医薬品等副作用症例報告における重要シグナル自動認識及び抽出のための論理構造とIT化に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100096A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等副作用症例報告における重要シグナル自動認識及び抽出のための論理構造とIT化に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
久保田 潔(東京大学医学部薬剤疫学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 小出大介(国際医療福祉大学医療福祉学部医療経営管理学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医薬品の副作用に関する自発報告から特に重要なシグナルを検出する方法として英米規制当局やWHOのUppsala Monitoring Centre(UMC)で研究され、実利用の段階にまで進んできた「データマイニング」の手法に基づく予備的解析プログラムを厚生労働省が副作用情報処理のために構築してきたシステムに組み込み可能な形で作成することを主たる目的とする。ただし、民間の企業や研究者が自ら有するデータを解析したり、既に行政によって公開された自発報告から検出されたシグナルを検討する上でも役立つよう、一般のパソコンユーザーも十分利用できるものを作成する。さらに、本研究で作成される予備的プログラムを十分に機能させるために、以下の2つのテーマについても検討する。 関連テーマ1:今後大勢を占めると考えられるICHで合意されたE2B/M2仕様の電子的な個別症例安全性報告からのシグナル検出のための情報抽出。関連テーマ2:E2B/M2でもその使用が前提になっているICH国際医薬用語集(Medical Dictionary for regulatory activities terminology、MedDRA)のシグナル検出への効率的な利用方法。
研究方法
以下の3つの「データマイニング」の手法にもとづく新しい方法にもとづき、厚生労働省の副作用情報処理システムに組み込み可能な予備的プログラムを作成した。
1)米国Food and Drug Administration (FDA)が用いるGamma Poisson Shrinker (GPS) Program、
2) 英国Medicines Control Agency (MCA)が用いるProportional reporting Ratio (PRR)、 3) UMCが用いるBayesian Confidence Propagation Neural Netwok (BCPNN)。
関連テーマ1:E2Bのガイドライン“Data Elements For Transmission Of Individual Case Safety Reports"「個別症例安全性報告を伝送するためのデータ項目」Version.4.4.1、M2の仕様書“Electronic Transmission of Individual Case Safety Reports Message Specification" 「個別症例安全性報告を電子的に伝送するためのメッセージ仕様」(ICH ICSR DTD Version 2.1) Final Version 2.3 Document"を検討した。
関連テーマ2:MedDRAのシグナル検出への利用については その日本語版であるMedDRA/Jの内容、特に各バージョン間の異同の比較検討と、「医薬品情報提供システム」(http://www.pharmasys.gr.jp/)に公表されている「副作用が疑われる症例報告に関する情報」の平成10-12年度の「報告副作用一覧」を本研究で作成された予備的プログラムによって解析して得た結果を検討した。
結果と考察
予備的プログラム:作成した予備的プログラムを用いることにより、英国MCA、米国FDA、UMCで使用されている3つのシグナル検出の手法をによる解析結果を一覧表やグラフの形にして検討できる。シグナル検出に使用すべきE2B/M2仕様の電子的個別安全性情報の項目についての詳細は後述の通り、分担研究報告で明らかにされている。今後、さらに実際に使用する中で判明した問題点について「使い勝手」を改良することなどが必要である。厚生労働省のシステムに組み込む際には、E2B仕様の電子的個別症例安全性報告を集積されて作られるデータベースから抽出する機能と旧来のシグナル検出の基準(たとえば新たに3例目に達した未知・重篤症例)に沿ってシグナルを検出をしたり、解析結果から該当する症例にもどり、症例一覧を表示する機能を付加することも必要である。「医薬品情報提供システム」(http://www.pharmasys.gr.jp/)に公表されているデータの解析:「医薬品情報提供システム」(http://www.pharmasys.gr.jp/)に公表されている「副作用が疑われる症例報告に関する情報」の平成10-12年度の「報告副作用一覧」には、合計109207件の副作用報告が公開されており、副作用名にはMedDRA/Jの基本語(Preferred Term、PT)が用いられている。「報告副作用一覧」に表示されている薬-イベント(PT)の組み合わせ数は51232組に上る。MedDRAのV4.0は14287のPTを含むが、「報告副作用一覧」で実際に使われているPTは1668語にすぎない。これは、多くの報告が当初J-ARTでコードされ、それがいずれかの時点でMedDRAコードに機械的に変換されたためと考えられる。薬-PTの組合わせでみた場合、Signal Score>2をシグナルの基準とする米国FDAのGPSの方法では16869件がこの条件をみたす。英国MCAのPRRの方法を使うと、PRR>2、カイ二乗値>4のシグナルの基準を満たすものは4367件である。UMCの方法におけるシグナルの基準であるIC-2SD>0(IC: Information Component)の条件をみたすものは、3942件である。上記3つの方法によって検出されたシグナルの比較検討の結果、BCPNNの方法でシグナルとされるもののほとんどが、他の2法でもシグナルとして検出されることなどから、BCPNNが最も厳しい基準であると結論された。
関連テーマ1:予備的プログラムで扱われている3つの方法に関して抽出すべき項目はイベント、薬、性、年齢、情報源から最初に報告が入手された日など、比較的少数である。旧来のシグナル検出で特に重要なのは、重篤性に関する項目と未知・既知の区別であるが、特に未知・既知の区別については明確に該当するE2B/M2項目は存在しない。その他、原疾患、ロット、投与経路などに関する項目も重要と考えられ、分担研究報告書に詳細な一覧表が示されている。
関連テーマ2:MedDRAはシグナル検出に使用できるように設計されておらず、必要な語の迅速な追加や問題点の迅速な修正などのMedDRAの長所と評価されている点の多くが、シグナル検出に関しては短所として浮かび上がった。MedDRAは5層構造をなしているが、高位語(Hight Level Term、HLT)や高位グループ用語(High Level Group Term、HLGT)などのPT以上の階層に位置する語はシグナル検出に関しては有用といえず、今後の課題として、PT以上の階層に現在とは別のシグナル検出のための階層構造を作成する必要性が示唆された。シグナル検出へのMedDRAの利用の問題は、類似する複数のMedDRAの用語の取り扱いという点で未知反応と既知反応の識別とも密接な関係を有すると考えられる。PT以上の階層に現在とは別に作成すべきシグナル検出のための階層構造については、これまでシグナル検出に利用された実績のあるWHO-ARTの利用が大きな課題になると考えられる。
結論
我が国の副作用情報解析に使用する英米規制当局やUMCで実利用が開始されている「データマイニング」の手法によりシグナルを検出する予備的プログラムを作成した。予備的プログラムは厚生労働省における副作用情報解析のためのシステムに組み込み可能であり、同時に企業や研究者が自ら保有するデータを解析したり、厚労省から公開されているデータの解析結果を閲覧することに使用することも可能である。また、シグナル検出へのMedDRAの利用の問題は、未知反応と既知反応の区別の問題と密接な関係をもち、今後、解決方法を研究する上でWHO-ARTの応用が重要となる可能性が高いことが結論づけられた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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