診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100049A
報告書区分
総括
研究課題名
診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野 教授)
研究分担者(所属機関)
  • 石崎達郎(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野 助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の財源・資源の有限性が一層強く認識される中、医療の質を保証し医療資源を効果的・効率的に配分することの社会的重要性は、益々顕著となってきている。その医療の限られた財源の配分プロセスの鍵は、診療報酬制度・政策である。ケースミックス分類(DRG、診断群分類とも呼ばれる)は、臨床的類似性と消費資源量により症例を数百のグループに分け医療の効率と効果を測定するツールであり、医療のニーズを把握し、診療報酬制度・政策を評価し計画していく基盤となるものである。ルーチンに得られる日常の診療関連データに基づき、ケースミックス分類を用い、診療パフォーマンス評価のための指標を系統的に日常的に算出する手法の体系化・標準化を行う。即ち、以下の二つを目的とする。【Ⅰ.原価計算の標準化】実行可能性高く妥当な「原価計算」標準方法の詳細を明確化すること(この際、個別症例、ケースミックス分類、部門、それぞれのレベルで原価を測定する)。【Ⅱ.臨床パフォーマンスの測定】多軸的な重症度情報に基づき「重症度補正・層別化の方法論」を開発しその安定化・一般化を図ること。また、多側面の指標により、入院医療のプロフィールを描出する方法論を開発すること。
研究方法
【Ⅰ.原価計算の標準化】の研究に関しては、原価計算が有効に実働している病院は少ないため、まずそれらを見出すことが必要である。経営管理において先進的な12病院を一次調査し、詳細調査の対象として4病院を選んだ。調査項目の骨格と内容、裏付けとなる理論および情勢分析、ならびに海外における病院原価計算の手法に関して既存の文献を参考にした。調査項目は、(1)経営主体、病床数など病院の概要;(2)部門の区分と構造;(3)各原価の算出方法におけるデータ源、直課または配賦方法、タイムスタディ実施方法;(4)部門間の配賦方法と配賦基準;(5)意思決定への利用方法;(6)その他:部門別原価計算を開始した年、実施頻度、計算に要する期間、担当部門、原価計算実施上の重要点、原価計算実施上苦労する点、新たに部門別原価計算を開始する病院へのアドバイス、実施している他の原価計算、今後の展開など、を問うた。また、情報基盤を鑑み、患者別の原価を算出するしくみを検討し、設計した。さらに、ケースミックス分類ベースの原価の算出について、個別症例を積算する方法と、サービス毎の重み付けのモデルに基づき推計する手法とを検討した。【Ⅱ.臨床パフォーマンスの測定】については、既に収集した28万件のデータを用いて、医療のプロセス、アウトカムの側面から、臨床パフォーマンスの測定、解析を行った。国内外の標準との整合をも考慮した上で、ケースミックス分類のデータ構造・データセットを規定し、データを収集する方法論については、今までの実績に基づいて行った。【倫理面への配慮】症例のデータを取り扱うにあたっては、最大限の考慮を払って患者のプライバシーを厳守し決して不利益が及ばないようにする。個人情報保護のガイドラインや法制化動向に則って取り組む。データ取扱い運用上も、研究関係者個人個人の留意を喚起、徹底して、かつ、システム的な措置を取る。必要性が考慮される場合には、患者の承諾を十分な説明のもとに書面で得る。また、同様に、データ提供協力施設に関しても、そのプライバシーを厳守し不利益が及ばないようにする。データに関しては、個人や施設が同定できない形で、集団を対象とした集計・統計解析結果を公表する。
結果と考察
【Ⅰ.原価計算の標準化】(1)原価の算出のデータ源については、4病院ともに医事・
