歯科診療におけるC型肝炎の感染リスクの低減効果に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200100072A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科診療におけるC型肝炎の感染リスクの低減効果に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
古屋 英毅(日本歯科大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 佐藤田鶴子(日本歯科大学歯学部)
  • 黒崎紀正(東京医科歯科大学医歯学総合研究科)
  • 池田正一(神奈川県立こども医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国のC型慢性肝炎患者の多くは、血液製剤によるHCV感染、小児期の予防接種や歯科治療における水平感染などが医療上の原因として疑われている。しかし、過去の歯科診療上での汚染がC型慢性肝炎罹患の一原因であるのならば、歯科界として、再度検討の上、院内感染の再徹底が急務となるである。そのために、HCVを利用して、実際の診療に汎用される歯科用器具・器材がどの程度の消毒・処理で、感染の危険をまぬがれるのか、また、実際面では消毒による器材の防錆対策をいかにすべきかについての検討がまず必要となった。さらに、あらためてHCVに対する知識や対応が歯科医間でどの程度普及しているかの意識・実態調査をアンケート調査で実施した。今回は大都市で、とくにウイルス肝炎の浸淫度の高いといわれている福岡県を対象とし、首都圏東京都を比較検討した。
研究方法
1.慢性C型肝炎患者から分離したHCV抗体、RNA陽性血液を歯科用治療器具に塗布し、一般的に歯科臨床で汎用されている消毒剤によりHCVを除去後、残留するHCVの定量を行い、どの程度除去できたかの判定を行う。これにより、除去された効果を知ることができる。HCVRNAはTaqManケミストリを利用したPCR法を実施し、HCV量の測定おこなった。(分担研究:鈴木哲朗)2.前記1の方法により、実際にHCVで汚染させた歯科用の治療器具(切削用具、歯内療法器具)を消毒用エタノール、塩化ベンゼトニウム、次亜塩素酸ナトリウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどの消毒液を至適濃度で作用させた。その後、残留したHCVRNAはTaqManケミストリを利用したPCR法を実施し、HCVの測定をおこなった。(分担研究:佐藤田鶴子)3.隔膜で分離した食塩液を電気分解して精製される強電解水はHCVに効果を示すといわれているが、強いpHのために金属が錆びる欠点がある。そこで、強電解水の精製装置にマイナスの微量電流を流すことによって防錆効果があることを調べた。(分担研究:黒崎紀正)4.主として開業歯科医、東京都内1928名、福岡県904名に各歯科医師会の協力の下、アンケート調査を行い(平成14年2月施行)、B型肝炎ウイルスに関する意識やワクチン接種に関する実態について、また、同様にHCVについてもその知識などを質問している。さらに、歯科診療上での診療者のウイルス防御の問題や歯科治療器具の消毒・滅菌についても設問している。(分担研究:池田正一)
結果と考察
1.TaqManケミストリを利用したRT-PCR法によるHCVRNAの定量法と歯科用器具に付着後に消毒し、残留したHCVの測定法が確立された。2.歯の切削用エアタービンヘッドなどの表面が比較的スムーズな金属性器具では、HCV付着後速やかに流水で洗浄することにより、HCVは十分に除去される。また、歯内療法用具リーマーなどの複雑な表面構造を有する器具では、消毒剤による前処理と流水洗浄の併用が有効であることが明らかにされた。3.食塩液を電気分解して精製される強電解水に5分間100mA以上の電流を通電させると、殺菌作用を示す残留塩素が存在し、かつ金属の腐食を防止することがわかった。これにより、強電解水を簡易のHCV汚染器具用滅菌液として使用できる可能性が示唆された。4.アンケート調査の回答から、ハンドピースやその附属品について患者ごとに滅菌していると答えている者は、東京、福岡とも約28%であり、一日一回の滅菌が東京・福岡とも約30%、消毒は全くしていない12~13%であった。歯科治療器具の使用時に対象者が感染しているとわかっている場合のみ滅菌していると回答した者は約20%であった。考察:今回、歯科領域
におけるHCV汚染は、かなり汚染されているという予測だけであった。しかし、実際には現場でどう処理されているかというアンケート調査結果から、何も処理していないとか、一日一回滅菌するとかであり、不十分もしくは何のための一回なのかという疑問が生じていた。回答をそのまま実態と解釈し、患者自身がHCV感染者として申告していなかったり、患者自身も感染を無自覚であった場合が多いことを想定すると、今回の実験結果をあわせても実際には、治療器具処理が不十分に行われていることが懸念された。これは、HCVの全国での最浸淫地区の福岡県でも、今回対象とした東京都でも特別に歯科医の意識上では違いがないところからも推察できる。今後はさらにHCVに関する啓蒙活動が必要であることがわかった。実験的研究では、実際に歯科用器具を用いてHCV塗布による汚染後の消毒効果、つまり、器具表面の残留HCVの測定を行ったが、その方法も確立することができた。さらに、それを応用した研究では、使用金属製器具の構造や表面の状態により、必ずしも滅菌をしなくとも、HCVに接触したら、乾燥してしまう前に、流水で洗浄し、至適濃度の消毒剤で対応することにより十分処理できることがわかった。このことは、一日一回という中途半端な滅菌よりも、治療器具の使用後に血液・唾液や歯の切削粉砕片が乾固する以前に直ちに消毒することの重要性を示唆するものであった。
結論
繁用されている歯科用器具・器材の消毒・滅菌処理のC型肝炎ウイルス(HCV)汚染を低減する方法を検討した結果、その方法はTaqManケミストリを利用したRT-PCR法によるHCVRNAの定量法が確立された。その応用により、使用金属製器具の構造や表面の状態により、必ずしも滅菌をしなくとも、HCVに接触後、乾燥する前に、流水で洗浄し、至適濃度の消毒剤で対応することにより十分処理できた。また、同時に消毒による器材の防錆対策として、食塩液を電気分解して精製される強電解水に弱電流を通電させると、殺菌作用を示す残留塩素が存在し、かつ金属の腐食を防止できた。さらに今後、HCVに対する知識や対応について歯科医療担当者への啓蒙活動が必要であることがわかった。

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