痘そうワクチンの安全性等に関する研究

文献情報

文献番号
200100097A
報告書区分
総括
研究課題名
痘そうワクチンの安全性等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 森川茂(国立感染症研究所)
  • 西條政幸(国立感染症研究所)
  • 前田秋彦(国立感染症研究所)
  • 高橋元秀(国立感染症研究所)
  • 山本三郎(国立感染症研究所)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
  • 布施晃(国立感染症研究所)
  • 堀内善信(国立感染症研究所)
  • 田村和満(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バイオテロの中で、最優先の対策が必要と考えられるもののひとつに痘そう(天然痘)がある。天然痘は1980 年5月WHOで根絶宣言が出され、定期的な種痘は25年以上行われていない。1980年に作成された痘そうワクチン(以下「旧ワクチン」という)を国家備蓄されている。旧ワクチン12ロットについては、これまでワクチンの有効性を確認するため、厚生省からの依頼試験として「備蓄乾燥痘瘡ワクチンの有効性確認のための試験」として力価試験、安定性試験が行われてきたが、力価以外の検定項目に相当する試験は行われていない。また、平成10年、11年の厚生省科学研究費で作成した痘そうワクチン(以下「新ワクチン」という)が国立感染症研究所に少量保存されており、これら新旧ワクチンを緊急時に使用することを想定し、その安全性等を確認しておく必要がある。本研究の目的は、製造後20年以上経過した旧ワクチンと試作的に作られた新ワクチンの安全性等を確認することである。
研究方法
旧ワクチン12ロット分及び新ワクチン1ロット分について、各々以下の試験を実施する。各々の結果の評価並びに新旧ワクチンの試験結果の比較を実施する。
旧ワクチン 12ロット:1)力価試験、2)安定性試験、3)総菌数試験、4)総菌数試験で検出された菌の同定、5)病原性クロストリジウム否定試験、6)コリネバクテリウム否定試験、7)マイコバクテリウム否定試験、8)含湿度試験、9)溶解液の無菌試験、10)長期保存による力価推移の数学的解析
新ワクチン 1ロット:1)力価試験、2)安定性試験、3)無菌試験、4)マーカー試験(1)増殖温度感受性試験、5)マーカー試験(2)ふ化鶏卵漿尿膜接種試験、6)含湿度試験、7)溶解液の無菌試験
結果と考察
(I)旧ワクチン12ロット:1)力価試験:12ロットの全てが生物学的製剤基準を満たす力価(1077/ml以上)を示した。2)安定性試験:旧ロットの12ロット全てが、37℃保存後の力価の低下は基準内であったが、2ロットに関しては、保存後の力価が基準値を若干下回った(0.1log10および0.2log10/ml)。3)総菌数試験:菌の増殖の認められなかったものが8ロットで、残りの4ロットに関しても国家検定時の成績と比べ菌数は同じか減少しており、生物学的製剤基準を満たしていた。4)総菌数試験で検出された菌の同定:総菌数試験で検出された菌を同定した結果、29コロニーのうち26コロニーまでがBacillus subtilisであり、他はNocardia spp.と真菌であった。混入菌の病原体レベルは、B. subtilisはレベル1、Nocardia spp.は菌種同定されていないので区分できないが、一般的に問題ないと考えられた。5)病原性クロストリジウム否定試験:旧ワクチン12ロットいずれにも、クロストリジウム属菌を含め偏性嫌気性菌は検出されなかった。6)コリネバクテリウム否定試験:12ロットいずれにもコリネバクテリウムは検出されなかった。7)マイコバクテリウム否定試験:12ロットいずれにも結核菌を含むマイコバクテリウムは検出されなかった。8)含湿度試験:12ロット全てが検定基準を満たした。9)溶解液の無菌試験:全てのロットの溶解液から菌は検出されなかった。10)長期保存による力価推移の数学的解析:力価試験の参照品として用いられる参照痘そうワクチン(1972年より4℃に保存されている)の力価推移の21年間分データを用いて4℃保存での反応速度常数の推定と失活曲線あるいは直線の推定を行った。当初8.5log10/mlの力価があった場合、回帰の取り方によりばらつくが、検定合格ラインの7.7log10/mlに到達するのは15年から19年と推定された。一方、旧ワクチンに関しては、各年での力価測定が1回のみであり、データのばらつきが大きいため力価の経時変化の推定は困難であった。
