非加熱血液凝固因子製剤を使用した血友病以外の患者における肝炎ウイルス感染に関する調査研究

文献情報

文献番号
200100076A
報告書区分
総括
研究課題名
非加熱血液凝固因子製剤を使用した血友病以外の患者における肝炎ウイルス感染に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
島田 馨(東京専売病院)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤英彦(国立名古屋病院)
  • 白幡聡(産業医科大学)
  • 丹後俊郎(国立保健医療科学院)
  • 三田村圭二(昭和大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
177,324,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルスの持続感染者は、わが国にB型肝炎ウイルス(以下「HBV」という。)については120万人から140万人、C型肝炎ウイルス(以下「HCV」という。)については100万人から200万人存在すると推定されている。特に、HCV感染者は、感染後数十年を経て肝硬変や肝がんを発症することがあり、このような持続感染者への対策は非常に重要な問題である。
このような中、厚生労働省において設置された「肝炎対策に関する有識者会議」(座長;杉村 隆 国立がんセンター名誉総長)では、特に非加熱血液凝固因子製剤(本報告書において、血液凝固第Ⅷ因子製剤・第Ⅸ因子複合体製剤を指す。)を投与された非血友病患者について、一般に比べてHCVの感染率が高いと推測されるものの、感染の実態等についてなお不明な点があることや、患者本人も感染に対する不安を感じている場合が多いと想定されることから、感染実態を把握するための調査を早急に実施すべきとの意見が出された。
本調査研究班は、非加熱血液凝固因子製剤の投与を受けた可能性のある非血友病患者に対し、肝炎ウイルス検査の受診機会を設けるとともに、これらの人々について、HBV及びHCVの感染実態を調査することとした。また、併せて、肝炎ウイルスに感染している者の現在の診療状況についても調査した。
研究方法
対象非加熱血液凝固因子製剤については、国内血由来、国外血由来かを問わず、多数の供血者からの血漿をプールして、濃縮し製造した血液凝固因子製剤のうち、肝炎ウイルスに対して、加熱などの有効な不活化処理がなされていない血液凝固因子製剤(以下「非加熱血液凝固因子製剤」という。)を対象とした。
本調査研究の対象者は、非加熱血液凝固因子製剤を、それらの国内使用開始年である昭和47年から、昭和63年までの間に投与された者とした。しかし、実際には患者個人を特定することは困難であったため、対象非加熱血液凝固因子製剤を投与した可能性のある医療機関を特定し、同医療機関のカルテ等の記録をもとに、該当患者を把握することとした。医療機関については、平成8年の「非加熱血液凝固因子製剤による非血友病HIV感染に関する調査」により、非加熱血液凝固因子製剤の投与を行った可能性のある医療機関が特定され、かつ、公表されている(施設数2,344)。これら医療機関のうち、本調査研究の対象として適当でないものとして、①輸入非加熱血液凝固因子製剤を納入していない、あるいは、投与していない、②輸入非加熱血液凝固因子製剤を納入しているが、血友病患者のみに投与している、③輸入非加熱血液凝固因子製剤を非血友病患者に投与しているが、投与した患者は全て死亡している、のいずれかに該当する内容が記載されている医療機関を本調査研究対象から除外し、残りの医療機関(施設数696)を対象とした。また、国内血由来の非加熱血液凝固因子製剤及びエタノール処理されていた輸入非加熱血液凝固因子製剤を納入していた医療機関を新たに調査し、特定した(施設数182)、最終的には、805の医療機関が特定された。
検査受診の勧奨・呼びかけについては、特定した医療機関(以下「特定医療機関」という。)において把握している対象者に対し、可能な限り、文書又は電話を用いて検査受診を勧奨した。また、対象者の転居等により医療機関で把握しきれない場合が想定されたため、併せて厚生労働省において、特定医療機関名を公表し、非加熱血液凝固因子製剤を投与された可能性がある者に対し、検査受診を呼びかけた。特定医療機関に検査受診のため来院した者に対し、肝炎ウイルス検査(検査項目は表4のとおり)を実施した。検査実施期間は、平成13年3月29日から平成13年7月31日までとした。検査は、医療機関における採血により行った。採取した検体(血液)は各医療機関から検査機関(株式会社エスアールエル)に送付された。検査機関で出された検査結果は、検体送付元である医療機関に文書で報告され、医療機関より検査受診者に説明された。
