静脈注射実施における教育プログラムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100082A
報告書区分
総括
研究課題名
静脈注射実施における教育プログラムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石本 傳江(日本赤十字広島看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昭和26年の厚生省通達によって看護職による静脈注射は行政的には業務範囲を越えるとされてきた。しかし、静脈注射は看護職が多くの施設で実施している現実があり、近年在宅医療の増加に伴い、社会的ニーズとして法的整備への期待が高まっている。本研究は看護職による静脈注射の実施に際しての諸条件を明らかにするために以下の目的を持つものとした。
1.医療施設および訪問看護施設における看護職の静脈注射の現状と課題を明らかにする。
2.わが国における看護職による静脈注射についての教育内容を明確にする。
3.海外における静脈注射の実施状況や教育基準について文献検討を行う。
4.以上の成果を踏まえて、看護職による静脈注射教育プログラムを作成する。
研究方法
A.調査研究①調査方法:無記名自記式質問紙によるアンケート調査
②調査対象施設:平成11年度全国病院名簿および老人訪問看護ステーション名簿から層化無作為抽出した1200(病院:900、訪問看護ステーション:300)の施設とした
③調査対象者:a)看護管理者  b)看護実務管理者 c)医師 
d)訪問看護ステーション看護管理者
④調査期間:平成14年2月26日から3月15日
⑤倫理的配慮:調査は無記名とし、施設名が特定できないように配慮した。
B.文献研究:国内外の看護職による静脈注射に関する文献を収集・分析した。
結果と考察
A.調査研究
①調査票の回収率
a)看護管理者301名(回収率33%)  b)看護実務管理者306名(34%)
c)医師247名(27%) d)訪問看護ステーション看護管理者:171名(回収率59%)
②調査結果と考察
a)看護職による静脈注射実施の現状と課題
看護職が静脈注射を日常業務としているとしたのは、看護管理者は90%、医師では94%であり、関連業務として輸血は約50%、抗がん剤注射は約30%看護職が行っていた。看護管理者の52%が静脈注射は「診療の補助業務」の範囲であるとしていたが、引き受ける意志があるかについては、「引き受けたくない」が52%であった。医師は看護職が静脈注射を行うことは「相対的医行為」と95%が回答し、看護職が静脈注射を行うことに対して「賛成である」は94%であった。訪問看護施設では60%が静脈注射を実施しており、実施していない理由は「法的規制がある」が最も多かった。また、「利用者のニーズとして静脈注射の実施が必要とされている」と85%が回答しており、「法的・教育的条件が整えば看護職の静脈注射に賛成である」は86%であった。これらのことから静脈注射を実施している医療施設が90%以上あり、医師は全面的に看護職の業務と認めているにもにもかかわらず、看護管理者の認識の上では静脈注射が看護業務の範囲かどうかが二分されており、現実と行政解釈との間でのジレンマを抱えていると推測される。
b)静脈注射を実施する看護職の教育
静脈注射の実施について看護管理者の48%、 医師の47%が看護職の能力について、「不足がある」とし、薬剤の知識、法的責任、患者の状況判断、感染・安全対策などをあげていた。静脈注射に関する看護職への教育は「している」が61%で、新卒業者が対象とされているのは69%であったが、「院内教育が十分できない」とした看護管理者は43%であった。看護実務管理者は、教育が徹底している内容は「輸液セットの選択」や「空気を抜く」などの手技に関する項目であり、「患者の状態のアセスメント」や「患者教育」は不備であると指摘していた。望ましい教育と資格については、看護管理者の41%、医師の62%が「卒後教育を行い全員が実施」としており、望ましい体制として、看護管理者は52%、看護実務管理者の37%が「法的に明確となり看護職が裁量権をもって実施できる」ことを挙げていた。静脈注射の位置づけを明確にし、静脈注射に関する基礎教育の充実と認定看護師制度等を視野に入れた卒後教育体制の検討が課題と考えられる。
B.文献検討の結果
わが国における静脈注射の看護基礎教育は、実践範囲が明確にされないまま、医師の介助法として取り上げるに留まっており、演習をしていない教育施設も多く、卒後教育に任された形となっている。これに対して、海外では看護職が患者の利益を最大のものとして考え、専門職の責任範囲や必要な知識・技術、看護過程に基づく患者ケア・教育を含めた体系的な教育プログラムやガイドラインが示されており、安全な静脈注射を実施するために、主体的に取り組む姿勢や改革の姿があった。
C.教育プログラムの検討
実態調査結果や海外文献の検討を通して、現実を踏まえた適切な教育プログラムや体系的な教育のガイドラインの必要性が示唆された。看護基礎教育プログラムでは内容を1.静脈注射に関する基礎知識2.静脈注射を受ける患者の看護に大別し、不足能力とされた薬剤知識や法的責任、患者のアセスメント能力を養うものとした。卒後教育プログラムは、新卒者、中堅者、看護管理者を対象とする3つの分野を検討し、院内教育や研修会において看護職が主体的に教育プログラムを開発できるように集合教育と個別教育を内容とした。
静脈注射マニュアル作成のガイドラインは、理念から実践・評価までの体系的なものとし、①看護と静脈注射②歴史③法的関係④薬剤の基礎知識⑤解剖生理⑥必要物品?患者の看護⑧合併症とケア⑨安全対策と事故防止⑩評価の10項目にまとめ、各々の概要を示した。
結論
1. 看護職が静脈注射を実施している割合は90%以上に及んだが、法的位置づけの認識は医師と看護管理者間で差が見られた。看護職が静脈注射をする事に対して位置付けの不明確さによる問題やジレンマがうかがえた。
2. 看護職が効果的かつ安全に静脈注射を実施するには能力の不足が指摘されており、静脈注射に関する教育は十分ではない現状があった。静脈注射に関する看護教育の検討が必要であり、教育プログラムや教育マニュアルの基準化が求められる。
3.わが国では静脈注射の教育は実践教育に委ねられているが、海外文献では患者の利益を第一としたガイドラインや体系書があり、教育プログラムが開発されていた。
4.以上の研究結果から、薬剤知識、法的責任、患者のケアなどを体系化した静脈注射の看護基礎教育並びに卒後教育プログラム案、及び教育マニュアルガイドライン案を提示した。

公開日・更新日

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