企業形態の多様化を踏まえた医薬品・医療用具等関連企業における倫理向上及び法令遵守(コンプライアンス)体制整備に関する研究

文献情報

文献番号
200100093A
報告書区分
総括
研究課題名
企業形態の多様化を踏まえた医薬品・医療用具等関連企業における倫理向上及び法令遵守(コンプライアンス)体制整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
白神 誠(日本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
様々な産業においてアウトソーシングが進む中で、製薬業界においても、製造の委託や市販後安全管理の外部委託が一部で行われ始めている。現在検討が進められている薬事制度の見直しのなかでも、製造の委託に関する規制の緩和がとりあげられている。製薬企業は、多様な企業提携によって開発製造される医薬品や、これまでにない技術を活用した医薬品について、安全を保証するための仕組みを確立していくことが必要となる。本研究は、医薬品業界における製品安全確保のための基盤として、企業におけるコンプライアンス体制について焦点をあて、コンプライアンス確立が果たす医薬品の安全性確保における役割を検討し、今後企業におけるコンプライアンス確立のための課題を明らかにすることを目的とする。
研究方法
下記の6ステップで研究を行う。
①医薬品における製品安全確保上の課題の分析
過去における医薬品による健康被害の事故の事例についての資料収集と分析、公表されている最近の医薬品回収情報に関する回収原因等の分析をもとに、医薬品の安全を阻害する要因について検討を行う。また、他の産業における製品の安全上の事故事例を収集分析し、医薬品産業と共通する課題を検討する。以上の検討結果をもとに、事前対策と事後対策別に対策を講じるべき医薬品の安全性を阻害する要因の内容を整理する。
②医薬品の安全確保のための制度に関する調査
日本の薬事制度における、医薬品の安全性を確保する上での規定と制度の変遷の経緯を整理し、また、現在検討されている制度改正の背景と方向性についてその内容を取りまとめる。また、国外における医薬品の安全確保のための制度の概要をとらえ、日本との比較と、最近の動向の把握をおこなう。
③医薬品製造における企業提携の展開に関する調査
医薬品製造の委受託について現行制度上の取り扱いについて、これまでの通知等に基き整理する。制度改正による規制内容の変化について整理を行う。医薬品の委受託生産の実態について国内外の動向に関するデータ収集と分析を行う。以上の検討結果を踏まえ制度改定後の委受託の展開を予測し、製薬企業の安全性確保に関する課題への影響を検討する。
④企業におけるコンプライアンスへの取り組み状況の調査
一般的な企業においてコンプライアンス確立が求められる背景とコンプライアンスの意義に関する検討を行う。医薬品における製品安全確保上の課題、薬事制度の現状と今後の改正の動向、製造の委受託の動向等を踏まえ、医薬品の安全性を確保する上での、製薬企業におけるコンプライアンスの意義について検討する。製薬企業に対するアンケートを通じ、製薬企業におけるコンプライアンスに対する必要性や意義の認識、具体的なコンプライアンス確立に向けた取り組みの状況、医薬品の安全確保における課題認識等について調査し、企業規模や取り扱い品目等による差異の分析を行う。
⑤消費者の医薬品に対する意識調査
一般消費者を対象とするアンケートを実施し、消費者が医薬品の使用に際しての日常の注意の意識、薬事制度に関する知識のレベル、自己の責任で注意する範囲と制度上行政や企業による対策を求めている範囲の切り分け等について調査し、年齢層・性別・医薬品の使用頻度等による違いを分析する。
⑥研究成果の取りまとめ
以上の研究の成果を取りまとめるとともに、今後の課題として、製薬会社において実効性のあるコンプライアンス体制の確立を行う上での課題を検討しまとめる。
結果と考察
下記の4点について結果を纏める。
①コンプライアンス体制確立の必要性
製薬企業において、医薬品の開発、製造、販売、市販後の段階を通じて、薬事制度の法令を遵守することは、医薬品の安全性を確保する上での最低限の条件であり、製薬企業においての法令遵守の体制を確立していくことは普遍的な課題である。さらに、規制緩和の推進や製薬技術の革新あるいは、企業形態の多様化によって、今後は製薬企業には、予見しきれなかった事態により健康被害等が発生した場合でも、迅速な情報公開や製品回収等により、被害の拡大を最小限に抑えるための仕組みを確立していくことが求められ、その基盤としてもコンプライアンスの確立が重要な要素となる。
②医薬品業界におけるコンプライアンス対策の現状
製薬企業を対象にして実施したアンケートの結果から、医薬品業界においても、大規模企業を中心として、コンプライアンスの確立に向けた具体的な社内制度、体制の構築が行われ始めていることがうかがえる。一方、中小規模の企業においてもコンプライアンス確立の必要性に対する認識は高まっているが、現段階では具体的な制度や規定の整備にいたっている企業の割合はまだ低い。大規模企業についてもコンプライアンスに関する規定や体制の整備までは行っているが、社員に対する継続的な研修の実施や、内部から企業内の法令違反行為などを指摘する仕組みを構築するまでに至っていない企業も見られ、現場社員までコンプライアンスを浸透させるための具体的な取り組みは今後の課題となると考えられる。
③消費者の安全に対する意識
アンケートの回答からは、医薬品の迅速な承認審査や情報公開を求め、利用者の自己責任で医薬品を使用する意識が高い傾向が見られ、製薬企業にとっても、企業の自己責任の強化を求める声が強い。
④コンプライアンスの確立に向けた今後の検討課題
まだ企業におけるコンプライアンスへの取り組みの歴史は浅く、現実に医薬品による健康被害等の危機的状況が発生した場合において、確実に機能するかについてはまだ十分評価できる段階とは言えない。実際に医薬品の安全確立上実効があるものにしていくためには、医薬品業界の特性にあわせた社員教育のあり方、社内外の監査のあり方、罰則規定のあり方等についての具体的な検討を深めることが必要と考えられる。
結論
医薬品の安全性を確保する上で、製薬企業におけるコンプライアンスを確立する意義は高いと考えられるが、現段階では企業におけるコンプライアンスへの取り組みの歴史は浅く、現実に医薬品による健康被害等の危機的状況が発生した場合において、確実に機能するかについてはまだ十分評価できる段階とは言えない。コンプライアンスを実際に医薬品の安全確立上実効があるものにしていくためには、医薬品業界の特性にあわせた社員教育のあり方、社内外の監査のあり方、罰則規定のあり方等についての具体的な検討を深めることが必要と考えられる。

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