既存天然添加物等の変異原性を中心とした安全性研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100098A
報告書区分
総括
研究課題名
既存天然添加物等の変異原性を中心とした安全性研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
林 真(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 中嶋 圓((財)食品農医薬品安全性評価センター)
  • 野口 忠(日本バイオアッセイ研究センター)
  • 安心院 祥三((財)化学物質評価研究機構)
  • 松元 郷六((財)残留農薬研究所)
  • 岸 美智子(神奈川県衛生研究所)
  • 宮川 誠((株)三菱化学安全科学研究所)
  • 田中 憲穂((財)食品薬品安全センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成7年の食品衛生法改正時に、既に流通されていたことから、その後も流通が認められている既存の天然添加物489品目についての安全性の確認は重要な課題であり、昨年度、日本生協連合会が国会に提出した請願事項6項目の中でも添加物の取扱の見直しが指摘されている。本研究の第一の目的は、現在流通が確認されているにもかかわらず、安全性に関する知見がほとんど得られていない天然添加物の安全性について、変異原性に関する情報を得ることにより、網羅的な安全性評価を行うことである。 食品添加物に対する安全性に関しては、食事を通じての長期暴露に伴う発がん性が最大の懸念であり、DNA損傷性、遺伝子突然変異誘発性、染色体異常誘発性などに関するデータから、被験物質の発がん性リスクを類推することが可能となる。情報が無いことから、消費者が漠然と抱く不安に対して、これら基本的データに基づき、網羅的に天然添加物の安全性を確認・類推することにより、一定の安心感を与えることの意義は大きい。一方、食用赤色2号(着色料)を含むタール系色素については、かつて米国において発がん性を疑う騒動があったことがある。また、最近ではDNA損傷性を示唆する文献が発表され、その安全性に関して不安がもたれている状況にある。そこで、本研究の第二の目的として、タール色素のDNA傷害性の有無、またその後の修復の可能性を含めた作用メカニズムの解明・考察を行うことにより、これらの発がん性および次世代への遺伝的影響に対する不安を解消することにある。
研究方法
既存食品添加物16品目について変異原性試験を各分担研究者で分担して行う。試験は、食品添加物ガイドラインで示された基本的な変異原性試験、すなわち、「細菌を用いる復帰突然変異試験」、「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」、「げっ歯類を用いる小核試験」を実施する。ただし、生体内での遺伝毒性をみる試験系の一つである「げっ歯類を用いる小核試験」は、全16品目について実施する。今回試験を実施したものは以下のとおり(かっこ内は実施した試験項目、「細菌を用いる復帰突然変異試験」:A、「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」:C、「げっ歯類を用いる小核試験」:M)。
増粘安定剤: アウレオバシジウム培養液(M)、アマシードガム(M)、キダチアロエ抽出物(M)、アグロバクテリウムサクシノグリカン(A, C, M)
ガムベース:コーパル樹脂(M)、サンダラック樹脂(A, M)、ホホバロウ(A, M)、マスチック(A, C, M)、モンタンロウ(A, C, M)
酸化防止剤:エラグ酸(M)、コメヌカ油抽出物(A, C, M)、コメヌカ酵素分解物(A, C, M)
着色料:アルカネット色素(M)、ログウッド色素(M)
苦味料等:ヒメマツタケ抽出物(A, M)
製造用剤:メバロン酸(A, M)
食用赤色2号等タール系食用色素に関する変異原性試験については、最近発表された単細胞ゲル電気泳動法(コメット法)での陽性結果を再検討するため、ほゞ同一条件の試験計画書を作り、再現性の確認等を行う。また、同時にラットを用いたコメット法を実施し、ラットでのDNA傷害性を検討する。本試験に関しては、実際の試験を本試験に精通している研究者と協同で実施する。また、コメット法で検出されるDNA上の傷が、実際に遺伝子突然変異として固定されるか否かをトランスジェニックマウスを用いる試験(TG試験)で検証する。TG試験は国立医薬品食品衛生研究所・変異遺伝部で実施する。試験法は、現時点において最もバリデーションが進んでいると考えられるlacZをマウスに導入した系(MutaTMMouse)を用いた。また、塩基配列の決定がより容易に行える系として開発されたcIIも同時に標的遺伝子として用い、プロトコールも国際的に最も受け入れられるものをできる限り用いて実施した。さらに染色体異常誘発性を検討するため、遺伝子突然変異試験と同一個体を用いて末梢血小核試験を同時に実施した。
