救急救命士による適切な気道確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100109A
報告書区分
総括
研究課題名
救急救命士による適切な気道確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
平澤 博之(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
救急救命士による器具を用いた気道確保については、現在法令に基づき「ラリンゲルマスク」と「食道閉鎖式エアウエイ」の使用が認められている。一方、救急現場の救急救命士等からは気管挿管の実施を求める声もあり、一部の自治体においては救急救命士による組織的な気管挿管の実施が行われていたとの報道がなされている。救急救命士に認められている器具を用いた気道確保法は気管挿管と比較して必ずしも劣るものではなく、また、気管挿管による副作用や合併症等が発生した場合の対応が限定的な医行為しか認められていない救急救命士では対応が不可能となる危険性もある。しかしながら、一部の症例では法令に認められた方法では気道の確保が困難な事例も存在することから、これらに対する処置の方法を検討することも必要であると考えられる。            
本研究では、病院前救護体制における気道確保としての気管挿管の有用性を他の気道確保法と比較することによって、救急救命士による器具を用いた気道確保が適切に行われる為の方策を検討することを目的とした。
研究方法
過去20年間の海外文献を調査し、パラメディクスによる気管挿管と他の気道確保法との有用性や、各種病態における気道確保法の選択について検討した。また、インターネット検索や文献調査を実施することによって、海外におけるパラメディクスによる気管挿管を実施する為の就業前教育・研修体制についても調査した。さらに、救急救命士による気管挿管が実施された国内の一部地域における関係者からの聞き取り調査を実施することによって、救急救命士による気管挿管の有効性を医学的に検証した。
結果と考察
海外文献を調査した結果、救急救命士に許可されている現行の気道確保法(ラリンゲルマスク、食道閉鎖式エアウエイ)と比較し、パラメディクスによる気管挿管が院外心肺停止事例全体の救命率向上に寄与したとの医学的根拠は存在しなかった。むしろ、パラメディクスによる気管挿管が院外心肺停止事例全体の救命率が悪化するとの報告も存在し、米国心臓協会 (AHA) では救急現場で行われる気管挿管の危険性を指摘している事も判明した。また、救急救命士による気管挿管を実施した国内の一部地域の聞き取り調査においても、気管挿管が救命率の向上に寄与したとの根拠はないことが判明した。しかしながら、救急傷病者の病態によっては気管挿管の方がより有効なことも考えられ、「気管挿管」を含めた救急救命士による適切な気道確保については、今後更に検討する必要があると考えられた。
一方、既にパラメディクスによる気管挿管を導入している米国の幾つかの地域においては、単に気管挿管手技のみならず様々な病院前救護処置に関して、パラメディクスの就業前教育・研修体制および、就業後の事後検証が充実していることも今回の調査で判明した。わが国においても、救急救命士による適切な気道確保についてのみ検討するだけでなく、電気的除細動をより早期に行うことができる事等も検討したメディカルコントロール(MC)体制を構築し、救急救命士の教育・研修体制を充実させると共に事後検証を確実に行えるよう措置する必要があるとも考えられた。
結論
救急救命士による現行の器具を用いた気道確保法は気管挿管法に比較し劣るものではなかった。しかしながら、病態によっては気管挿管の方がより有効なことも考えられ、これらの傷病者への対応については、今後更に検討を加える必要がある。また、院外心肺停止事例の救命率の向上には適切な気道確保法の選択のほかに電気的除細動をより早期的に行うことも重要で、これらが有効かつ安全に実施される為には、メディカルコントロール(MC)体制を構築し、教育・研修体制を充実させると共に事後検証を確実に行う必要があるとの結論に至った。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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