標語等を利用した効果的な医療安全対策の手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100066A
報告書区分
総括
研究課題名
標語等を利用した効果的な医療安全対策の手法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(横浜市立大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、国による医療安全対策推進のために企画された①医療関係者の意識啓発のためのモデル標語の提示、②インシデント事例解析(医療安全対策ネットワーク事業)の基礎的作業として位置づけされる研究である。
(モデル標語作成):医療事故防止を推進し、国民の医療に対する信頼を回復していくためには、医療関係者一人ひとりの患者安全確保に対する意識向上を図っていくことが重要である。一般にこうした意識啓発の手法としては、問題に係る基本的な考え方を簡便な標語としてとりまとめ、パンフレット、ポスター等の媒体によって、関係者間に周知徹底していくことが重要とされている。本研究では、安全な医療を提供するために、標語等を用いて職員の意識啓発を進めている医療機関の取り組み事例を収集し、それに基づき、各種の標語類の分類、分析、モデル的な標語の作成を行うことを目的とした。
(インシデント事例データベース構造の開発):特定機能病院や国立病院等によるインシデント事例を収集・解析し予防対策を立案する事業を効果的に運用するためには、データベース構造の適切な設計が必要となる。本分担研究はそのインシデント事例データベース構造の設計を目的とした。
研究方法
(モデル標語作成):医療リスクマネジメントに先進的に取り組んでいる医療機関を対象として、患者安全確保に関する標語や具体的な取り組み事例の収集、調査を行った。そして、それらを分類した結果をもとに、医療安全の取り組みを構造化し、モデル的な標語の検討・作成および周知方法に関する検討を行った。
(インシデント事例データベース構造の開発):先進的な分析事例のデータベース構造をたたき台として、専門家により収集データ項目とそのコード体系が検討された。
結果と考察
(モデル標語作成):1.標語等の収集状況:医療安全対策に取り組んでいる医療機関及び日本看護協会会報を通じた公募等を通じて、88の医療機関から845の標語を収集した。
2.取り組みの構造化と分野ごとのキーワード抽出:収集された845の標語を分類し、構造化した。この結果、「理念」、「組織的取り組み」、「患者との関係」、「職員間の関係」、「職員個人」、「人と環境・モノとの関係」の6つの分野を抽出した。その中から、医療安全のために重要なキーワードとして、①安全文化、②問題解決型のアプローチ、③規則と手順、④対話と患者参加、⑤職員間のコミュニケーション、⑥危険の予測と合理的な認識、⑦自己の健康管理、⑧技術の活用と工夫、⑨与薬、⑩環境整備、の10の項目を取り上げた。
3.モデル標語:上記で抽出された10項目についてわかりやすく、覚えやすい標語として「安全な医療を提供するための10の要点」としてとりまとめた。それらは、①根づかせよう安全文化 みんなの努力と活かすシステム ②安全高める患者の参加 対話が深める互いの理解 ③共有しよう 私の経験 活用しよう あなたの教訓 ④規則と手順 決めて 守って 見直して ⑤部門の壁を乗り越えて 意見かわせる職場をつくろう ⑥先の危険を考えて 要点おさえて しっかり確認 ⑦自分自身の健康管理 医療人の第一歩 ⑧事故予防 技術と工夫も取り入れて ⑨患者と薬を再確認 用法・用量 気をつけて ⑩整えよう療養環境 つくりあげよう作業環境、である。
4.その活用方法:医療機関がこの標語を参考に自ら作り上げていくことが求められるが、重要なのは、それぞれの医療機関において職員自らが考えるそのプロセスが重要であるといえる。作成した標語は職員に周知することが重要であり、ポスター、パンフレット・冊子、ニュースレター、院内報、研修のテキストなど、の工夫を行うことが求められる。本研究で作成された標語は、平成13年度医療安全推進週間における、シンポジウムで発表された。また、同時期に、ポスターとして全国に配布された。
(インシデント事例データベース構造の開発):インシデント事例報告において報告されるべき項目が構造化され、データフォーマットが決定された。コード体系の上部構造は、A 《発生月》、B 《発生曜日》、C 《発生時間帯》、D 《発生場所》、E 《患者の性別》、F 《患者の年齢》、G 《患者の心身状態》、H 《発見者》、I 《当事者の職種》、J 《当事者の職種経験年数》、K 《当事者の部署配属年数》、L 《インシデントが発生した場面》、M 《インシデントの内容》、N 《インシデントが発生した要因》、O 《間違いの実施の有無及びインシデントの影響度》、となった。
結論
成果の内容としてまとめると、(モデル標語の作成)においては、①医療安全が構造化されて提示されたことで全体的な取り組みの構成が理解されやすくなった、②医療機関における安全文化の確立の重要性が公式に示され、強い価値付けが確定した、③医療機関の職員自らが安全標語づくりをするインセンティヴとなった、ことなどである。また、(インシデント事例データベース構造の開発)においては、①国の医療安全対策ネットワーク事業の基盤である報告内容の精密な構造が設計された、②これにより分析の精度が向上することが期待される、等である。

公開日・更新日

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