狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)に関する研究

文献情報

文献番号
200100056A
報告書区分
総括
研究課題名
狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内基広(帯広畜産大学)
  • 古岡秀文(帯広畜産大学)
  • 沢谷広志(神奈川県食肉衛生検査所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では過去にEUからの牛および肉骨粉の輸入があったこと、および羊のスクレイピーが散発していることから、我が国におけるBSEおよび羊スクレイピーの存在状況に関する正確な情報を得ることを目的としてサーベイランスを実施する。
本年9月には国産牛での発生が報告され、と殺牛の全頭検査が開始された。そこで、と畜場でと殺解体され、スクリーニング検査(ELISA)において陽性と判定された牛を対象に、確認検査を実施するウエスタンブロット法及び免疫組織化学の迅速化と高感度化を計り、プロトコールの作製を目的とした。
さらに、牛の特定危険部位(脳、眼、脊髄及び回腸遠位部)を確実に除去できる手法及び特定危険部位が可食部に付着しないと畜・解体方法について研究・開発するとともに、これらの部位の可食部への汚染状況等を調査・検証することにより、食肉の安全性の確保を図ることを目的とする。
研究方法
1 プリオン病調査
全国各地のと畜場に搬入された牛で神経症等を示すもの、および18ヶ月齢以上の羊及び山羊を対象にウエスタンブロット法によるBSE及びスクレイピーの検査を行い、BSE及びスクレイピーに関する疫学研究を行った。
ウエスタンブロット法及び免疫組織化学的診断法の迅速化と高感度化のために、診断精度を落とさず、感度向上と時間短縮を目標に各段階を検討した。
全頭検査開始後はELISAによるスクリーニング検査で陽性と判定されたものを対象に、確認検査としてウエスタン・ブロット法、病理組織学的検査、免疫組織化学的検査等を行い、最終的に専門家による確定診断を実施するとともに、と畜検査員への技術移転を行った。
2 と畜・解体法等の研究・開発
諸外国におけるBSE診断法に関する情報を収集し、診断に関するマニュアルを作成するとともに、モデルとなると畜場を選定し、と畜・解体作業における特定危険部位(脳、眼、脊髄及び回腸遠位部)の除去方法等について、諸外国における実態等を参考に、わが国のと畜場に見合った簡便かつ迅速な手法について開発した。
特に、背割り工程による枝肉への脊髄の飛散については、脊髄組織に多く含まれるGFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein グリア細胞繊維性酸性タンパク質)をELISA法により検出し、適切な背割りの方法を開発・検証するとともに、枝肉への脊髄の付着状況、トリミング肉への残留状況等ついて調査した。
3 都道府県等において実施しているスクリーニング検査に対する外部精度管理の実施
都道府県等の食肉衛生検査所において実施しているスクリーニング検査(ELISA法)結果の信頼性を確保するため、外部精度管理を実施した。
4 研究班員に専門家を加えた班会議を開催し、BSE検査法及び背割り行程等について得られた結果及び文献等に基づいて検討した。
行政に反映できる検討結果は速やかに反映させた。
結果と考察
1.ウエスタンブロット法の試料調整法を改良し、ブロット条件の検討を行った。この結果積算値で8時間程度で結果が得られるまでになった。また、検出感度は全頭検査に用いられているELISAキットの約4倍程度高いことが判った。
2.免疫組織化学法の固定条件の検討、プリオン不活化処理の導入及び染色条件等を検討し、積算時間で12時間程度で結果が得られるまで迅速化できた。
3.と畜場でと殺された神経症状が疑われた牛等について、10月18以降全頭検査が実施されるまでBSE検査(パッシブサーベイランス)を、また18ヶ月例以上の羊及び山羊の全てについてスクレイピー検査(アクティブサーベイランス)を実施した。このサーベイランスで検査した牛203頭及び羊22頭及び山羊2頭は全て異常プリオン蛋白が陰性であった。
4.背割り前の脊髄除去法と脊髄汚染を調べ、吸引式で脊髄除去率が高いものは汚染は低いが硬膜が残存し、大阪押出式は脊髄の除去率は高いが汚染も高い傾向があった。千葉改良押出式は脊髄の除去率が高く汚染は低い傾向があった。吸引式と押出式の優劣を付けられなかった。事前の脊髄除去は枝肉への脊髄組織の付着防止上で有効で、十分な枝肉洗浄併用により、枝肉の脊髄組織汚染・残留を防止できることが判った。このことから、早急に全国レベルで脊髄除去を開始することが食肉の安全性を高めるうえで必要である。
5.ピッシングによる中枢神経組織の血液中への混入は大部分が陰性であったが、検出限界を越すものが少数存在し、ピッシングによる中枢神経組織の血液中への混入はないと結論できなかった。この点はさらに検討する必要がある。
6.班会議の検討の結果、確認検査の改良法が実施に移され、また、羊及び山羊のBSE発生の危険性が指摘された結果、特定危険部位の決定と除去が決められた。    
結論
1.神経症状を呈した牛203頭は全てBSEの異常プリオン蛋白は陰性であった。
2.検査した18ヶ月齢以上の羊22頭及び山羊2頭はそれぞれスクレイピーの異常プリオン蛋白は陰性であった。
3.全頭検査で2頭がBSEの異常プリオン蛋白陽性であった。
4.ウエスタンブロット法の簡便化および迅速化を行い、所要時間およそ8時間、現行ELISAの4倍以上の高感度化が実現し、プロトコールを作製した。
5.免疫組織化学的診断法の迅速法を開発し、積算時間12時間までに迅速化した。本法を用いて,2頭のBSE陽性牛の確定診断を行った。プロトコールを作製した。
6.背割り前の脊髄除去法と枝肉等の脊髄汚染を調べた。吸引式で脊髄除去率が高いものは汚染は低いが硬膜が残存し、大阪押出式は脊髄の除去率は高いが汚染も高い傾向があった。千葉改良押出式は脊髄の除去率が高く汚染は低い傾向があった。吸引式と押出式の優劣を付けられなかった。事前の脊髄除去は枝肉への脊髄組織の付着防止上で有効で、十分な枝肉洗浄併用により、枝肉の脊髄組織汚染・残留を防止できる。
7.ピッシングにより中枢神経組織の血液中への混入は大部分が陰性であったが、検出限界を越すものが少数存在したため、ピッシングによる中枢神経組織の血液中への混入はないと結論できなかった。
8.研究班会議の提言に基づき、確認検査の改良法が実施に移された。また同様に、羊及び山羊のBSE発生の危険性が指摘されて、特定危険部位の決定と除去が決められた。

公開日・更新日

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更新日
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