歯科医師の麻酔科研修のガイドライン策定に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100110A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師の麻酔科研修のガイドライン策定に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
金子 譲(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 平川方久(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 海野雅浩(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 住友雅人(日本歯科大学歯学部)
  • 花岡一雄(東京大学大学院)
  • 澄川耕二(長崎大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯科・口腔外科疾患以外の症例に対する歯科医師の麻酔行為は、医師法に抵触し認められないものであるが、歯科医療の技術向上と国民への寄与を考えたときに、その必要性から研修という限定条件の下で行われてきている。歯科医師の医科における麻酔科研修は、これまでに明確な法的根拠が無く、また研修内容についてのガイドラインが存在しないことから、研修方法や内容は現場の判断に任されてきたのが実態である。そこで、今後の歯科医療の質的向上及び安全性の確保を推進し、現在、施設毎に異なって行われている様々な形態、様々な内容の歯科医師の麻酔科研修を統一的なものとするために、関係者のコンセンサスを得、一定条件の下で歯科医師の医科における麻酔科研修を適正に行うためのガイドラインを、法的な整合性、今日までの経緯と現状を踏まえ、社会的な受容を視野に入れつつ医科領域と歯科領域との専門家による共同作業により作成することを目的として本研究を行った。
研究方法
まず、歯科医師の麻酔科研修に関する実態を調査する前に、全国歯科大学・歯学部の歯科麻酔学講座・歯科麻酔科の教育・研究・臨床の現状について調査した。現在の歯科医学教育の中で歯科医療に必要な全身の機能に関する教育がどのような内容と程度で行われているかを調査し、医科での麻酔科研修に相応しい基礎能力を備えているか検証した。また、口腔領域の痛みの管理、麻酔の管理、安全のための全身管理に関する卒前教育は歯科麻学の内容となっている。これは歯科麻酔学講座(歯科麻酔科)の担当教科となっているので、上記の内容を専門とする歯科麻酔学講座・歯科麻酔科の研究と臨床の活動実態を調査した。ついで、歯科医師の麻酔科研修の実態をアンケート調査した。研修医を送り出す歯科側に対しては、全国29歯科大学・歯学部の歯科麻酔学講座・歯科麻酔科を対象とし、麻酔科研修の実態と当該研修で期待する成果、およびその修得程度を調査した。研修医を受け入れる医科側に対しては、全国80医科大学・医学部の麻酔科学講座と36の日本麻酔科学会麻酔指導病院を対象とし、麻酔科研修で修得してほしい成果、研修内容、研修生の臨床以外の内容、および期待される研修医像(どのレベルの歯科医師が研修に来るべきか)などについて調査した。これらの結果をもとに、歯科医師の麻酔科研修のガイドラインを作成した。医療に関与する歯科医師が麻酔科研修で医師法に抵触しないための事項の明確化を踏まえつつ、研修内容、研修方法を見直すことを目的とし、現在、関係者間で概念的に認識されている点をガイドラインという形で具現化した。その際、研修を受ける歯科医師の全身麻酔経験は様々なレベルであるので、その能力を踏まえるとともに、医療の安全性が確保された研修が行われるよう留意した。
結果と考察
歯科麻酔科の教育・研究・臨床の現状に関する調査結果として以下の項目が明らかとなった。歯科医療に必要な全身の機能に関する教育の内容と程度に関しては、全国平均で、歯科麻酔学の講義が全講義の3.0%、実習が全実習の2.1%であった。この他に、歯科基礎医学としての解剖学、生理学、薬理学などの講義と実習、および関連臨床医学としての内科学、外科学、小児科学、産婦人科学などの講義と実習を合わせると、全教科のうちの10%近くの時間が歯科麻酔学と関連学科に割り当てられていた。その結果、研修を行う歯科医師が医科での麻酔科研修に相応しい基礎能力を備えているかに関しては、麻酔科研修が卒業後どの程度経過した時期に開始さ
