薬用植物の栽培・品質評価指針作成に関する研究事業(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100074A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用植物の栽培・品質評価指針作成に関する研究事業(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川原 信夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 柴田敏郎(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 飯田修(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 香月茂樹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 酒井英二(岐阜薬科大学)
  • 鈴木正一(石川県農業短期大学)
  • 米田該典(大阪大学)
  • 神田博史(広島大学)
  • 正山征洋(九州大学)
  • 鈴木幸子(東京都薬用植物園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、合成医薬品の安全性が問題視されるとともに、薬用植物に対する認識が高まってきている。しかし、薬用植物の利用量の増加に伴い、品質の低下や野生薬用植物の資源枯渇の恐れが生じている。最近では特にマオウとカンゾウが中国政府による砂漠化防止政策の一環として輸出が禁止されており、生薬業界では大きな問題となっている。同時に、日本における薬用植物栽培は中国等から大量に輸入される安価な生薬、さらには栽培農家の後継者不足等から衰退の危機に瀕している。そこで本研究事業では生薬の安定供給、一層の品質向上と優良種苗の確保並びに栽培技術の指導に役立つことを目的として、現在、輸入の途絶えている重要生薬カンゾウを中心にアミガサユリ、ウスバサイシン、ウツボグサ、オオバコ、テンダイウヤク、ヒナタイノコズチの7品目の栽培試験を行い、栽培・品質評価指針Part 10を作成すると同時に、現在までに指針が作成された46品目のうち、オオカラスウリ、クマコケモモ、コガネバナ、センブリ、ブクリョウ、ボタン、ムラサキ、モッコウの8品目については確認栽培を試み、栽培法の評価並びに問題点の検討を行った。また、カンゾウについては新規品質評価法の開発を試み、オウレンについては遺伝的多様性と系統分類に関する研究を行った。
研究方法
1.栽培指針収載品目並びに収載予定品目の栽培試験:(カンゾウ)生育及びグリチルリチン含量に及ぼす栽培土壌並びに栽培温度の影響を3年間ポットで栽培し、検討を行った。(ウイキョウ)カリウム施用量及び栽植密度が生育3年生株の生育および種子収量に及ぼす影響について圃場にて検討を行った。(アミガサユリ)本植物の種球りん茎と生産物及び生薬「バイモ(貝母)」の性状の関係について検討した。(カラスビシャク)種苗特性分類表の作成を目的として主要形質を選定し、それらに基づき収集した系統における形質の観察と測定を行った。(ウスバサイシン)特性を明らかにする目的で、葉の形状、果実の形状等の形態的特徴を調査した。また、肥料適応性を調べるため、ワッグネルポットによる肥料試験を実施した。(オオバコ)遮光条件、栽培密度について条件制定を行い、生育状況の観察を行った。また、種子も単独で生薬として用いるため、結実に関しても観察を行った。(ウツボグサ)種子島に自生している個体群を用いて栽培試験を実施した。(テンダイウヤク)京都薬科大学から果実を導入した系統を用いて栽培試験を実施した(ヒナタイノコズチ)収穫したヒナタイノコズチの含有成分の分析法を検討し、さらに乾燥日数と成分含量を試験した。また、2種1品種の栽培品について鏡検による内部形態の比較を行った。(カキドウシ)高温による生長点枯死を回避するためのトウモロコシ間作栽培の効果及び栽培経過年数と収量性との関係について検討した。
2.栽培指針既収載品目の確認栽培試験:オオカラスウリ、ムラサキ、コガネバナ、クマコケモモ、ボタン、ブクリョウ、センブリ、モッコウの栽培指針既収載8品目について栽培指針に基づいた確認栽培を実施し、収量及び特性分類表の調査項目について検討した。また発芽と発育についても検討を行った。
3.栽培指針既収載品目オウレンの遺伝的多様性と系統分類:セリバオウレンを基原とする主要3産地の栽培オウレンのDNAレベルでの差異を明らかにすると同時にCoptis属植物の種変種間差異をDNAレベルで明らかにすることを目的として、合計42検体のRAPD分析を行った。
4.カンゾウの新規品質評価法の開発:グリチルリチンの簡便かつ高感度分析を目的として抗グリチルリチンモノクロナール抗体(Mab)を作成し、ELISAの確立を試みた。
