ドクター・ヘリの無線運用に関する研究

文献情報

文献番号
200100108A
報告書区分
総括
研究課題名
ドクター・ヘリの無線運用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
猪口 貞樹(東海大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
救急医療用装備をしたヘリコプターに救急専門医等の医療スタッフを載せた“ドクター・ヘリ"は、医療スタッフを迅速に救急現場へ派遣し、直ちに現場で治療を開始できると共に、患者を高度医療機関へ迅速に搬送することが可能な、優れた広域救急搬送システムである。ドクター・ヘリを救急医療等に有効に利用するに当たっては、救急現場とヘリとの間、あるいは受け入れ医療機関とヘリとの間に無線運用システムを構築する必要がある。
本研究の目的は、ドクター・ヘリにおける最適な無線運用システムを、関係者からの意見も参考として構築を図ろうとするものである。
研究方法
1. 医療業務用無線
a. ドクター・ヘリにおける医療業務用無線の運用上の問題点を整理し、無線管理・運用規定案を作成した。机上運用シミュレーションによって改善を加えた。
2. 消防無線
a. 東海大ドクター・ヘリ試行的事業に参加した消防本部に対して、消防無線の運用状況に関するアンケート調査を行った。
b. 消防・防災ヘリの無線運用状況についてヒアリング調査を行った。
c. ドクター・ヘリにおける消防無線運用上の問題点を整理し、消防無線の管理・運用規定案を作成した。机上運用シミュレーションによって改善を加えた。
結果と考察
研究結果=
1. 医療業務用無線
a. ドクター・ヘリにおける医療業務用無線運用上の問題点として以下があげられた。
1) 免許の主体をどうするのが適当か。
2) 各無線局の設置・維持管理をどのようにするのが適当か。
b. 医療業務用無線は、都道府県が免許主体となり、救急医療機関・ヘリに無線設備を貸与して運用を委託する方法が最も適当と考えられた。救急医療機関が免許主体となる方法も可能であるが、システム構築上様々な問題が指摘された。
c. 医療業務用無線の管理・運用規定案を示す。
2. 消防無線
a. 消防本部に対する消防無線の運用状況、管理規定に関するアンケート調査結果は下記のとおり。
1) 回答のあった消防本部の救急車のうち、全国共通波が使用可能なもの73%、都道府県共通波が使用できるもの84%、市町村波が使用できるもの4%、救急波(複信式)が使用できるもの83%であった。管轄下の救急車26台のすべてにおいて救急波しか使用できない消防本部も見られた。
2) 消防無線周波数帯としてはすべて150MHz帯(救急波(複信式)のみ140MHz)を使用していた。
3) 各消防本部の要望としては、都道府県内共通波を用いてほしいというものが多かった。また、無線統制や、プライバシー保護の重要性に関する意見があった。
4) 各市町村の消防無線管理規定上、通信相手は消防機関所属の陸上移動局などに限定されている場合が多かった。また、運用の細部・用語などに地域差が見られた。
b. 消防・防災ヘリの消防無線運用状況について調査を行ったところ、全国共通波、都道府県内共通波のいずれかを使用していた。
c. ドクター・ヘリ搭載消防無線運用上の問題点として以下があげられた。
1) ヘリ搭載消防無線の免許主体、設備の設置・維持管理をどうするのが適当か。
2) すべての救急車と交信可能な単一周波数はない。
d. 都道府県がヘリ搭載消防無線の免許主体となり、無線設備を貸与して運用を委託する方法が最も適当と考えられた。また、当面は都道府県内共通波の使用を基本とするのが妥当と思われた。
e. ドクター・ヘリにおける消防無線の管理・運用規定案を示す。
3. 運用システム全体の問題
a. 個人情報の保護
ドクター・ヘリ無線運用システムに使用される医療業務用無線、消防無線は共にアナログであるため、無線傍受が比較的容易である。従って、個人情報の保護に運用上充分な配慮が必要と考えている。
