地域収入中央値、個人収入)と都道府県別年齢調整死亡率のエコロジカルレベルでの関係、そして自覚的健康度との多階層レベルでの関係を示唆する結果を得た。本年度研究ではまずこの分析を地域ブロックレベルの非特異的影響をも考慮した形で再分析することに加え、複数の年度の統計を用いた時系列パネル分析を用い、社会経済要因による経年的健康影響を検討することを目指した。また、これまでの内外の研究では自覚的健康状態の指標が信頼性・妥当性ともに不十分なものを用いてきたが、妥当性が確立された指標であるSF36を用いた横断的調査データについて検討を加え、先行研究結果との比較・検討を行うことを目的とした。
研究方法
1)社会経済指標と健康指標の時系列パネル分析: 国民生活基礎調査昭和61年、平成元年、平成4年、平成7年、平成10年の各大調査年につき個票の目的外申請を行った(平成14年3月11日現在総務省審査中)。所得票から得られる情報をもとに、各年次における都道府県別の社会経済指標(世帯収入中央値、世帯収入格差指数(Gini係数))を算出、次いで世帯票・健康票個票から自覚的健康状態や基本属性を抽出しデータセットを整える。また各年次について公表データをもとに都道府県別年齢調整死亡率を集団レベルの健康指標として用意する。まず年次ごとに横断的に個人・集団レベルの変数について関連を検討し、次いで時系列のパネルデータとして統合し、社会経済指標の影響を過去にさかのぼって検討する。2)SF36データを用いた社会経済指標と健康状態の横断的検討: 平成7年に実施された、日本国民の代表的サンプルを対象とした一般的QOL尺度(MOS SF36)の全国調査(分担研究者の福原が実施)から得られたデータをもとに、これと同年次に実施された国民生活基礎調査所得票から計算された社会経済指標、そして公表されている都道府県別年齢調整死亡率などのデータをあわせ、集団指標とSF36の各ドメインスコア(身体的機能、身体役割機能、情緒役割機能、社会的機能、こころの健康、活力、全般的健康感)との関連を、集団レベルならびに多階層レベル(個人ならびに都道府県)で解析を行った。指定統計の個票の取り扱いについては、規定に基づき個人情報流出を防止するために配慮し、個人をID番号のみにて識別し、個人が同定される情報を排除し、プライバシーが十分に確保されるように努めた。また別途実施された全国調査データについても、データを収集した研究グループに使用目的を伝え正式に使用許可を得た後、個人を同定できる情報を除去したデータを特定の分析者だけが一元管理し、個人レベルのデータ流出などの可能性を最小限にとどめた。
結果と考察
11)社会経済指標と健康指標の時系列パネル分析 指定統計個票の目的外使用申請手続きに終始し、現時点で具体的な分析
は進められていない。内外の研究で、過去の経済指標と現在の健康状態との関連を検討した論文 (Blakely TA, et al. Journal of Epidemiology and Community Health 54;318-319,2000など)、ならびに日本における経済的格差に関する近年の研究(大石亜希子、厚生科研政策科学推進研究事業平成12年度報告など)を参照し分析前に考察を深めることに努めた。その結果、米国における先行研究に手法論上問題があることが明らかになった一方、当初我々が予定していた時系列パネル分析にも限界があることが判明し、共分散構造分析などを用いることを今後検討することとなった。また収入データでは再分配所得調査ではなく、使用申請中の国民生活基礎調査所得票に基づく計算が最も妥当と思われた。
2)SF36データを用いた社会経済指標と健康状態の横断的検討。
地域ブロック別に検討した結果では、SF36の下位尺度のうち、活力と身体的機能の二つについて年齢調整死亡率との相関が認められた。一方地域の世帯収入中央値との関連では身体機能・活力に加え全般的健康感・社会的機能・情緒的役割機能・こころの健康についても中央値の高い地域にいるもので高いスコアが有意に認められた。一方、収入格差指数については一定の傾向を認めなかった。多階層モデルでは個人収入レベルと並存症の有無が有意に各下位尺度で影響していたが、世帯収入中央値と収入格差指数は有意な説明変数とならなかった。収入格差と個人収入のどちらが健康に影響する主因子なのかについて国際的に議論があったが、我々の発表論文を始めとする最近の研究から、個人収入もしくはその相対的レベルが主たる経路となっていることが次第に明らかになり、議論の収束が見られつつある。一方、一般的QOL尺度によって健康状態の様々な側面について同時に検討を加えた研究はこれまでになく、国際的にも初めての研究成果となった。今後国民生活基礎調査個票(複数年度)を用いた分析は、継続的に実施する。またSF36を用いた検討についても、今後年齢調整死亡率との関連もモデルの中に含めた多階層共分散構造分析を行い、社会経済指標と自覚的健康状態・地域厚生指標との関連を包括的に取り扱う予定である。
結論
社会経済指標と地域健康指標・自覚的健康指標との関連性について分析し、経済指標が及ぼす健康状態への影響を検討した。今後入手される追加データについて追加分析を加え、さらに検討を深める必要があると思われる。

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