本調査研究に際しては、調査結果の研究利用について、検査を受診した者の同意を得ることを条件とした。つまり、調査目的等を説明の上、同意が得られた者についてのみ調査票を記入することとした。なお、医療機関において行う説明内容を別紙のとおり事前に医療機関に配布した。同意は検査受診者本人による同意書への記載をもって行い、得られた同意書を診療録に貼付の上、医療機関において保管することとした。
医療機関においては、検査機関から報告された検査結果を調査票に貼付するとともに調査票の設問に対する回答を記入してもらった。現存する資料、本人の記憶等により、可能な限りにおいて非加熱血液凝固因子製剤投与歴又は投与された可能性に関する情報を把握し、調査票に記入してもらった。
他の医療機関(廃院となった医療機関も含む。)において非加熱血液凝固因子製剤を投与されていた者が来院した場合、その医療機関が現存する場合は、当該医療機関に照会し、判明した情報について記載することとし、それ以外の場合については、本人の記憶により可能な限り投与歴又は投与された可能性に関する情報を把握し、調査票に記入してもらうこととした。
また、本調査研究以前に、既に、肝炎ウイルス検査(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体)全てを受けている者については、当該検査結果を調査票に記入してもらうこととした。
上記調査(以下「平成13年調査」という。)の結果について、平成14年3月7日に研究班で議論を行ったところ、非加熱血液凝固因子製剤の使用が確認された者に係るHCVの検査陽性率が、非加熱血液凝固因子製剤使用の有無が確認できない者の陽性率に比べてかなり高かったことから、班員から、非加熱血液凝固因子製剤による肝炎ウイルス感染に対する関与を検討するために、非加熱血液凝固因子製剤以外の経路によるHCVの感染の可能性も併せて調査しておくべきとの指摘がなされた。
このため、平成13年調査の結果、非加熱血液凝固因子製剤の使用が確認された者について、過去の輸血歴、フィブリノゲン製剤投与歴を追加して調査することとした。また、平成13年調査研究により、HCV検査結果が陽性とされた者については、併せて医療機関における現在の診療状況について調査することとした。調査方法は平成13年調査と同様に、医療機関に追加調査分の調査票を配布し、対象者の同意が得られた場合に調査票に必要事項を記入してもらうこととした。
なお、当初、追加調査分の調査票記入期間を平成14年3月から平成14年4月末までと設定していたが、平成14年4月末までに調査票の回収率が5割に満たなかったことから、期間を延長し、遅延分についても平成14年10月まで可能な限り解析を行った。
結果と考察
検査受診状況については、検査を受けた者の総数は9,764人であった。このうち、分析可能な調査票数は9,202であった。また、非加熱血液凝固因子製剤の投与が確認された者は391人であり、追加調査については、そのうち293人から回答を得た。
肝炎ウイルスの感染状況については、製剤使用が確認された者については、HCVRNA陽性率は30.7%、HCV抗体陽性率は52.9%、及びHBs抗原陽性率は4.6%であった。一方、製剤使用の有無が確認できない者については、それぞれ4.1%、7.4%及び1.4%であり、両者の間では、それぞれ統計学的に有意差を認めたことから、製剤による感染の可能性が推定できる。しかし、本調査は、診療録等の記録以外は対象者の記憶に頼っており、情報が不確実な部分が存在することから、当該結果を一般化することは困難である。
製剤投与が確認された者について、輸血及びフィブリノゲン製剤の投与歴を調査し、製剤そのもの、あるいは輸血及びフィブリノゲン製剤によるHCV感染の寄与度を分析したところ、統計学的有意差は見られなかった。これは、当時の輸血後肝炎の発生率は15%程度と考えられていることから、製剤投与の事実が確認された者については、輸血等の感染への寄与度は小さいと推定される。
製剤投与が確認された者について、HCV遺伝子型検査を行ったところ、特段の傾向は示さなかった。国内血由来の製剤については、1bが多いと推測されたが、2bの遺伝子型が多かった。
製剤投与が確認された者について、現在の診療状況を調べたところ、HCVRNA陽性者もHBs抗原陽性者も、経過観察となっている者が多かった。
結論
今回の調査において、非加熱血液凝固因子製剤の投与を受けた者の群において、高い肝炎ウイルス感染率が認められた。また、非加熱血液凝固因子製剤の投与を受けた者のうち、輸血やフィブリノゲン製剤を併用した者の群において、HCVの感染率が有意に高いとの傾向は認められなかった。
非加熱血液凝固因子製剤の投与を受けた者で、HCVに感染していると確認された者の群においては、現在のところ重症化例は少ないものの、今後、医療機関における継続的かつ適切な診療が行われることが望まれる。

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