放射性医薬品を投与された患者のオムツ等の実態調査及び放射性廃棄物の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100095A
報告書区分
総括
研究課題名
放射性医薬品を投与された患者のオムツ等の実態調査及び放射性廃棄物の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小西 淳二(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 日下部きよ子(東京女子医科大学)
  • 遠藤啓吾(群馬大学)
  • 木下富士美(千葉県がんセンター)
  • 藤田 透(京都大学)
  • 佐々木由三(国立国際医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、医療廃棄物中に放射線が検出され、引き取りを拒否される事例が報道された状況を踏まえて、アンケート調査による固体状排泄性医療放射性廃棄物に関する管理の実態調査をはじめ、下記の検討を行い、固体状排泄性医療放射性廃棄物の適正かつ合理的な管理システムに関する基礎資料を作成することを目的とした。1.体内適用放射性医薬品の使用施設に対するアンケート調査 2.医療現場における固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理状況に関する対面聞き取り調査 3.全国の核医学診療施設における固体状排泄性医療放射性廃棄物量の推定に関する検討 4.米国の連邦規則(10CFR Part20及び35)及びEU 加盟国の「欧州における医療用放射性廃棄物の管理(EUR 19254 EN)」等の解析。
研究方法
1. 体内適用放射性医薬品を使用している1,210施設の全てを対象に、「放射性医薬品を投与された患者のオムツ等」の調査票を作成し、固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理状況を把握するアンケート調査を実施した。 2. 1,210施設から無作為に選ばれた57施設を対象とし、アンケート調査で抽出できなかった医療現場の管理実態に関する具体的意見及び問題点等を把握する対面調査を行った。 3. 放射線管理の具体的事例として、患者ごとに管理する方法(以下「個別管理」という)、施設又は病院の搬出出口で管理する方法(以下「集中管理」又は「出口管理」という)及び個別・集中併用管理(以下「併用管理」という)方法について、医療現場に適用可能なモデルを検討した。 4. 欧米諸国における固体状医療放射性廃棄物の管理体系について、米国連邦規則(10CFR Part20及びPart 35)及びEU連合における医療放射性廃棄物の管理(Management of Radioactive Waste arising from Medical Establishments in the European Union)(EUR 19254 EN)(EUROPEAN COMMISSION 2001)を翻訳し、欧米諸国の法令及び法解釈について分析し、医療法施行規則と比較検討した。なお、米国連邦規則については、医療放射性廃棄物の管理について具体的に記述されているNRCハンドブック(The Nuclear Medicine Handbook for Achieving Compliance with NRC Regulation 1997)についても検討した。
結果と考察
医療廃棄物中のオムツ等から放射線が検知され、廃棄物業者から引き取りを拒否された事例が報道された。これは、核医学診療を実施している病院等の放射線管理及び責任体制が問われる極めて重要な問題である。本研究においては、固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理を含めて、核医学診療施設における放射線の管理に関する実態を把握するためのアンケート調査及び対面聞き取り調査、参考として医療放射性廃棄物に関する諸外国の法規制・管理状況についての調査検討を行い、医療放射性廃棄物に関する適正かつ合理的な管理方策にかかる基礎資料の試案を作成した。1. アンケート調査の集計及び解析に関する検討: アンケート調査で回答された751施設のうち、固体状排泄性医療放射性廃棄物の放射線管理を実施している施設及び測定などを含めて数ヶ月以内に実施すると回答した施設は、回答施設の61.1%であった。この値は、未回収施設(459施設(37.9%))の取り組み状況を勘案すると、決して満足すべき値ではない。従って、固体状排泄性医療放射性廃棄物に関する解釈を正規に戻すための行政及び関連学会等による教育・啓発活動の強化が必要と考える。一方,オムツ等の放射線管理の実施率61.1%は、放射線安全管理組織が確立されている率62.9%と近似していた。民間病院、大学附属病院、公的
病院及び国立病院に分類した施設形態ごとでの放射線安全管理組織率と、固体状排泄性医療放射性廃棄物に対する管理実施率の間にも、相関が示されたことから、固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理を徹底するためには、放射線安全管理組織を確立することが重要と考える。 2. 施設における対面調査の集計及び解析に関する検討: 無作為に選ばれた57施設の対面聞き取り調査の結果、感染性廃棄物の管理が行われている施設57.4%とオムツ等の放射線管理を実施している施設69.6%の間で近似する傾向が示された。この点は、施設における廃棄物に関する管理意識が反映されているものと考える。従って、固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理に関しては、施設の組織的管理体制の確立が重要と考える。