諸外国における看護師の業務と役割に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100111A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における看護師の業務と役割に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山本 あい子(兵庫県立看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 南 裕子(兵庫県立看護大学)
  • 片田 範子(兵庫県立看護大学)
  • 輪湖 史子(日本看護協会)
  • 花出 正美(日本看護協会)
  • 勝原裕美子(兵庫県立看護大学)
  • 増野 園惠(兵庫県立看護大学)
  • 近藤 麻理(兵庫県立看護大学)
  • 津田万寿美(兵庫県立看護大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
諸外国における看護師の業務内容とその範囲および新たな看護師のあり方等について調査し、わが国の時代に流れにふさわしい新たな看護師の業務のあり方を検討することを目的とする。
研究方法
1)諸外国の看護師の業務およびその範囲、新たな看護師のあり方等について文献的検討を実施した。2)諸外国のリーダー等を対象に、看護師の業務およびその範囲、新たな看護師のあり方についてインタビューあるいはアンケート調査を実施した。①ドイツ・フランス・オーストラリアの3カ国においては、研究者が訪問調査し、看護リーダー等にインタビューを実施した。②その他7カ国については、対象国の看護リーダー等に対してアンケート調査を依頼あるいは在日中であった対象国の看護リーダー等にインタビューを実施した。
結果と考察
1)看護の裁量権について:どこの国においても、看護師独自の判断でできる活動、医師の指示に基づき実施する活動、医師がその場にいることで実施できる活動、そして看護職独自ではできない活動が存在している。これらの具体的な業務内容をみると、各国において類似性と相違性が認められるが、登録看護師とスペシャリストとの業務を比べると、スペシャリストの業務内容は拡大していっている。それ故、看護全体としてその業務をみた場合には、看護師が独自で行うことができる、あるいはプロトコールに基づいて実施することができる、さらには医師の立ち会いの下に実施できる看護業務内容を含めると、かなり広範囲な行為が実施できることになる。例えばフランスでは、看護師独自の判断で実施できる活動には、清潔に関するケア、褥創のケア、尿糖や血糖のチェックなどが含まれている。医師のプロトコールにより単独で実施できる活動としては、注射や点滴、カテーテル・ゾンデ・カニューレの挿入や交換などがある。医師がそばにいる状況下で実施できる活動には、除細動器の使用や輸血、中心静脈への鎮痛剤の注入などが含まれている。一方、看護師ができない業務には、入退院や治療内容の決定、他診療医師への相談や患者紹介、死亡の判断や宣言と診断書の記入などである。アメリカの例えばカリフォルニア州の場合は、入退院、ならびに訪問看護の開始と終結の決定、死亡の判断・宣告・診断書の記入、コンサルテーション、静脈注射などは、専門看護師(修士課程で教育が行われる)が独自にできる行為となっている。またイギリスには、看護処方家という認定看護師(修士課程での教育を課されていない)が存在している。看護処方家は、Nurse Prescriber Formularというリストに掲載されている薬剤に関しては、独自に処方を行うことができるようになっている。このリストには、例えば皮膚保護のための各種軟膏、解熱鎮痛剤、抗真菌剤、緩下剤、浣腸液、鎮痛剤、点鼻・点眼剤、禁煙補助剤などが含まれている。2002年4月からは、「軽い疾患」「軽い創傷」「健康増進」「緩和ケア」の4領域をカバーする広範囲の薬剤処方へと拡大している。看護処方家が行う処方に関しては、Medical Productsという法律の中で規定されている。
