救命救急センターにおける重症外傷患者への対応の充実に向けた研究

文献情報

文献番号
200100069A
報告書区分
総括
研究課題名
救命救急センターにおける重症外傷患者への対応の充実に向けた研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
島崎 修次(杏林大学医学部救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 辺見弘(国立病院東京災害医療センター・救命救急センター)
  • 益子邦洋(日本医大千葉北総病院救命救急センター)
  • 小関一英(川口市立医療センター・救命救急センター)
  • 横田順一朗(大阪府立泉州救命救急センター)
  • 大友康裕(国立病院東京災害医療センター・救命救急センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在既に対応整備が整っていると考えられている日本の外傷医療であるが、病院前もしくは病院収容後の診療上の様々な問題点が存在し、救急医療の現場では、相当数の「避け得た外傷死(Preventable Trauma Death)」が発生していると指摘されている。また、外傷による死亡は20~30歳台のいわゆる生産人口における死因の第1位であり、その中でもPreventable Trauma Deathとは本来防ぎ得たかも知れないものであり、社会的損失は多大である。そのためにはまず全国の救急救命センターにおける外傷患者への診療実績を把握することが急務である。本研究では、全国の救命救急センターにおける外傷患者への対応に関する基本情報として、外傷患者の治療実績について、重症度を考慮した実態把握を行うことを目的とした。
研究方法
高度救命救急センターを含む全国の救命救急センターに対するアンケート調査を実施した。アンケート内容として、2000年1月から12月までの1年間を調査期間として、①救命救急センター入院患者総数、②外傷患者総数、③外傷患者死亡例数、④外傷CPA症例数、およびケースカードとして、各施設の外傷死亡症例に限って、外傷スコア把握のための損傷臓器、来院時意識レベル、収縮期血圧、呼吸数、直接死因などを記載することとした。回収された死亡症例ケースカードから,Revised Trauma ScoreおよびInjury Severity Scoreを計算し,症例毎の予測生存率をTRISS方式に則って算出した。各施設における外傷死亡症例(CPAOAを除く)のうち、「予測外死亡症例(予測生存率50%以上である死亡症例)」の数を計算し、死亡症例中の予測外死亡症例の含まれる割合を算出した。
結果と考察
全国158施設にアンケート用紙を配り、71.5%の有効回答を得た。2000年1月から12月までの全国救命救急センターにおける外傷による総死亡症例3568例中、CPAOA症例は1849例であった。残りの1719例中、予測生存率50%以上(=予測外死亡)の症例が836例(48.6%)あり、そのうちGCS5点以下の重症頭部外傷例121例あるいは年齢80歳以上症例184例を除いた修正予測外死亡数(避け得た可能性の高い外傷死)は622例(36.2%)であった。また、その診療成績には、大きな施設間格差や地域間格差が存在することも判明した。具体的には、死亡症例中の修正予測外死亡の比率が65%以上と高率である施設が8施設存在する一方、その比率が20%未満であった施設が9施設存在したからである。
我が国でこのような大規模かつ国レベルでの外傷患者に関する全国調査が行われたのは初めてであり、我が国における外傷治療の国家レベルでの検討の幕開けとも言える。全国の救命救急センターが取り扱う外傷死亡例だけでも年間4000例を超える数の外傷死亡が発生し、その約半数が外傷CPAOA症例であることが確認された。またCPAOA症例を除く外傷死亡症例の中では、修正予測外死亡数(避け得た可能性の高い外傷死)が36.2%にも昇ることが判明した。この結果は米国における30年前の調査とほぼ一致するものである。今回の調査で明らかとなった日本全国の救命救急センターで発生している「避け得た外傷死亡」症例の数は、現在の日本の救急搬送システムや医療レベルからみると、意外な結果であり、一般国民にそのまま受け入れられる数字ではないであろう。今回の調査結果をもとに、避け得た外傷死をいかに減少させるかについての検討、具体的には外傷治療の地域間格差や施設間格差をいかに解消するべきかの検討が必要であり、さらにその結果を踏まえた適切で迅速な対応策(施策)が望まれる。
また、米国におけるATLS(Advanced Trauma Life Support)の教育システムを手本とした日本版ATLS作りも日本救急医学会、日本外傷学会を中心に開始されており、外傷治療に関する卒前・卒後教育システム作りも急務である。
結論
我が国の外傷医療に関して全国の救命救急センターを対象にアンケート調査を行った。その結果、予測外死亡症例が約半数あり、その成績には大きな地域間較差や施設間格差が存在していることが判明した。この現状を是正するためには、①多数の外傷症例を取り扱う救命救急センターを中心とした外傷ネットワーク網の整備、②将来的にはそれを発展させた広域的なネットワーク(患者搬送システムを含む)と、その中心となる外傷センター(level 1)の配備、③外傷治療の中心となるATLSの卒前・卒後教育の重要性が必要であり、その適切かつ迅速な施策が望まれる。

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