また、対面調査において放射線管理の重要性を説明した後に、新たに4施設が放射線管理を実施したことは、啓発活動の重要性を示唆しているものと考える。また、固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理を実施している39施設において、施設規模と管理方法の間に、一定の傾向は認められなかったが、管理もれの防止に適切な併用管理方法を採用している施設は、何れも病院管理者の放射線管理に対する意識が高く、組織的管理体制が構築されていた。これらの所見は、適切な管理の実行に施設全体の組織的管理体制の確立が必要であることを示唆するものであり、行政及び関連学会等による指導・教育が重要と考える。 3. オムツ等の放射性廃棄物の推定量: 全国の核医学診療施設における固体状排泄性医療放射性廃棄物の総量は、1999年に医療機関から排出された放射性廃棄物集荷量の約4倍になると推定された。これは、疾病等の早期発見に極めて有効な手段であり、医療経済効果に大きく寄与している核医学診療の実施に大きな負担増になり、患者が享受する核医学診療の便益が大きく損なわれる可能性が考えられる。従って、固体状排泄性医療放射性廃棄物の合理的な管理・処理方法について早急な対策を講じることが必要と考える。 4. 医療法施行規則における固体状の医療放射性廃棄物に関する規制:医療法施行規則において、気体及び液体状放射性廃棄物は、規則第30条の26で規定する濃度限度以下であれば廃棄可能としている。一方、固体状の放射性廃棄物については、具体的な廃棄方法が明文化されていない。従って、希釈並びに物理的半減期による減衰も考慮されないとの解釈で指導されている。 5. 諸外国における医療放射性廃棄物の処理に関する検討: 欧米各国における固体状の医療放射性廃棄物の扱いについて、主に、10CFR(Part20及びPart35)及びEU加盟国のEUR 19254 ENについて検討した。概して一定のレベル以下であれば規制対象から除外されていた。欧米諸国における規制からの除外基準の設定に当たっては、核医学診療を受ける患者の便益と損害のバランス、核医学診療に使用される核種が短半減期であること、国民の集団線量を含めた放射線の安全性評価等が考慮されている。一方、4で示したように、我が国における固体状の医療放射性廃棄物に関する解釈では、一度汚染された物は永久に汚染されているとされ、短半減期核種の物理的性質による減衰が考慮されていない。この科学的根拠から逸脱した規制が、我が国における核医学診療の進歩に抑制的に機能していることは否定できない。従って、我が国における固体状の医療放射性廃棄物に対しても欧米諸国で採用している科学的根拠に立脚した合理的解釈が必要と考える。 6. 今後の固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理方法に関する考え方: アンケート及び対面調査の結果、欧米諸国の規制除外の基準を参考とし、我が国の社会的背景において医療機関の管理体制下で受け入れ可能な基準として、以下に示す管理システムが適切と考える。(1)核医学診療施設において、固体状排泄性医療放射性廃棄物に関する管理を徹底するため組織的管理体制を確立し、廃棄物の管理に関する実務担当者の中から廃棄物管理責任者を選任することとする。(2)各施設における固体状排泄性医療放射性廃棄物に関する品質保証プログラムを作成すること。なお、バックグラ
ンドレベルの確認等を徹底するための品質保証プログラムの具体的な事例は次の通りである。①半減期の長短による分別管理の徹底 ②汚染された物の10半減期保管の徹底 ③紹介病院に対する患者のオムツと汚染物の一定期間保管に関する連絡の徹底 ④廃棄物として処分する前にバックグランドレベルを確認する測定の義務 ⑤処分した廃棄物の記録の保存  (3)固体状排泄性医療放射性廃棄物に関する記録は3年間保存するものとし、記録は次に示す事項が含まれるものとすること。 ①保管した日 ②一般廃棄物として処理した日 ③廃棄した放射性核種 ④使用した測定器の機種名 ⑤バックグランドの線量率 ⑥処理時の廃棄物容器表面の線量率 ⑦廃棄処理担当者の名前 なお、固体状排泄性医療放射性廃棄物に関しては、欧米諸国では放射線よりも、感染性、化学毒性等の危険性がより高いと考えられており、また、我が国の実務担当者からも指摘されている。従って、我が国における固体状排泄性医療放射性廃棄物についても、感染性廃棄物の管理に関する認識を高める必要がある。
結論
1. アンケート及び実態調査により、我が国における放射性医薬品を投与された患者から排泄された汚物が付着したオムツ等の管理状況が明らかとなった。実際に固体状排泄性医療放射性廃棄物の管理を行うとしている施設は61.1%であるが、管理の検討もしていない施設が22%程度あり、オムツ等の放射線管理を徹底するためには、施設管理者への教育・啓発を強化する必要がある。 2. 放射性医薬品を投与された患者のオムツ等の管理に関して、人的、経費的な面を除いても、感染性廃棄物としての危惧、異臭等の問題もあり、一定の値(バックグランドあるいは一定値)以下であれば放射性廃棄物から除外できる処理が強く望まれる。欧米各国では、患者が享受する便益と短半減期核種である点が考慮され、医療機関の組織的管理体制の確立、廃棄物の品質保証プログラムの遵守、及び固体状の医療放射性廃棄物が一定の基準(バックグランドレベル)以下であることを確認する事によって規制から除外する方策が適用されていた。 3. 上記の調査研究結果をもとに、我が国の規制の枠組みにおいても、公共の安全性を確保し、国民の医療による便益を考慮する視点で、固体状排泄性医療放射性廃棄物の合理的かつ具体的な管理方法に関する基礎資料を提供した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-