予算管理に関しては、タイ、シンガポール、中国を含む他の国々では、一般看護師もスペシャリストも行うことができる業務となっている。ただ例外はドイツであり、医療施設における予算管理は基本的には、事務部門が行っている。しかし最近では、独自で看護部門の予算を管理し始めた看護部長も出始めている。2)看護ケア提供の場について:諸外国では、医療ケアが提供される場は、医療施設内から、患者や人々の生活の場へと広がっている。このケア提供の場の変化は、医療施設内で常時医師がいた状況から、むしろ常時医師がいるとは限らない状態で医療ケアが提供される場の増加を意味する。例えばフランスの開業看護師は、病院での実践経験3年を経た後、地方公衆衛生局に登録をして、開業をしている看護師である。開業看護師は、医師の診断・処方に沿って、患者に対して与薬や処置を行う。活動場所は、自宅、あるいは一つのビルの中に医師や理学療法士などと、共同してオフィスをもつ人もいる。開業看護師の収入は看護報酬が主なものであり、静脈注射や筋肉注射などの医療技術料と、身体の保清や褥創予防のケアなどの生活援助料の2種類に分類されている。イギリスには、看護師が運営しケア提供を行う場としてWalk-in Centreがある。これは、簡単なクリニック機能をもつ施設であり、人々が利用しやすいようにまちの中に設けられている。ここでは、看護師は簡単な処置や制限内の薬の処方、必要時には他の医療機関や専門医への紹介も行っている。タイでも、医師不在の地域の保健センターで働く看護職は、他科への診療や他の病院への患者紹介に関する裁量権を有している。3)看護の資格認定について:いずれの国においても、看護のジェネラリスト(看護師)とスペシャリスト(専門看護師/認定看護師)が存在している。国家資格あるいは認定制度を設けて、それぞれの業務や裁量権に違いをもたせている。例えば、フランスのスペシャリストには、小児看護師、麻酔看護師、手術室看護師があり、それぞれ12ヶ月から18ヶ月の専門コースを受講後、国家試験に合格すると国家免許が付与されている。専門コースを受講できる要件には、一定の臨床経験を課しているコースとそうでないコースがある。タイの場合は、地域看護、周産期看護、精神看護、小児看護、外科看護の5分野において専門看護師が存在し、教育は2年間の修士課程で行われ、タイ看護評議会が認定する仕組みである。中国においても、各省において行われる講習を受講後、それぞれの試験に合格したものが、主管護士、副主任護士、主任護士など管理者や教育者としての役割に就いている。イギリスには、専門看護師として保健師と看護コンサルタント、また認定看護師として看護処方家や地区看護師などがいる。アメリカにおいても、専門看護師やナースプラクティッショナー、助産師などのスペシャリストがいる。4)教育、免許、質の保証に関するシステムづくり:いずれの国においても、看護教育や免許、あるいは認定を行う組織が存在している。この組織は、公的な組織、或いは私的な組織からなる。また看護師の教育あるいは業務を規定する法的根拠も有している。イギリスでは、The Nursing and Midwifery Councile(NMC)が、基礎・継続教育と基礎・スペシャリストの資格認定と登録を一括して行っている。根拠法は、The Nurses, Midwives, and Health Visitors Actがある。ドイツの場合は、連邦政府健康保健省やドイツ病院協会が、教育課程を含む資格や認定を行っている。根拠法には、看護法と各州の法律が関与している。アメリカの場合は、連邦看護審議会と各州看護審議会、さらにアメリカ看護師認定センターなどが、看護教育や免許、認定、登録などを行っている。根拠法は、各州の看護実践法や各州で規定している法律である。オーストラリアでも同様な動きがみられている。タイには、全ての看護職が入会しているタイ看護審議会があり、ここが教育や資格の認定、登録などを行っている。タイ審議会は、看護職の加入が義務づけられた組織であり(職能団体の看護協会は別にあり、こちらは任意加入である)、その会費により運営されている。5)新たなケアや体制を導入する方法について:オーストラリアでは、実践の場で新たな健康ニードが生じた時には、看護職が新しい看護ケアやシステムに関する企画書を各州看護審議会に提出し、審議会がその必要性を認めると、予算化され企画が実行へと移されていく。そして企画を実行し、必要な法制度を明確にして制定へとつなげていくという仕組みがみられている。イギリスにおいても、前述したWalk-in Centreは、イギリス国内の36箇所でパイロット事業として試行されているものである。また、看護師による24時間の電話相談サービス事業も、英国内3箇所の電話センターでパイロット事業として施行後、現在は英国各地に開設され、1日平均50,000件の電話相談が行われている。このように、新しい看護ケアや体制の導入にあたっては、パイロット事業を実施し、その結果により必要な体制や制度を整えていくことは、現実に即した変化の起こし方であろう。
結論
10カ国の看護職の業務ならびに看護教育に関する面接・質問紙調査結果から、看護の裁量権の範囲、看護ケア提供の場、教育と資格認定、質保証の体制、新しい医療ケア導入方法などに関する示唆が得られた。

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