食品中のかび毒のリスクアセスメントに関する調査研究

文献情報

文献番号
200100054A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中のかび毒のリスクアセスメントに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 進(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 芳澤 宅實(香川大学)
  • 伊藤 嘉典(国立感染症研究所)
  • 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 砂川紘之(北海道立衛生研究所)
  • 田端節子(東京都立衛生研究所)
  • 中島正博(名古屋市衛生研究所)
  • 田中敏嗣(神戸市環境保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第56回JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会合)において、国際的整合性を備えた基準値設定を前提として、デオキシニバレノールやアフラトキシンM1を含む数種のかび毒について毒性評価が討議された。さらに今般、我が国において春撒き小麦のデオキシニバレノール高濃度汚染が見出され、また、CODEX(FAO/WHO合同食品規格計画)委員会において、乳・乳製品中のアフラトキシンM1の基準値(0.5μg/kg)が採択された。こうしたことから、国際的な基準値の整合性を図る観点からも、また我が国における基準値設定を検討するためにも、早急に国内流通食品のこれらかび毒の汚染実態を明らかにすることが必要となった。
また、国内におけるかび毒汚染については、アフラトキシンB1のみに関しては食品中から検出されてはならないとする規制があるが、アフラトキシンM1を含めその他のかび毒についての規制は皆無であることから、現状で問題となってるかび毒について、汚染実態を含め広く調査研究を行い、それを踏まえて規制のあり方を検討することが急務となっている。
本研究の目的は、我が国において流通している食品中の食品衛生上問題のあるデオキシニバレノールやアフラトキシンM1等のかび毒について、汚染実態を含め、リスクを究明することにある。 デオキシニバレノールについては、汚染の主な対象である小麦はそのまま食されることがないことなどから、加工工程での分解等の知見が必要となる。こうした加工工程における知見も含めた汚染実態の究明により、リスク評価が可能となり、基準値を設定した場合のリスク現象効果の推定や妥当な基準値の選定が可能となる。さらに、発がん性のかび毒等のリスク評価の方法に関する知見を広く収集し検討を加えることによって、精度の高いリスク評価を行うことが可能となる。
研究方法
I.我が国における牛乳のアフラトキシンM1汚染実態
33都道府県で製造された市販牛乳各1?46検体、合計208検体について、イムノアフィニティーカラムによる精製を行った後に、HPLCにより分析した。確認試験として、トリフルオロ酢酸で調整した誘導体をHPLC叉はTLCに供した。
II.我が国における麦類のDON汚染実態
輸入小麦と国産小麦、はだか麦、大麦、合計81検体について、アセトニトリルー水混液により抽出、マルチカートリッジカラムにより精製してから、HPLC-質量分析計により分析した。
結果と考察
いづれの牛乳サンプルも、0.05ppb未満であり、平均M1濃度は0.009ppb、90パーセンタイルが0.014ppbであった。地域的な偏りは認められなかった。これら結果より、直ちに対策を講じる必要はないが、今後さらに当分の間毎年、調査を行うことによって汚染実態を確認し、それを踏まえて対策の必要性を検討すべきものと考えられた。アフラトキシンM1濃度の実態調査を行った結果から推定したM1による肝臓がん発生率は無視できる範囲であると考えられ、直ちに対策を講じる必要がないと考えられた。牛乳中M1濃度は、主に飼料中のB1汚染レベルを反映すると考えられ、それはまた原料トウモロコシ等の収穫年の気象状態に左右されることがわかっているため、今後さらに当分の間毎年、調査を行うことによって確認し、それを踏まえて対策の必要性を検討すべきものと考えられた。
輸入小麦と国産小麦、はだか麦、大麦、合計81検体について分析した結果、輸入小麦のDONについては、検出未満から740ppbの範囲、国産小麦については、一地域のDONは検出未満から10ppbの範囲、他の地域のDONは2ppbから2248ppbの範囲であった。 JECFAが設定した暫定耐用摂取量の1μg/kg体重/日に相当する汚染レベルを越えるサンプルが一部認められたことから、今後、小麦についてDON摂取による健康危害を未然に防止するための対策を検討する必要があるものと考えられた。あわせて検討したNIVについては全ての小麦が27ppb以下、はだか麦についても110ppbの1検体以外はいずれも48ppb以下であり、これまでに報告されている毒性影響のデータを踏まえ、直ちに対策が必要なレベルではないものと考えられた。本研究では、優先度が高いと考えられた麦類について調査を行ったが、米についても一部の国でDON汚染が認められていること、我が国では米の消費量が比較的多いことなどから、今後は米についても汚染実態を究明することが必要である。小麦に関してもさらに、これまでに得られているデータが極めて少ない加工工程に伴う減衰について、詳細に研究する必要がある。また、毒素産生菌の発生は気候条件の影響を受けやすいことから、継続して毎年汚染実態のデータをとり続けることが必要である。
以上のデータは国際的に公表し、かび毒のリスクアセスメントに関するJECFAその国際機関による活動に活かす。
結論
33都道府県で製造された市販牛乳各1?46検体、合計208検体についてアフラトキシンM1濃度の実態調査を行っった結果、平均M1濃度は0.009ppb、90パーセンタイルが0.014ppbであった。牛乳平均摂取量=114.4gであるので、M1平均摂取量=1.03ng/日/人、M190パーセンタイル摂取量=1.61ng/日/人である。JECFAが示したM1による肝臓がん発生率、B型肝炎ウイルス陽性率=1%、体重50kgとすると、平均0.0206ng/kg体重/日の摂取量となり、平均発生率=0.0206 x0.00129=0.0000265人/年/106人=2.65人/年/1010人と推定される。この推定値から、現状の汚染レベルであれば、それによる肝臓がん発生はゼロに近い無視できる範囲であると考えられた。輸入小麦と国産小麦におけるDONとNIVの汚染実態を究明するために、3カ国由来の輸入玄麦と国産品については2地域由来の玄麦をそれぞれ分析に供した。輸入小麦のDONについては、検出未満から740ppbの範囲、国産小麦については、一地域のDONは検出未満から10ppbの範囲、他の地域のDONは2ppbから2248ppbの範囲であった。JECFAが設定した暫定耐用摂取量の1μg/kg体重/日に相当する汚染レベルを越えるサンプルが一部認められたことから、今後、小麦についてDON摂取による健康危害を未然に防止するための対策を検討する必要があるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-