結果と考察
本研究においてはそれらの内今回入手可能であった16品目に関して遺伝毒性試験を実施し、その安全性の評価を行った。16品目のうちコメヌカ油抽出物(酸化防止剤)、ヒメマツタケ抽出物(苦味料)ホホバロウ(ガムベース)等9品目に関して細菌を用いる復帰突然変異試験を、ガイドラインで定める標準的な方法により検討した。その結果、ラット肝S9mixを用いた代謝活性化系の有無に係わらず全て陰性の結果であった。また、コメヌカ油抽出物(酸化防止剤)、モンタンロウ(ガムベース)等5品目に関しては、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験をチャイニーズハムスター肺由来細胞株CHL/IUを用いて実施し、全て陰性の結果を得た。アウレオバシジウム培養液(増粘安定剤)、エラグ酸(酸化防止剤)、ログウッド色素(着色料)等全16品目については、in vivo試験系であるマウスを用いる小核試験を行い、これらの天然添加物が生体内で染色体異常誘発性を示す可能性について検討した。その結果、充分高用量まで試験されたが、全て陰性の結果となった。
タール色素の安全性検討については、米国において発がん性が疑われた当時70年代後半から80年代前半にかけては盛んに検討が行われたものの、その後の検討は十分行われてきていない。本研究では食用赤色2号等のタール系色素に関して、DNA損傷性が認められたとする報告がなされたことをうけ、単細胞ゲル電気泳動法(コメット試験)での陽性結果を確認する目的で、ほゞ同一条件で試験を行った。その結果、コメット試験で陽性の傾向は示したものの弱い反応しか得られず、また実験条件による反応の違いに関しても報告されているものと異なったものであった。また、コメット試験での陽性結果が、生体内のDNAに損傷を与え、さらにそれが固定されて遺伝子突然変異を誘発するものか否かを明確にするためにトランスジェニックマウスを用いる試験を実施した。その結果突然変異が誘発することを確認できなかった。このことは、食用赤色2号によるDNA傷害がほゞ完全に修復されるか、実際にはDNAに傷害を与えていないがある種の人工産物により陽性の結果を与えてしまったのではないか、等の可能性が考えられるが、これらの点が今後に残された課題であろう。
結論
既存食品添加物16品目、5品目(アグロバクテリウムサクシノグリカン、マスチック、モンタンロウ、コメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物)については細菌を用いる復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、げっ歯類を用いる小核試験の試験が全て実施され、充分高用量まで評価された結果、全て陰性であった。また残りの、11品目(アウレオバシジウム培養液、アマシードガム、キダチアロエ抽出物、コーパル樹脂、エラグ酸、アルカネット色素、ログウッド色素、サンダラック樹脂、ホホバロウ、ヒメマツタケ抽出物、メバロン酸)については小核試験のみが実施され、全て陰性の結果が得られた。一部、細菌を用いる復帰突然変異試験やほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験につてのデータが得られていないものもあるが、小核試験は全て陰性の結果であり、今後確認のためin vitroの試験を実施する必要はあるが、現時点で今回評価した全ての品目について生体内で問題となるような遺伝毒性は無いものと考える。
食用赤色2号に関しては、報告のあったin vivoでのコメット試験の陽性結果を再現することが出来なかった。さらに、トランスジェニックマウスを用いた生体内遺伝子突然変異試験において陰性の結果を示した。これまでの知見を総合的に判断すれば、食用赤色2号は生体にとって特段問題となるような遺伝毒性を示すものではないとの結論に達した。

公開日・更新日

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