結果と考察
1.栽培指針収載品目並びに収載予定品目の栽培試験:(カンゾウ)根の生育及びグリチルリチン含量には栽培土壌や栽培温度の影響が強く現れることが判明した。(ウイキョウ)生育や種子乾物量並びに無機成分吸収量から考えて、生育3年目においては、10a当り1,000~1,250株以下の植栽密度、カリウム施用量は1株当たり10~15g程度で効率良い栽培が期待できると考えられた。(アミガサユリ)生薬規格に適合した大きさのりん茎を効率よく生産する方法を検討した結果、植え付け用種球の大きさは新鮮重量が10g前後のりん茎を用いるのが良いと考えられた。(カラスビシャク)本植物はやや日陰地によく生育するが、日向と日陰では植物の生長量が明らかに異なるため、特性調査時には同一条件で育成した個体群で測定、比較する必要があると考えられた。(ウスバサイシン)肥料試験の結果、本薬用植物の肥料への反応性は弱く、栽培に際して化学肥料は施用せず、元肥に緩行性肥料ないしは有機質肥料を少量施用する程度が良いことが確認された。(オオバコ)栽培試験の結果、オオバコの栽培化は比較的容易であることが明らかになった。しかし、遮光の有無により生育量や成分含量が大きく変化することが確認された。(ウツボグサ)株分けによる繁殖が適しており、栽植密度は30cm前後が良好であった。10a当たりの収量は生体重で350kg,乾物重で75kgが想定された。(テンダイウヤク)実生・挿し木による繁殖が適しており、実生による繁殖法の場合、10年後10a当たりの乾物収量は50~75kgと推測された。(ヒナタイノコズチ)根茎部の自然乾燥条件による乾燥日数は、およそ30日間が適当であると考えられた。また、内部形態の比較を行った栽培品2種1品種では木部の状態及びその後増大する部位の形式が通例の根の肥大成長の様式と全く異り、興味深い結果が得られた。(カキドウシ)栽培2年目の収穫量は栽培1年目の約1.3倍となった。これは日陰用植物の栽植効果によるものと考えられた。
2.栽培指針既収載品目の確認栽培試験:(オオカラスウリ)約3ヶ月の発芽期間に認められた種子の発芽は50個のみで、栽培にあたり効率的な発芽を促す方法の検討が必要と思われた。(ムラサキ)2年目の枯死株が非常に多く、土壌に原因があることも考えられた。摘花処理は1年目でも実施すると効果があることが確認できた。(コガネバナ)中途で移植法による栽培に切り替えたため、欠株も認められたが、収量的には栽培指針値に匹敵する収穫が得られ、指針の栽培法の妥当性が確認された。(クマコケモモ)夏の高温により茎の伸長が抑えられ、枯死するものが多かった。今後、定植法の改善し、敷き藁マルチなどの方法を適用し、葉焼けを防ぐ対策が必要と考えられた。(ボタン)各項目における生育調査は良好な結果が認められた。さらに収穫物のペオノール含量はすべて1.4%以上であり、本指針の栽培法の妥当性が確認された。(ブクリョウ)培養温度は25℃が良好であることが確認された。また、菌糸の接種は、雑菌が混入し難い3月から4月上旬に伏せ込むことが重要と考えられた。(モッコウ)秋~冬季採取品は収穫物の重量は確保できるが、品質的に不十分である。そのため、掘り上げ時期を詳細に検討する必要があると考えられた。(センブリ)収量を上げるためには発芽率の向上と冬季の土壌凍結の防止が重要であり、発芽率を向上させるために播種する土壌の鎮圧を十分に行う必要があることが判明した。
3.栽培指針既収載品目オウレンの遺伝的多様性と系統分類:RAPD分析の結果、C. chinensis、キクバオウレン、コセリバオウレン、セリバオウレンは明確に区別された。さらに変種間ではセリバオウレンとコセリバオウレンがキクバオウレンよりも近縁であると考えられた。
4.カンゾウの新規品質評価法の開発:生薬エキス等のグリチルリチンはTLCでは検出されなかったが、イースタンブロッティングにより、特異的な検出が可能となった。
結論
現在、輸入の途絶えている重要生薬カンゾウを中心にアミガサユリ、ウスバサイシン、ウツボグサ、オオバコ、テンダイウヤク、ヒナタイノコズチの7品目について栽培試験を行い、薬用植物栽培・品質評価指針Part 10として刊行した。また、他の数種の薬用植物については将来的な指針作成に向けた試験栽培を行い、データの蓄積を試みた。さらにカンゾウについては品質評価法の検討を行い、イースタンブロッティングによる新規検出法を開発した。同時に、現在までに指針が作成された46品目の一部、8品目については確認栽培を試み、栽培法の評価、地域特性の確認等の観点から問題点の検討を行い、今後の課題が明確となった。また、オウレンについては遺伝的多様性と系統分類に関する検討を行い、C. chinensis、キクバオウレン、コセリバオウレン、セリバオウレンは明確に区別された。

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