措置入院制度のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200100058A
報告書区分
総括
研究課題名
措置入院制度のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉住昭(国立肥前療養所臨床研究部社会精神医学室)
  • 森山公夫(一陽会陽和病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、措置入院制度および運用の問題点を明らかにするため、精神保健福祉法第25条に基づく通報に対する都道府県・政令指定都市の対応状況および措置入院および措置解除にあたっての精神保健指定医の判断基準の実態を、実証的なデータをもとに明らかにするものである。また「触法精神障害者」の起訴前精神鑑定およびそれに基づく検察官による起訴・不起訴の処分に関連する問題を明らかにするものである。
研究方法
「措置通報等に対する都道府県・政令指定都市の対応状況に関する研究」:47都道府県と12政令指定都市の精神保健福祉主管課の担当者に対して、都道府県・政令指定都市における措置入院制度の運用システムに関する質問票を送付し、回答を求めた。回収率は100%であった。
全国で平成12年度に精神保健福祉法第25条によって通報を受け、精神保健指定医による診断を行った事例、行わなかった事例全例について、通報書、調査書等の書面の写しをもとに、精神保健指定医による診断の要否判断が適切に行われているか評価した。本報告書の対象事例は、平成12年度630調査に基づく第25条通報数952件の86.1%にあたる820件である。
「措置入院および措置解除にあたっての精神保健指定医の判断基準の実態に関する研究」:全国で平成12年度に精神保健福祉法第25条によって通報を受け、精神保健指定医による診断を行った全事例について、実際の診断書の写しをもとに、精神保健指定医の措置要否判断の実態ならびに措置入院した事例の措置解除直後の状況についてまとめた。本報告書の対象事例は、平成12年度630調査に基づく第25条通報数952件の86.1%にあたる820件のうち、措置診察を行った625事例である。
「「触法精神障害者」の精神医学的評価に関する研究」:日本精神神経学会会員等を対象とした起訴前精神鑑定と措置診察、措置入院患者の診療に関するアンケート調査を行った。対象者は、日本精神神経学会会員8,672人の希望者および国公立精神科医療機関で司法精神鑑定を多く実施している機関・医師への個別協力依頼に応じた者であった。1,331通の調査依頼に対して666人(50.0%)から回答があった。
法務省刑事局から提供された、起訴前精神鑑定実施例に関するデータおよび起訴前精神鑑定を実施せずに不起訴処分としたケースに関するデータの分析を行った。
(倫理面への配慮)
「措置通報等に対する都道府県・政令指定都市の対応状況に関する研究」および「措置入院および措置解除にあたっての精神保健指定医の判断基準の実態に関する研究」においては、都道府県・政令指定都市から厚生労働省精神保健福祉課を経由して入手した、平成12年度の全国の措置入院に関する通報書、事前調査書、措置入院に関する診断書、措置入院者の症状消退届、起訴前鑑定書等の、氏名等の個別情報をマスクしたものを主な資料として用いた。これらの保管・管理には厳重な注意が必要であり、データ入力期間をのぞいて精神保健研究所内で管理した。また調査研究の終了後は、データはすみやかに精神保健福祉課をとおして返却または処分することとした。これらの研究に関しては、主任研究者の所属する国立精神・神経センター倫理委員会国府台地区部会において倫理審査を受け、研究の実施が承認されている。また措置入院制度の運用システムに関する質問紙調査は、システム面の調査であって倫理面への配慮を要する問題は特に発生しないと考えられた。
「「触法精神障害者」の精神医学的評価に関する研究」においては、日本精神神経学会会員に対するアンケート調査、法務省から提供された数値データの分析であって、倫理面への配慮を要する問題は発生しないと考えられた。
結果と考察
措置入院制度の運用システムの調査の結果、措置診察を行なう医師と措置入院受け入れ病院の独立性を保つことが難しい場合もあること、24条の措置診察を実施する指定医はある程度偏りをもっていると推測されること、25条通報における通報時期や捜査資料等の提供等についての対応は、統一されているとはいいがたいことがわかった。
