監察医制度の効果的運用に関する研究

文献情報

文献番号
200100085A
報告書区分
総括
研究課題名
監察医制度の効果的運用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
三澤 章吾(東京都監察医務院)
研究分担者(所属機関)
  • 的場梁次(大阪大学)
  • 吉田謙一(東京大学)
  • 本田克也(筑波大学)
  • 山崎健太郎(筑波剖検センター)
  • 西村明儒(横浜市立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
監察医制度は、死亡原因を科学的に究明することにより疾病の予防や事故死の発生防止など公衆衛生上の対策に資することである。他方、監察医制度が設置されていない地域においては、異状死体に関して、検視・検案において死因特定の正確性に問題が生じているとの指摘がなされている。こうした地域では遺族の承諾を得て承諾解剖が行われているが、 費用負担のあり方等地域により運用形態がまちまちである。本研究においては、これら問題点を踏まえ、
1.監察医制度に関し、今日的意義について検証を加えるとともに、時代に相応した効果的運用のあり方について調査・研究を行うこととともに、
2.監察医制度が置かれていない地域について、検案・解剖、検案を担当する立場にある医師の検 案能力の実態について調査し、問題点及びあるべき対応に関する研究を行うことにより、今後の監察医制度等についてのあり方を提言するものである。
研究方法
監察医務制度設置都市および全国47都道府県・警察本部刑事部および各都道府県の警察(協力)医会宛にアンケート調査を実施した。調査内容は、監察医務機関に対しては、最近5年間の検案数、解剖数、監察医などの職員数、経費の負担、報告書の作成の有無および配布先、公衆衛生、司法面などへの貢献度、改善すべき点などについて調査した。医務制度の設置されていない47都道府県に対しては、最近3年間の検案数、承諾解剖の有無、解剖体数、警察医数、法医検案認定医数、承諾解剖の動機、検案・解剖の費用の負担者、検案医に対する研修の有無、警察医と一般臨床医との検案における差違、改善すべき問題点などについて調査した。
結果と考察
監察医制度が設置されている5地域、および設置されていな47都道府県について、アンケート調査を実施した結果、回答率は医務制度設置地域80%、非設置地域100%であった。
1)承諾解剖実施の状況
各都道府県のうち承諾解剖を実施については、回答のあった47都道府県のうち40都道府県において実施しているという回答を得た。これは承諾解剖の必要性があるということを意味している。実施していないのはわずかに5県で、回答がなかった県は2県であった。承諾解剖を「なし」と回答した県は、愛知県、福井県、和歌山県、高知県、愛媛県である。
承諾解剖を実施している都道府県にしても、承諾解剖の数は多くはない。多くの県では50件以内で、過半数は10件以内である。これは全異状死体のわずか0.5%でしかない。
2)監察医務機関における行政解剖の状況
監察医務機関として独立した施設を有する東京都監察医務院と大阪府監察医事務所では異状死体の検案数に対する解剖率が大変類似しており、過去3年間を通して24.5%?34%である。この約30%という解剖率は監察医務機関としての必要最小限の数であると考えられる。したがって、異状死体のうち約30%の事例は、熟練した監察医をもってしても検案のみでは死因決定が困難であるということになる。監察医制度のない地域では承諾解剖によって代行されているので、全異状死体数の少なくとも約30%は解剖されなければ死因を決定することはできないはずである。
3)監察医制度の拡充への期待
行政解剖は死体解剖保存法第8条に基づく解剖であり、法的な強制力があるが、承諾解剖はそれがなく、遺族の承諾がなければ解剖はできない。したがって、解剖が遺族の利益に還元されうる民事事件の場合はよいが、それがない場合、あるいは殺人被疑事件の可能性があり、遺族が被疑者であることが排除できない場合には、承諾解剖の方式には困難がある。したがって、法的な強制力にもとづく行政解剖を全国レベルで実施することは司法面への貢献には大きなものがある。これには国会での十分な審議をもってぜひ近い将来に実現していただきたいと切に願う次第である。そのためにはまずは政令都市への拡大、つづいて県庁所在地の都市への拡大が必要であろう。将来を見据えての新たな政策の展開が期待される。
結論
監察医務制度が設置されている5地域、および設置されていない47都道府県についてアンケート調査を実施した。いくつかの地域についてはさらにインタビューを行い、正確を期した。
1. 監察医制度設置地域のうち横浜市からは回答が得られず、この制度の本来の目的が活用されているか否かの実体が把握できなかった。このアンケートから直接的にはわからないが、別の調査あるいは実情を関係者にインタビューした限りでは、本来あるべきシステムとは異なる極めて不自然な形で実施されているようである。他の4都市については、解剖率は25%以上であるが、各県監察医の検案数が44~76(最近5年間)という数字はかなり少なく、システム上の問題があるのではないかと疑わせる。
2. 監察医制度が設置されていない都・多摩地区はじめ道府県では、承諾解剖が行われている。解剖が行われていないのは5県(回答なし2県)、その他の地域では実施されているが、解剖率は2%以下が圧倒的である(88.8%)。検案費用負担者は遺族が多く(79.5%)、解剖費用の負担者は大部分が都道府県・警察であるが、4地域では遺族である。
3. 検案に際し、警察医と臨床医とで検案結果に差違があるか否かに対しては、概して警察医の方が法医学的知識もあり、死体も詳しく観察しているという回答であった。警察医に対しては、ほぼ年1回の研修会が各地で開かれているが、さらなる活動が期待されるべきである。臨床医に対しては、臨床研修義務化に含めて研修する必要があろう。
4. 検案・承諾解剖を実施することは、公衆衛生分野および司法分野へほぼ等しく貢献しているとの回答であったが(56.8%)、司法への貢献を強調しているのは38.6%、公衆衛生に貢献していると強調している回答は4.5%であった。アンケートの結果、全国的に監察医務制度あるいはそれに類似する制度(筑波剖検センターのような施設)が必要とされ、制度の拡大・充実が求められている現状が把握できた。

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