(II)新ワクチン 1ロット:新ワクチンは、乾燥細胞培養痘そうワクチンで製造法が旧ワクチン(乾燥痘そうワクチン)と異なり検定項目も異なる。新ワクチンに関しては、生物学的製剤基準に適合するかを試験した。1)力価試験:108.7/mlと検定合格基準の10倍で基準を満たした。2)安定性試験:37℃に4週間保存後の力価は、1081/mlと検定合格基準以上でかつ力価の低下が0.6log10/mlと基準を満たした。3)無菌試験:菌は検出されず検定基準を満たした。4)マーカー試験(1)増殖温度感受性試験:ウサギ初代腎細胞での35℃および41℃でのウイルス増殖をプラック力価により判定した結果、両温度でプラック力価の差は基準を満たした。5)マーカー試験(2)ふ化鶏卵漿尿膜接種試験:発育鶏卵の漿尿膜での接種48時間後のポックサイズは、平均1.2、SD 0.18mmであり、検定基準を満たした。6)含湿度試験:基準を満たした。7)溶解液の無菌試験:菌は検出されず基準を満たした。
本研究の目的は、製造後20年以上経過した旧ワクチンと試作的に作られた新ワクチンの安全性等を確認することである。旧ワクチンに関しては、ウシ皮膚由来のため検定基準にない菌の混入の有無に関しても検討したが、コリネバクテリウム、マイコバクテリウムとも混入が否定された。本ワクチンは、無菌性を保証するものではなく、総菌数が基準以下であることを保証するものであるが、総菌数試験で検出されたロットに関して菌の同定を行った結果、通常、人に有害と考えられる菌は検出されなかった。力価および安定性に関しては、殆どのロットで検定基準を満たしていた。力価および安定性試験は、これまで旧ワクチンに関しては毎年あるいは隔年で行われているが、2年前の試験成績と比べて全て力価の上昇が認められた。これは、試験の精度の問題ではなく、本年の試験に用いられた鶏卵のワクチニアウイルスに対する感受性が高かったためである。鶏卵のワクチニアウイルスに対する感受性の変動は、近年特に大きくなってきている。力価試験、安定性試験においては、鶏卵の感受性の変動は成績に大きな影響を与えるため、感受性の変動を補正するための標準化等の検討が今後必要になると考えられる。長期保存による力価変動の予測は、今後の痘そうワクチンの備蓄およびワクチン生産を計画する上で重要である。参照痘そうワクチンの4℃での長期保存の力価変動の生データから予測される保存期間は、当初の力価が8.5log10/mlである場合15~19年と予測された。しかし、これまでの力価データは、膨大ではあるが単一温度条件でのデータしかなく、正確な予測をするには不十分であることが明らかとなった。新ワクチンに関しては、平成13年度に新たに作成される乾燥細胞培養痘そうワクチンと基本的に同一なワクチンで旧ワクチンと製造法、内容物が異なるため、力価変動が異なることが考えられる。今後、新ワクチンに関して、複数温度条件での加速変性試験を行いより正確に保存条件、保存期間による力価変動の予測を行うためのデータを得る必要があると考えられる。新ワクチンに関しては、製造から2年しか経過していないこともあり、検定基準を全て満たしていた。今般、米国NIID主導で行われた、米国の備蓄ワクチンのボランティアへの接種実験から、7.0log10/mlの力価があれば初種痘者への善感率が97.1%(Frey, S.E., et al., N Engl J Med., 346(17), 1265-1274, 2002)と、かつて日本で行われた実験成績(北村他、日本伝染病学会誌:37巻, p205, 1963)と同様の結果が得られている。これらの報告から、旧ワクチンのポテンシーは今だ有効であると判断される。
以上の結果から、新旧ワクチンとも備蓄を継続することが望ましいと考えられるが、特に旧ワクチンに関しては、人へ接種した場合の副反応に関して充分留意する必要がある。
結論

公開日・更新日

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