給与・資材・財務などの各データを整備し、それらの原価計算システムへの結合が図られていた。直課できるものはできるだけ直課するという基本姿勢が全体的にうかがえた。タイムスタディの実施方法については、「医師に対して自記式で一週間」という点で4病院間での共通性が見られた。部門間の配賦の方法は、4病院ともに階梯式で共通していた。配賦基準は、かなりの共通性が見られたものの、一部、収入比のみを用いている病院と他の基準を多く用いている病院とに分かれた。意思決定への利用については、定常的な事例としては、病院のトップと各部門の長との間で行われる「予算作成前のヒヤリング」が共通していた。また、損益分岐点分析では、薬剤・材料費のみを変動費としている病院が多かった。4病院間で共通性が見られたのは主として次の7点であった。①原価の算出に用いるデータ源は医事・給与・資材・財務などの各データであり、それらは原価計算システムとして結合できるようになっていた。②簡易なタイムスタディを医師に対し実施し、その方法は「自記式で一週間」が主流であった。③原価の部門間配賦の方法として、階梯式配賦法を採用していた。④原価計算は毎月実施され、その結果は1~2か月後には院内で公表されていた。⑤意思決定への利用としては予算編成前のヒヤリングでの使用が見られた。⑥損益分岐点分析では、薬剤・材料費のみを変動費とし、それ以外を固定費として処理する方法が主流であった。⑦診療科別原価計算を部分的に実施し、疾病別原価計算を検討している病院が多かった。(2)ケースミックス分類をベースにした原価を算出するためには、検討の結果、以下の基本方針が、診断群分類別の原価推定に有用であると考えられた。①患者別原価(入院症例別)を推定すること。②部門別原価計算の枠組みを活用し、その要素を組替えて患者別減価を算出すること、③診断群分類別原価は患者別原価を積み上げること、である。また、患者別原価計算には、医療資源消費に基づく診断群分類の構築に役立つ、診断群分類の改訂に対応できる・役立つ、症例ごとのマネージメントに役立つ、といった利点がある。(3)患者別の原価計算の手順は、①部門と階層の設定、②各部門の原価算出、③間接的部門原価の直接的医療部門への配賦、④直課できるものは患者に直課する、⑤直接的医療部門の原価を個々の患者に按分する、といったプロセスが必要である。部門の設定については、直接的な医療部門と間接的な部門に区分けすることが基本となる。各部門の原価算出については、各データ源の給与費、薬剤・材料費、経費、減価償却費などを各部門に直課または配賦することになる。さらに、薬剤・診療材料など直課できるものはできるだけ患者に直課し、間接的部門原価の直接的医療部門への配賦をし、日数・使用回数等で直接的医療部門の原価を個々の患者に按分する。例えば、手術室については、 [手術時間×人数]比あるいは外保連ウェイト比などを、薬剤費以外の薬局については、調剤数比、払出し件数比などを用いることが考えられる。【Ⅱ.臨床パフォーマンスの測定】臨床的なパフォーマンスの測定においては、(1-1)アウトカムの視点では、冠動脈バイパス手術など虚血性心疾患治療の死亡率を層別化し、より臨床的に妥当な方法で重症度と臨床像を鑑みて症例を層別化し死亡率比較を行えるしくみを開発した。(1-2)プロセスの視点では、乳癌の手術における乳房温存術の導入割合が施設により大きく異なることを示した。子宮筋腫の手術方法においてはさらに大きな施設間の違いが示された。(2)特定の疾患群で、年齢、重要な副傷病を持つ率、手術緊急性、といった重症度の側面、術前日数、在院日数、一日医療費、一入院診療報酬合計実額といった資源消費の側面、死亡率といった臨床の質の側面、からなる多側面の評価を行い、そのプロフィールをもって病院比較を有意義な形で行うしくみを開発した。病院により、効率良く臨床成績もよいもの、診療報酬は高いが活動度も高く患者の病態も重く臨床成績も良いもの、など、病院毎の特徴あるプロフィールを得ることができた。
結論

【Ⅰ.原価計算の標準化】については、病院の実態調査を行い、海外での動向を踏まえ、わが国の医療環境と情報基盤を鑑みても、精度と実行可能性とを兼ね備えた妥当な病院原価計算の標準的な方法を、部門、個々の症例、ケースミックス分類といった各々のレベルで確立しうると考えられ、そのフレームワークを示すことができた。【Ⅱ.臨床的なパフォーマンスの測定】においては、アウトカムの視点では、冠動脈バイパス手術など虚血性心疾患治療の死亡率を層別化し、より臨床的に妥当な方法で重症度と臨床像を鑑みて症例を層別化し死亡率比較を行えるしくみを開発した。プロセスの視点では、乳癌の手術における乳房温存術の導入割合が施設により大きく異なることを示した。子宮筋腫の手術方法においてはさらに大きな施設間の違いが示された。特定の疾患群で、年齢、重要な副傷病を持つ率、手術緊急性、といった重症度の側面、術前日数、在院日数、一日医療費、一入院診療報酬合計実額といった資源消費の側面、死亡率といった臨床の質の側面、からなる多側面の評価を行い、そのプロフィールをもって病院比較を有意義な形で行うしくみのプロトタイプを開発し、病院により、効率良く臨床成績もよいもの、診療報酬は高いが活動度も高く患者の病態も重く臨床成績も良いもの、など、病院毎の特徴あるプロフィールを得ることができた。

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