診療情報の統一コーディング対応による診療結果比較についての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100077A
報告書区分
総括
研究課題名
診療情報の統一コーディング対応による診療結果比較についての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
河北 博文(東京都病院協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
科学的な根拠に基づいた医療の実践、患者志向の医療を実現するために不可欠な情報を蓄積していくには、患者データベースの整備を早急に実施し、アウトカム評価を可能にする基盤が必要である。本研究の目的は
① 主要な24疾患とその処置について、保険病名に比較して情報精度の高い国際疾病分類(ICD)コーディングに基づいて、患者の属性・重症度別の診療アウトカム指標データ(予後、在院日数、医療費等)を継続的に収集・解析することにより診療アウトカムの標準を確立する。
② 参加病院には、全体の平均・分布とともに当該病院の全体における位置付けを明らかにした情報を定期的にフィードバックすることにより、医療の質改善への目標を示し、実際の医療の質改善が行われたか否かについて検証が可能なシステムを構築する。また代表的な病院には面接調査を行い事例研究も併せて行う。
③患者に対するアンケート調査により、データベース稼動前後の患者への医療情報提供量、満足度の変化を明らかにする。
④データベースの内容をインターネット等を用いて一般に試験的に公開することにより、診療情報の一般的な利用方法、要望などについての知見を得る。
⑤アウトカム評価の活動について米国、豪の代表的事例について明らかにする、ことである。
研究方法
① データベースの構築
データベースのシステム設計、入力ソフトの作成:東京都病院協会、全日本病院協会の先行研究、試行に作成されたデータベースソフトを基にして、実用可能なデータベース入力ソフトウエアの開発を行う。入力ではICDに基づく病名・処置名、患者属性、重症度、治療内容、その他の情報が入力される。日本ではICDコーディングの普及が不十分なため、ICDについて特段の知識を有さなくても入力が可能となるような工夫を行った。また、我々の先行研究により重症度に加えて合併症・併存症・ADL(日常生活動作能力)などが診療結果に影響をもたらすこと明らかにされており、これらの情報も網羅するように配慮した。最終的な対象疾患は24であり、これは総合的な病院における患者数の30-50%に該当し、これらの患者群の解析は病院の診療機能を評価する上で十分な代表性を有するものと考えられた。
データベースの構築:データベースを通年で稼動させるために、運用細則の策定、入力マニュアルの作成、参加予定病院に対する説明会の実施(2回)を行った。参加病院数は2002年3月末現在で23病院である。データは年4回集計し、参加病院には各疾患・処置について、代表的な診療アウトカム指標(重症度別の死亡率、在院日数、医療費等)の全体の平均、分布、当該病院の全体における位置付けが示される。このデータを参加病院にフィードバックすることにより、医療内容の見直しと改善、患者に提供される情報の量、質両面での改善、インフォームドコンセントを実効あるものとすることが期待される。これは、医療の質を保持するために極めて有効な手法であり、その効果の検証が可能となる。また今後の医療情報の提供のあり方、広告規制について検討する上で重要な知見となる。
データベースの稼動:2002年4月からであり、今後はその運営状況に基づいて、病院及び患者を対象にした調査を行う必要がある。
医療の質改善の検証:当初の値をベースラインとして、経時的に診療アウトカム指標を追跡し、医療の質が改善することを検証する。特に改善の程度が著しい病院、あるいは改悪した病院についてはそれぞれ病院代表者に対して面接調査を行う。
患者満足度調査:データベース稼動前後で患者満足度調査をアンケートにより実施する。これはデータベース稼動により、インフォームドコンセントの際に患者のもたらされる情報量の変化、満足度の変化を検証するものである。
インターネット等を用いた診療アウトカム指標の公開:ウェブサイトを設けて、診療アウトカム指標の一般への公開を行う。これに対する利用頻度、利用者のインターネットを利用したアンケート調査により一般人よりの評価、ニーズ等を明らかにする。
② 米国、豪州での実態調査
米国については2001年3月に現地調査が、豪については文献調査を行った。
結果と考察
① 医療の質への関心の増大
2001年に米国Institute Of MedicineはレポートCrossing the Quality Chasmを公表し、受けることのできる医療サービスと実際に受けている医療サービスの内容に差異があり、これはchasm(断層)と表現されるほど深刻であること、今後、疾病構造が慢性疾患中心となり、複数の医療機関が治療に関与するにつれこのchasmは拡大することが危惧されること、これを解消するためにはinformation technologyの大々的な導入と、医療提供体制の大幅な変革を必要とすることを指摘した。医療の質についての関心は世界的にも高まっており、本研究はその一環をなすものである。
②プロセスアプローチとアウトカムアプローチ
医療サービスの質を向上させようとする活動は、プロセス(過程)アプローチとアウトカム(結果)アプローチに大別される。プロセスアプローチは一定の方法論に基づいて最適な治療方法を提示・提供するものであり、医療従事者にとっては何をすべきかが分かりやすい反面、最適な方法(治療)は必ずしも最良の結果をもたらさないという構造的な問題を有する。アウトカムアプローチは、方法の如何は問題にせず、患者データベースなどにより治療結果を提示し保障を図ろうとするものである。しかしながら、アウトカムを示されるのみでは、アウトカムの劣った医療機関ではどのような方法(プロセス)を実行すればアウトカムの改善が得られるかが不明である、という問題を有する。歴史的には1990年までのEBM手法確立を契機にプロセスアプローチが普及するとともに、1990年代前半までにその限界が認識されるようになり、1995年以降はむしろアウトカムアプローチが注目されるにいたっている。日本では我々の先行研究では1996年時点で日本にはEBM手法に基づく診療ガイドラインは存在せず、またアウトカムアプローチが可能な患者データベースもほとんど存在しなかった。両者は並行して導入、普及が図られる必要がある。
③米国、豪州におけるアウトカム評価
データベースを用いたアウトカム評価事業は基本的にはクリニカルインディケーター(臨床指標)を設定して、多数の病院の参加によりデータを収集し、集計して病院へ還元する。これにより、1)治療成績、費用などの診療の標準を確立する、2)参加病院には自院の位置付けを知り改善へのインセンティブをもたらす、3)診療標準、個別の病院のデータを患者に提供しより実質的なインフォームドコンセントを保障する、などの効果が期待される。データベースの収集データは、病院機能全般を対象にしたもの、院内感染、ICUなど特定の医療機能のみを対象としたもの、に大別される。これらは、運営主体、参加病院(数、範囲、強制力)、結果の提示方法(対一般、対参加病院)、病院機能評価との関連などは異なるものの、最終的に医療の質を保障する手法として注目されている。
結論
本研究では、時間的な制約のため、アウトカム評価のためのシステム評価は行われたものの、1)医療の質が実際に改善することの実証的な検討、2)事例研究、3)患者満足度、4)インターネットなどによる公開については検討することができず、今後の研究課題として残されて進められるべきであると考えられる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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