b. ヘリ搭載無線設備
ヘリの機体は整備・修理などに時間を要するものであるため、ドクター・ヘリとしての円滑な運用には複数の機体が必要である。また、ドクター・ヘリの機体・運航は外部委託が原則である。従って、ヘリ搭載無線設備には仕様の統一、法的特例措置などによって互換性を持たせ、柔軟性な運用を可能とすることが望ましい。
考案=
ドクター・ヘリと救命救急センター等医療機関間の通信には医療業務用無線を用い、ドクター・ヘリと救急車・消防機関間の通信には消防無線を用いるシステムにより、ドクター・ヘリと関連機関の情報伝達は概ね可能になるものと考えられる。
電波法関係審査基準(平成13年1月6日総務省訓令第67号)によれば、医療業務用無線局の免許主体は救急医療機関の開設者・管理者もしくは地方公共団体と定められている(資料3)。ドクター・ヘリは広域救急搬送システムであり医療業務用無線は複数の医療機関およびヘリに無線局を設置して初めて機能する。従って、都道府県が免許の主体となって衛生担当部局などに無線局の総括責任者、保守管理責任者を置き、各救命救急センターおよびヘリ運航会社に無線機器を貸与して、それぞれに運用責任者、無線従事者を置く形式が最も望ましいと考えられた。ドクター・ヘリ設置救急医療機関の開設者等を医療業務用無線の免許主体とする方法も可能であるが、この場合には速やかに各救急医療機関等に無線局を開設させてシステムを完成させるために、財源措置や補助事業における無線局の開設義務化などを考慮する必要があろう。また、各救急医療機関における無線従事者の有無、医療業務用無線の保守管理などの諸問題があり、考慮を要する。
ヘリ搭載消防無線局については、その公共的性格から、都道府県が免許人となり都道府県防災消防部署などに無線局の総括責任者および保守管理責任者を置いて、機器を貸与する形式が最も望ましい。また消防無線の使用周波数については、アンケート結果から現状では救急車への搭載率が高く、現場からの要望が多い都道府県内共通波を基本として、全国共通波を併用するのが適当と思われる。一方、救急波(複信式)のみしか使用できない救急車も10%程度存在することが判明しており、この方法では、現在これらの救急車とドクター・ヘリとは司令室・消防車などを介した間接的通信に頼らざるをえない。救急波の使用できる無線機もヘリに搭載すれば、すべての救急車と交信可能となるが、一方で、ヘリ離発着に際して消防車が業務支援を行う際に救急波の使用は邪魔になるという意見もあった。これらは消防無線運用の地域差によるものであり、今後全国調査を行ってさらに運用法を検討する必要があるものと考えている。
救急隊が救急業務を行う際には、電波法施行規則37条19の3により、ドクター・ヘリの携帯局と陸上移動業務の無線局との通信は可能と考えられる。一方、現行の各消防本部における無線運用管理規定ではドクター・ヘリとの通信は想定されていないため、若干の改定が必要となる可能性がある。
アンケートに添付された各消防無線管理規定における運用の細部には、かなりの地域差が見られた。従って、実際のドクター・ヘリ搭載消防無線運用にあたっては、当該地域内における各消防本部との綿密な事前打ち合わせを行い、同時に当該消防本部基地局の無線統制に従って、無用な混乱を回避することが運用上極めて重要と思われた。
ドクター・ヘリの無線通信では、患者病状等個人情報を含む内容を通信する可能性が高い。現状の通信方式では無線傍受の可能性があるため、これら個人情報の保護には、関係する無線従事者のモラルはもちろんのこと、運用上の充分な配慮が必要である。また将来においては、通信方式をより秘匿性の高いデジタル通信方式などに変更していくことが望ましいと考えられた。
結論
医療業務用無線と消防無線都道府県内共通波を基本としたドクター・ヘリ無線運用システム案および無線管理・運用規定案を作成した。若干の問題点を残すものの、本システムの速やかな導入により、ドクター・ヘリの運用と救急医療活動は格段に円滑化するものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-