れるかにもよるが、大半の歯科医師は医科での研修を行うに必要と考えられる最低限の知識と技能を有しているものと考えられた。麻酔科研修を終了した歯科医師がその後の教育・臨床・研究活動の中で研修で修得した知識や技術をどのように生かしてゆくのかについては、歯科口腔外科の手術のための全身麻酔ばかりでなく、歯科外来の高齢者や有病者患者に対する歯科治療時の全身状態評価と全身管理、全身的偶発症や緊急時の迅速な診断と対応などの面で、研修で得た知識と技能が直接的に臨床に還元され、これをもとに歯学部学生や臨床研修医に対する教育が行われ、また研究の基礎となっている様子がうかがわれた。このようなことのすべてが、歯科医療の安全性と質を向上させるために役立っていると考えられた。歯科医師の麻酔科研修の実態調査に関するアンケート調査は、歯科側として、全国歯科大学・歯学部の歯科麻酔学講座・歯科麻酔科(対象:29施設、回収:29施設、回収率:100%)、医科側として、全国医科大学・医学部の麻酔科学講座(対象:80施設)および日本麻酔科学会麻酔指導病院(対象:36施設)(対象合計:116施設、回収:麻酔科学講座 68施設・麻酔指導病院 25施設・不明 1施設・総計 94施設、回収率:麻酔科学講座 85.0%・麻酔指導病院 69.4%・総計 81.0%)に対して行われた。歯科医師の麻酔科研修は、現在、29大学中21施設で行われており、残る8施設のうち5施設は現在中断中とのことで、過去には研修の実績があった。麻酔科研修に期待する成果は、歯科口腔外科の手術のための全身麻酔に必要な知識と技能の他、歯科外来の高齢者や有病者患者に対する歯科治療時の全身状態評価と全身管理、全身的偶発症や緊急時の迅速な診断と対応などに関連した知識と技能などであり、実際にこれらの項目が研修で修得されたと回答されていた。これらの知識や技能は、歯科医師の所属する大学病院における教育・研究・臨床に還元されるばかりでなく、日本歯科麻酔学会認定医となって各地域の開業歯科医師となった後も、在宅要介護高齢者や障害児の歯科治療に広く応用されており、歯科医師の麻酔科研修で得られた成果は、広く歯科医療の安全性と質の向上に貢献しているものと考えられた。これらの研究結果をもととし、同時に歯科医師が麻酔科研修で医師法に抵触しないための事項の明確化を踏まえつつ、研修内容・研修方法を見直しながら、現在、関係者間で概念的に認識されている点をガイドラインという形で具現化した。作成したガイドラインは、歯科医師の医科麻酔科研修のガイドライン本文と別紙1・2、および研修水準からなっている。ガイドラインの本文は、本ガイドライン策定の趣旨と研修実施にあたっての基準からなり、歯科医師が医科麻酔科で研修を行うにあたっての基本的なあり方を別紙1・2での資料とともに規定した。研修水準は、歯科医師が医科麻酔科で研修する様々な知識および技能に別紙1で定めた研修水準を具体的に当てはめ、医科の麻酔科研修において歯科医師が許容される医療行為の範囲を定めた。なお、本ガイドラインは分担研究者により作成されたガイドライン案を共同研究者が討議し、合意を得たものであるが、今回作成するガイドラインは恒久的なものではなく、今後、歯科医療技術の進歩等に合わせ、必要に応じ見直すべきものと考えている。
結論
今回策定した研修ガイドラインが医師、歯科医師、そして広く国民のコンセンサスを得て、歯科医師が医科の麻酔科研修を行う上でのスタンダードとして定着することにより、医科の麻酔指導病院における歯科医師の麻酔科研修が、適切な状況下におけるより高いレベルの知識と技能の修得を目的として系統的に行われることが期待される。そしてその結果、幅広い麻酔科学の研修によって、歯科麻酔科学の質的向上のみならず歯科医療全体の質と安全性の向上につながるものと確信する。

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