平成12年度に精神保健福祉法第25条によって通報を受けた820例については625例(76.2%)に措置診察が実施され、464例(56.6%)が措置入院となっていた。195例(23.8%)は措置診察が実施されていなかった。不要措置診察と判断された事例のうち、その後、52例(26.7%)が精神科に入院し、57例(29.2%)が精神科に通院していた。また措置診察の結果、措置入院が不要であった161例のうち113例(70.1%)が、それぞれの判断が下された直後に精神科に入院または通院していた。第25条通報となる事例には、通報のみで必ずしも精神保健指定医による診察を必要としない事例も含まれており、精神保健指定医による診察要否決定のための事前調査が適正に行われる必要がある。このため精神保健福祉法第25条運用のガイドライン、事前調査書の様式を整備する必要があると考えられた。
措置診察が実施された625例の解析の結果、措置入院の判断は、要措置464例(74.2%)、措置不要161例(25.8%)であった。指定医2名の判断を受けた525例のうち、措置要否の不一致は15例(2.9%)であった。指定医が措置不要と判断したのは、状態像の経時変化が認められた事例など5つの類型があった。診断で最も多いのは「精神分裂病、分裂病性障害および妄想性障害・妄想性障害」であり、「精神作用物質使用による精神および行動の障害」が続いていた。625例のうち、診断の不一致で診断が確定できないものが29例(4.6%)あったが、診断名の不一致は、措置要否判断には大きな影響を与えていなかった。問題行動については、過去か、今後おそれのある問題行動か区分されていないという診断書の書式上の問題があった。現在の病状又は状態像については、該当項目の記載に不一致が多かった。以上のように措置入院の要否判断はおおむね一致しているものの、措置要否の判断の根拠となる、問題行動の書式の問題や現在の病状又は状態像の記載の不一致のある事例がみられた。また措置入院の要否判断について基本的な考え方を整理すべき事例がみられた。精神保健指定医による判断の標準化に向けて、措置要否判断の具体的な指針、精神症状や問題行動把握のためのアセスメントツール、指定医の診断技術を高めるための研修の実施、措置入院に関する診断書の書式の改訂などが検討課題と考えられた。
日本精神神経学会会員等を対象としたアンケート調査回答者のうち210人(31.5%)に簡易鑑定の経験があった。簡易鑑定の結果と検察官の判断が異なる経験をした者は35人(16.7%)であった。第25条通報から措置入院となった人の診療に携わったことがあるのは332人で、検察官の起訴猶予ないし不起訴処分について「適切でないことがあった」と回答した者は90人(27.1%)であった。また法務省刑事局から提供されたデータ分析の結果、平成12年に簡易鑑定は2,042件で、責任能力あり48.5%、限定責任能力あり25.7%、責任能力なし20.9%、その他4.9%であった。平成8年~12年の5年間で不起訴(心神喪失・心身耗弱)処分に付した事件で起訴前鑑定を受けていなかった者は20.5%であった。鑑定を実施しなかった者には、事件当時に精神科治療を受けていた者、知的障害者援護施設等入所中の者が多かった。日本精神神経学会会員等を対象としたアンケート調査と法務省刑事局から提供されたデータの分析から、刑事手続きにおける起訴前鑑定の位置付けの明確化と鑑定内容の均質性の確保が必要と考えられた。
結論
措置入院制度および運用の問題点を明らかにするため、精神保健福祉法第25条に基づく通報に対する都道府県・政令指定都市の対応状況、措置入院および措置解除にあたっての精神保健指定医の判断基準の実態を、実証的なデータをもとに明らかにした。また「触法精神障害者」の起訴前精神鑑定およびそれに基づく検察官による起訴・不起訴の処分に関連する問題をアンケート調査と法務省刑事局のデータをもとに分析した。
措置入院制度の運用システムの調査の結果、措置診察を行なう医師と措置入院受け入れ病院の独立性を保つことが難しい場合もあること、24条の措置診察を実施する指定医はある程度偏りをもっていると推測されること、25条通報における通報時期や捜査資料等の提供等についての対応は、統一されているとはいいがたいことがわかった。
平成12年度に精神保健福祉法第25条によって通報を受けた820例の分析の結果、精神保健福祉法第25条運用のガイドライン、事前調査書の様式を整備する必要があると考えられた。
措置診察が実施された625例の解析の結果、精神保健指定医による判断の標準化に向けて、措置要否判断の具体的な判断指針、精神症状や問題行動把握のためのアセスメントツール、指定医の診断技術を高めるための研修の実施、措置入院に関する診断書の書式の改訂などが検討課題と考えられた。
日本精神神経学会会員等を対象としたアンケート調査と法務省刑事局から提供されたデータの分析から、刑事手続きにおける起訴前鑑定の位置付けの明確化と鑑定内容の均質性の確保が必要と考えられた。
今後は精神保健福祉法第25条以外の措置入院制度の運用実態についても本研究と同様の調査を行うとともに、措置入制度運用のモニタリング体制の整備を図る必要がある。

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