厚生統計を用いた健康寿命等の総合指標の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100123A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生統計を用いた健康寿命等の総合指標の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平均余命は総合的健康指標として使用されているが、今日の高齢化社会においては、単なる長命だけでなく生活の質や障害度をも考慮に入れた健康に係わる新たな総合指標の開発が必要とされる。国民生活基礎調査は、約28万世帯・約78万人を対象として3年ごとに大規模調査が実施されており、この中の健康票では、自覚症状や日常生活への影響などについて詳細な調査がなされている。しかし、近年注目されている健康指標である質調整余命(Quality-Adjusted Life Expectancy, QALE)を算出するためのQOLスコアを直接得ることはできない。一方、近年開発された日本語版EQ-5DやHUI3は、死亡を0、完全な健康を1とする間隔尺度のQOLスコアを算出することができる質問票であり、本スコアを質調整余命の推計に用いることができる。そこで本研究は、国民生活基礎調査健康票の項目とEQ-5D及びHUI3の同時調査を実施し、それ等の回答の関係を解析することにより、平成10年国民生活基礎調査健康票の結果から全国規模での質調整余命を算出することを目的とした。
研究方法
1) 秋田県大森町における調査 (1999~2001年度)
1999年9月、大森町在住の満20歳以上の男女(男性3116名、女性3560名)を対象に、EQ-5D、平成10年国民生活基礎調査健康票からの抜粋項目及び禁酒・喫煙に関して調査し、5670名から回答を得た。EQ-5Dの5項目法ならびに視覚評価法(VAS)の回答と平成10年国民生活基礎調査健康票の回答の関係は、樹形モデル及び重回帰モデルにより解析を行った。
2)平成10年国民生活基礎調査健康票の個票データ使用によるQALEの推計 (2000~2001年度)
1)により得られた樹形モデル及び重回帰モデルの換算式を用いて全国及び都道府県別、性・年齢別のHRQOL推計を算出した。これと平成7年の全国及び都道府県生命表を使用し、QALEを推計した。推計は生命表の性・年齢別の定常人口にHRQOLを乗じ、その後は平均余命の算出と同様な方法によった。
3)静岡県焼津市における調査 (2000~2001年度)
焼津市の内科系17医療機関の慢性疾患通院患者2000名を対象にHUI3、EQ-5D及び平成10年国民生活基礎調査の健康票からの抜粋項目に関して調査し、1207名から回答を得た。大森町調査で得られた重回帰モデルの換算式に本調査結果を代入してHRQOL値を算出し、本調査で得られたEQ-5DによるHRQOLとの相関関係を検討した。また、HUI-HRQOL値とEQ-5D-HRQOL値との相関関係を検討した。
4)QOLスコアと基本健康診査結果との関係の検討 (2000~2001年度)
大森町の上記調査回答者と同年の同町の老人保健法基本健康診査を受診した1458名のうち、診査結果とQOLスコアとの照合について同意が得られた370名(男177名、女193名)について、QOLスコアと基本健康診査結果との関係を検討した。健康診査は同町にある医療機関への委記方式をとっている。
(倫理面への配慮)
大森町及び焼津市における調査では、個人のプライバシー保護に十分注意した。
結果と考察
1)平成10年国民生活基礎調査の個票データを元に算出した研究方法の1)及び2)による全国の0歳のQALE推計値をモデル毎に比較すると、平均余命男76.72年、女83.26年に対し、タリフ値を直接予測する樹形モデルでは男71.18年、女76.39年、5項目法の個々の項目に対する回答を予測する樹形モデルでは男73.33年、女78.44年、タリフ値を予測する重回帰モデルでは男71.84年、女75.82年と、タリフ値に基づいて推計したQALEの間には大きな差は認められなかった。一方VAS値を予測する樹形モデルでは男60.15年、女64.17年、VAS値を予測する重回帰モデルでは男61.21年、女64.06年とタリフ値に基づいて推計したQALEよりも小さな値が得られた。タリフ値の場合は、EQ-5Dの特性上若年層の軽微な障害が捉えられず、QALEが高めに算出された可能性がある。一方、VAS値を間隔尺度としてQALE算出に用いることは妥当でないとの考え方もあり、さらなる検討が必要である。また、上記モデル別に性・年齢別都道府県別QALEを算出した。都道府県別QALEは、いづれのモデルを用いても順位は大きく変わらなかった。
2)焼津市の調査の健康票の質問項目を説明変数、HUI-HRQOL値を目的変数としたStepwise法による線形重回帰分析結果では、15変数が採択された。大森町の調査から得られた予測式から求めたEQ-5D-HRQOL値と本調査集団での回答から求めた実測EQ-5D-HRQOL値とはピアソンの相関係数で0.549で有意な中等度の相関を示した。大森町と焼津市の調査の相関係数が比較的高いことは健康票からのEQ-5D-HRQOL値の予測式は妥当性があることを示している。HUI-HRQOL値とEQ-5D-HRQOL値とはピアソンの相関係数において0.553で有意な中等度の相関を示した。このことはQOLの調査方法の相違によるHRQOL値が比較的よく一致しており、HUIからも同様にQALEの推計が可能であることを示していると考える。
3)研究方法の4)の対象者の平均年齢は、男性60.7±11.2歳、女性60.4±10.3歳であった。タリフスコア、VASスコア共に、男性が女性に比し有意に高スコアであった。健康診査結果の「総括区分」「問診」「診察」「血圧」「貧血」「肝機能」「脂質」「肥満」「尿所見」「喫煙」「飲酒」のうち、「異常なし」群と「所見あり」群について、タリフスコアでは「飲酒」で有意差を認めたが、VASスコアはいずれの項目についても差はなかった。検査値とタリフスコアとの有意な相関を認めたのは、TG、RBC、Ht、Hb、WBCであった。一方、VASスコアではHDLと有意な相関を認めた。主観的健康観と検査などの客観的指標がかならずしも一致しなかったことは、自らの健康状態を良好としながらも、健診等で健康状態をチェックする健診の意義を認める傍証とも考えられた。
結論
平均余命のみではなく、生活の質や障害度を考慮することにより、全国及び都道府県別の住民の健康状況の評価に新たな視点を加えることができた。本研究結果は、今後の健康政策立案において重要なデータとなりうると考えられる。

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